戻るなんて選択肢はないので、絶対魔法使いの弟子になってみせます。

第一章 これって異世界転移だよね

第五話 神隠し

　十年前ーー。

　まだ私が保育園に通ってた頃の話だよ。

　神隠しに遭ったの。神隠しにね……。

　その日は珍しく雪が積もっててね、私は公園でお兄ちゃんたちと雪ダルマを作って遊んでいたの。

　まだその頃は、私たち家族は家族としてちゃんと機能してたよ。仲の良い家族だって思ってた。無条件に信じてた。疑ってもいなかった。お兄ちゃんもお母さんもお父さんも皆大好きだった。

　お母さんとお父さんは、私たちが遊ぶ様子を少し離れた場所から見ていた。とても優しい顔でね。

　暫く遊んでたかな。風邪を引いたら困るからと、お母さんとお父さんが私たちを呼んだの。「は～～い」って皆で返事して、お兄ちゃんと一緒にお母さんたちの所に戻り掛けた、まさにその時だった。

　家族の前で、忽然こつぜんと私が姿を消したのはーー。

　戻って来たのは、それから十か月後。

　奇妙なことに、その間の記憶は全くなかった。すぽっと抜けてたらしい。今もだけど。なかっても困らないんだけどね。

　お母さんとお父さんが私を恐れるようになったのは、この後だ。




　小町さんの話が本当なら、二か月間、私は【常世】にいたことになる。

　その間私が生活してたのは、伊織さんの家、つまりここにいたのだと教えてくれた。

　小町さんが嘘を吐いてるなんて、これっぽっちも疑ってないよ。いないけど……すぐに信じられるような話じゃなかった。頭が理解してても、心が追い付いてない、そんなちぐはぐな感じかな。気持ち悪い。

　それでも、何とか受け入れられたのは、小町さんが私の癖や食べ物の好き嫌いを知っていたからだ。私自身が忘れてしまっていた昔の自分のことを、陣さんと小町さんは私よりもよく知っていた。

　これって、立派な証拠だよね。

　だとしたら、皆が私の名前を知っていて当然だよね。

　でもね、どうしても疑問が残るんだ。

「姿が変わったのに、よく分かったね？」

　だってそうでしょ。

　小町さんたちにとっては二年でも、こっちは十年の時が経ってるんだよ。背も伸びたし体重も増えた。それに、保育園に通ってた子供が中学生になったんだよ。容姿もかなり変わったよね。いくら面影が残ってるかもしれないけど……。

　なのに、伊織さんも陣さんも小町さんも迷わなかった。それがとても不思議だった。

「分かるわよ。全然変わってないじゃない」

　私の問いに、小町さんはケラケラ笑いながら答えた。

　それはそれで、すっごく複雑だよ、小町さん。だって……全然成長してないって言ってるんだもん。成長期なのに。