上 下
13 / 46
第三章 働き始めていきなりこれですか

第一話 なんでも本屋

しおりを挟む

 百段以上続く細い石畳の階段の頂上に、伊織さんが経営する本屋があった。

 外観は蔵だが、店内は温かみがある木造で統一されている。

【常世】唯一の本屋さんだ。

 趣があって良い本屋だと思う。だけどね。

 この本屋の店名を聞いた時、思わず「マジですか?」って訊いちゃったよ。だって、『なんでも本屋』だよ。ふざけてなかったら、超残念な壊滅的なネーミングセンスだよね。うん。苦手なものが誰にでもあるんだって実感した。

 でもね。

 この本屋は、そもそも伊織さんが始めたものじゃなかったんだって。先代から受け継いだものだって、この前小町さんから聞いた。ということは、先代のネーミングセンスが最悪だったわけだ。

 何でも取り揃えることが出来るから、先代は『なんでも本屋』という店名にしたらしい。自信があるのは分かるよ。でも安易っていうか……もうちょっと捻ろうよ。

 代替わりしても、分かり易いから、伊織さんは敢えてそのままにしてるって、小町さんが教えてくれた。定着しちゃったんだね、その残念な店名。

 この本屋で取り揃えているのは、絵本から漫画(日本の物も)、古代史に文芸、あらゆる分野の著作物。果ては、魔法書と呼ばれる怪しげな類いの書物まで、多種多様にわたっている。

 因みにこの前、ここを突撃した子供たちが買って行ったのは、私でもよく知ってる超有名な週刊漫画の雑誌だ。

 伊織さん曰く、特別な入手ルートがあるんだって。

 ここ一応異世界だよね。ほんと、不思議な本屋。仕組みに関しては、伊織さんも小町さんも詳しくは教えてくれなかった。

 伊織さんに認めてもらえたら、教えてくれるのかな……。仕方ないけど、ちょっと寂しい。でもだからかな、頑張ろうって思えるんだ。

 まだまだ教えてもらえないことは多いけど、それでも実際に生活していて知り得ることもただあった。

【常世】の住人が日本語を話してるんじゃなくて、私が彼らの言葉を意識せず話しているってことだ。当然、読み書きも出来る。それはそれでとても頼もしいけど……。

 あっ、でも、【常世】が【日本】に似てるのにも理由があったよ。

 理由はズバリ、隣接した世界だからだ。

 そもそも、私が住んでいた【地球】と【常世】は、一つの壁を隔てて存在している。

 その壁はとても柔らかくて、薄いものなんだって。そして、とても強く決して破けない。簡単に破けたら大変だよね。大変で済まないか。

 薄いから、時には日本で【常世】の様子が映し出されることもあった。勿論、反対も。

 特に地球で、【常世】に一番密接してるのが日本らしい。

 隣接すると、何で似通うのかは分かんない。まぁ……色々あるらしいけど、私にはあんまり関係ないかな。聞いてもよく分かんないし。でも、ご飯が日本食に近いのは嬉しいかな。

 そうそう、これは余談だけど、日本の昔話に出てくる鬼の原型は鬼人らしいよ(小町さん談)

 ちょっと横路にそれたけど、注意すべきなのは、異世界を繋ぐ通路は無数に存在しているってことだ。

 稀に、色々な偶然が重なって、不運にも門が開き勝手に繋がってしまうことがある。どこで門が開くのかは分からないから、偶々通り掛かった人が運悪く堕ちてしまうことがあるみたい。

 最悪だよね。

 墜ちた先が【常世】のような世界なら、まだマシだけど。そうでなかったら……考えただけで怖くなる。

【常世】は日本に一番密接しているから、堕ちて来るのは日本人が多いって、小町さんが言ってた。

 でも、問題が一つあるんだ。

 例え薄くても、それぞれの世界を隔てる壁を越えるということは、当然、体と精神に莫大な付加が掛かる。

 言わば、不法侵入しているようなものだからね。

 そのせいで、堕ちて来る人間は、体の一部が欠損してたり、体が無事でも、精神が壊れてしまった人ばかりだった。

 それが、この世界に伊織さんと私しか人間がいない、最大の理由ーー。

 私が二度目の〈界渡り異世界転移〉で無事だったのは、力が使えなくても〈魔法使い〉だったから。

 つまり私は、私自身の力で門を開けてこの世界に来たんだ。


 正式なパスを生まれながらに持っている人のことを、【常世】の住人は畏怖と敬意を込めて、〈魔法使い〉と呼んだ。



          
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
【書籍発売後はレンタルに移行します。詳しくは近況ボードにて】 「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

悪役令嬢の私は死にました

つくも茄子
ファンタジー
公爵家の娘である私は死にました。 何故か休学中で婚約者が浮気をし、「真実の愛」と宣い、浮気相手の男爵令嬢を私が虐めたと馬鹿げた事の言い放ち、学園祭の真っ最中に婚約破棄を発表したそうです。残念ながら私はその時、ちょうど息を引き取ったのですけれど……。その後の展開?さぁ、亡くなった私は知りません。 世間では悲劇の令嬢として死んだ公爵令嬢は「大聖女フラン」として数百年を生きる。 長生きの先輩、ゴールド枢機卿との出会い。 公爵令嬢だった頃の友人との再会。 いつの間にか家族は国を立ち上げ、公爵一家から国王一家へ。 可愛い姪っ子が私の二の舞になった挙句に同じように聖女の道を歩み始めるし、姪っ子は王女なのに聖女でいいの?と思っていたら次々と厄介事が……。 海千山千の枢機卿団に勇者召喚。 第二の人生も波瀾万丈に包まれていた。

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

処理中です...