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第二章 人生最大の岐路に直面しました
第三話 答えはとうに決まってる
しおりを挟む「私には、何も言うことはないのね」
いつの間にか横に立っていた小町さんの顔を見上げた瞬間、私はまたしても声にならない悲鳴を上げてしまった。
「小町。睦月が固まってる」
苦笑しながらそう言うと、小町さんは慌てていつもの小町さんに戻った。
伊織さんは小町さんが持っていた漫画の雑誌を手に取ると、キラキラと目を輝かせている子供たちに渡した。
子供たちはそれを嬉しそうに受け取ると、さっきまで喧嘩をしていたことなど忘れ、お金を置いて皆で仲良く店を出て行った。
伊織さんは子供たちを見送ると、小町さんに何事もなかったかのように告げる。
「小町。後もう少し頼むね」と。
「…………」
黙り込む小町さん。
小町さん、顔がとても怖いです。背後に般若のお面が浮かんで見えるのは私だけかな。
伊織さんは特に気にもしていない。
それよりも、帰って来たばかりなのに、伊織さんは休む暇なく次の仕事をしようとしている。
(大丈夫かな? 疲れてるのに。心配だよ)
口に出来ないで見上げる私に、伊織さんは微笑みながら頭を撫でてくれた。その手の温かみは、不思議と心地良く安心出来た。
(安心出来るけど……)
不安になる。
相反した気持ちが私を苛む。苦しくて、思わず胸に手を当てる。
伊織さんの言動を心得てるのか、小町さんは大きな溜め息を吐いてから、「しょうがないわね」と諦めたように答えた。
私と小町さんが軽く手を振ると、伊織さんはサス君と一緒に店の奥に消えた。そしてその日一日中、伊織さんは店の奥に閉じ籠って出て来なかった。
伊織さんが帰って来た。
それは同時に、この世界との離別を意味している。伊織さんしか戻すことが出来ないから。
ある意味、流されるまま生きて来た私は、この一か月あまり、色々なことを考えていた。一番頭を使った一か月だったよ。
考えるのは、自分の未来ーー。
皆がいない世界を想像してみる。
想像した途端、体中の血が一気に冷たくなるのを感じた。冷や汗が吹き出し、手足の先が氷のように冷たくなる。想像すること自体、体が拒否していた。
例え、私が皆のことを忘れてしまっても、確実に失ってしまうものがあるんだ。
失ったものは絶対取り戻せない。
今回のように、また来れる確信なんてどこにもないんだよ。最悪来れたとして、再び皆に会えるとは限らない。それどころか、また死んじゃう可能性もある。
失えば、二度と手に入らないもの。
それは……大切な時間。
大切な想い。
大切な人たち。
この一か月間で、私は人として大切なものを取り戻せた気がする。
情けないけど。まだそれを、表に上手く出せない。だけど、これだけは言えるよ。
麻痺し凍っていた心に、『なんでも本屋』の住人たちが、新たな温かい血液を流してくれたってね。
それは、血の繋がった家族ではなく、頭に角が生えた鬼の兄妹。犬の獣人のサス君。そして……私を救ってくれた伊織さんだった。
心優しき、あやかしたち。
私の答えはとうに決まっていた。
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