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第一章 これって異世界転移だよね
第二話 沈んで行く少女と光の束
しおりを挟む声を出そうとしても、もう掠れた声しか出てこない。
零れ落ちる命を止める術を持たない自分が悔しかった。凄く、凄く、悔しかった。毎日繰り返される悪夢が早く終わることを、ずっと願ってた筈なのにね。いざその時が来たら、正反対の思いを抱いていた。おかしなもんよね。
だけどその思いは、強く、とても強いものだった。
生きたい!! このまま死にたくない!!!!
徐々に薄れて行く意識の中で、私は純粋に生きたいと願った。
ただ、生きたいと……それだけを、強く強く願った。
その時、何かが頭を過ったの。
それが何なのか、その時は分からなかった。後で分かるんだけどね。
反射的に、私は必死にそれに縋ろうとした。
動かない腕を、それでもやっとの思いで持ち上げ、何かを掴もうと手を伸ばした瞬間、何故だか分からないが、私の体は水中にあった。
水中なのに、その水は少しも冷たくなかった。
反対に生温かくて、まるで温水プールの中にいるようだった。その温かみは、私の冷えた体と心を温めてくれる。
体はピクリとも動かない。
だけどね、不思議と息苦しくなかった。
徐々に小さくなっていく水泡が、僅かに開いた目に映る。水面の光と反射してキラキラと輝いていた。とても神秘的で綺麗だった。沈んでるのは自分なのにね。
どんどん沈んで行く私の体。
沈むにつれ、水面の光も見えなくなった。次第に、水泡も見えなくなっていく。
…………どこまで、沈んで行くの?
自分のことなのに、どこか他人事のようだよね。
真っ暗になっていく視界に反して、不思議と、少しも恐怖を感じなかった。壊れた心は恐怖を感じないのかもしれない。麻痺してしまって。
……もう……どうでもいいよね…………私、頑張ったよね…………
本当なら苦しい筈なのに、あまりにも心地良くて、静かに目を閉じる。
意識が完全に途切れた。
この時、私は間違いなく死んだ。
人としての生を終えたの。
でもね、光が私を救ってくれたんだ。
光が私の周囲を優しく包み込む。
沈んでいた体が光に包まれ止まっている。脈が止まり死んでいた私は、当然それに気付かない。
力を失いぐったりと横たわる私の体を、光の束が上から通り抜けて行く。そして通り抜けた光の束は、今度は下から私の体を突き上げる。
その時だった。
微かに、ほんの微かだけど、光が見えたんだ。
それはまぎれもなく、消えていた灯りが灯った瞬間だった。
…………な……にが……お…きた…の………………
そう疑問を抱いた同時に、肺に大量の空気が流れ込んできたの。不思議だよね。さっきまで死んでたのに。
ごぼっごぼっと、口から大量の泡が吐き出される。苦しくて、苦しくて、もう見えなくなった水面に必死で腕を伸ばした。
「ーー誰か……誰か助けて!!!!」
声にならない叫び声を上げる。
今まで心地良かった暗闇がその瞬間、恐怖に変わったの。恐怖から逃れたくて、私は尚も必死に手を伸ばし続けたよ。
その度に空を切る手。
息が出来なくて、再度意識が途絶えようてした時だった。
何か温かいものが、私の腕を強く掴んだ気がしたの。
☆★☆
ある日の深夜。
寝ずの番をしていた星読みの一人が、星の異変に気付いた。
突然、それは起きた。
星の一つが虹色に輝きだしたのだ。
その輝きはまるで太陽のようだった。闇夜が昼のように明るくなり、大地を、山を照らしている。
暫く輝くと、虹色の星は北の方角へと流れていった。
二百年程前にも、これほどの輝きはないが、同じような現象が起きたと文献に記載されていたのを、星読みは知っていた。
長い間……星読みたちは、その現象が再び起きるのを待っていたのだ。
興奮が抑え切れないまま、星読みは【常世】の五聖獣の元にある報せを送った。
【神獣森羅、北の大陸に降臨する】とーー。
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