戻るなんて選択肢はないので、絶対魔法使いの弟子になってみせます。

井藤 美樹

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第三章 働き始めていきなりこれですか

第三話 危ない本も取り扱ってるみたいです

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 そのお客様が『なんでも本屋』を訪れたのは、閉店間際、陽が暮れようとしていた頃だった。

 常世にしては珍しく背広を着た老紳士だった。彼は帽子を脱ぐと、軽く私に会釈する。

 紳士的な人のようだけど、何かが神経に引っ掛かった。それが何なのか分からない。僅かに抱く警戒心。でもそれを表に出さないよう注意した。だって、お客さんだもん。

 本を買いに来たんじゃないみたい。老紳士は右手に風呂敷袋を抱えている。

(持ってるのは本? もしかして、傷でもあったのかな?)

「いらっしゃいませ」

 緊張しながら老紳士に声を掛ける。

「こんばんは、お嬢さん。伊織殿は御在宅かな?」

 伊織さんの知り合いみたい。友達かな。でも、伊織さんは今店にはいない。「留守です」って答えようとした時だ。

「すみません。伊織は今席を外しておりまして。代わりに私が承りますが」

 いつの間にか後ろに立っていたサス君が、代わりに答え応対する。

(あれ?)

 いつもより、雰囲気が固い気がする。少し緊張してるのかな? サス君にしては珍しいよね。

 仕事の邪魔にならないように、サス君と老紳士からソッと離れる。

 離れた私を、あやかしの子供たちが呼んだ。漫画を買いに来てくれたあの子たちだ。あれから頻繁に遊びに来ては、色々なことを教えてくれた。兎月堂の饅頭の美味しさを教えてくれたのも、この子たちだった。

「鑑定に来てるんだよ、たぶん」

 一つ目の子、れんが顔を近付けてくる。

「鑑定?」

 自然とヒソヒソ話になる。

「うん、そう。たまにあるみたいよ」

 髪の毛が蛇の子、小太こたが続ける。

 犬(狼)の顔をした子、刀牙とうがも頷く。刀牙君はいつもフサフサで良い毛艶だよね。頭撫でたいな。尻尾をモフリたい。駄目だよね……。そんなことを考えてると、刀牙がブルッと震えた。あっ、ごめん。

「顔ちけーよ、お前ら!! 睦月。お前、そんなこともしんねーのかよ」

 鬼の子、けいが悪態を吐く。 それを見て、他の子たちが、「またかよ……」と溜め息を吐いた。

「知らないから、訊いてるんじゃない」

 言い返す。すると、何故か悔しそうに桂は黙り込んだ。

「(あ~~ほんと、学習しないよな)あのお爺さんが持って来たのは〈鬼書〉じゃないかな」

 へそを曲げた桂の代わりに答えたのは刀牙だった。

「キショ?」

「(桂らしいけど)鬼の本と書いて、鬼書。鬼が宿った本のことだよ」

 廉が続けた。

「鬼が宿った?」

(鬼って、本に宿るものなの?)

「(子供だよね)うん。正確に言えば、思念が変わったものもあるけどね」

 小太が補足する。

 却って、ますます分かんなくなっちゃったよ ~~。あっ、でも、危険な本だってことは十分分かったよ。そういう本が集まるのもね。

 さすが異世界。本屋も普通じゃなかったです。


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