43 / 43
閑話〈クリスマス編〉
本当に最高だ
しおりを挟む『勇也様。今回は、クリスマスを楽しむイベントになっております。まずはクリスマスツリーを見に行きましょう!』
勇也の前ではあまり表情を変えなかった道化が、ウキウキしながら急かす。型苦しい口調のままで。
(早く見て欲しいようだな)
勇也自身、こういうやり取りは嫌いじゃない。
それに、この遊園地の雰囲気はとても心地良いものだった。初めて来た時から、そう感じていた。正直に言えば、かなり好きな方だ。お気に入りの場所にしたいくらいには。
だけど、勇也は道化の言葉に素直に頷くことは出来ない。絶対にだ。
この遊園地が普通の遊園地なら、人が経営し、遊んでいる子供たちが人間なら、この提案に喜んで飛びついただろう。
だけど、目の前にいるコイツらは……そもそも人間じゃない。人間のように装ってはいるが、それが本当の姿とは限らない奴らだ。
それは、この〈人喰い遊園地〉にいる化け物、いや、あやかしたちにもいえた。
ましてや、人を喰うあやかしが普通に存在している。
遊びに来ているのもいるし、働いている者もいる。
そいつらにとって餌でしかない俺が、いつ建物の陰に連れ込まれて喰われたとしても、ちっともおかしくはない。簡単に殺られるつもりはないが。
コイツらだってそうだ。
レン太と道化が人を喰うかどうかは知らないが、少なくとも、人が牛や豚と同じ様に解体されることに関して、リサイクルと平然と言ってのける奴らだ。実際、そうしているのを目撃したしな。その時、マジで思った。
コイツらとは、根本的に違うのだとーー。
だから、馴れ合うつもりは毛頭ない。
とはいえ、夏に来た時とは違い、柳井さんたちも巽さんもいない最悪な状況の中で、誰も命を護ってはくれない。自分自身を護るのは、所詮自分自身しかいないのだ。そこまで考えて、極度の緊張感が襲い掛かってきた。
自分の行動が直に自分へと跳ね返ってくる。
ましてや、人を喰う化け物が普通に闊歩している遊園地内で、餌である俺が遊園地にいる危険性に、改めて身震いした。
(……見に行かないっていう選択肢はないよな)
出来れば、クリスマスが終わる二日間、ジッとこの場にいたい。だけど、そんな選択は許されないだろうな。まず、コイツらが許しはしない。なるようにしかならないだろう。
『さすが、勇也様。そんな選択は始めからありませんよ。さぁ、行きましょう!! 勇也様。僕も道化も頑張って装飾手伝ったんですよ。勇也様に見てもらいたくて』
レン太が勇也の腕を掴み引っ張る。勇也は戸惑った表情を見せたが、振り払うことはしなかった。
そんな勇也を見て、レン太と道化は嬉しそうに、幸せそうに笑う。
人を喰うかもしれない化け物だと知りながら、そんな化け物に懐かれ、腕を掴まれても振り払いはしない、人間。
警戒はしていても、顔を強張らせても、自分たちを拒絶しない、人間。
そんな人間は稀有だ。
稀有だからこそ、自分たちの手元に置きたくなる。自分だけを見ていて欲しくなる。
勇也の存在を知った者は、おそらく全員そう考えるだろう。現に道化もレン太も、強くそう思う時がある。その思いを何とか押し止めているのは、行動に移したら、間違いなく壊れることを知っているからだ。
人間は脆く壊れやすい。だからこそ、優しく、ソッと真綿に包むように接しないといけない。
「どうしたんだ? 道化。案内してくれるんだろ?」
動かない道化に勇也は声を掛ける。手は差し出さないが。
((本当に、勇也様は最高だ……))
道化とレン太は心の中で感嘆の声を上げた。
同時に、勇也の全身に悪寒が走る。眉間に皺を寄せてる姿も、レン太や道化にとってはとても愛しく思えた。
0
お気に入りに追加
68
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(4件)
あなたにおすすめの小説



どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【語るな会の記録】鎖女の話をするな
鳥谷綾斗(とやあやと)
ホラー
語ってはいけない怪談を語る会
通称、語るな会
「怪談は金儲けの道具」だと思っている男子大学生・Kが参加したのは、禁忌の怪談会だった。
美貌の怪談師が語るのは、世にも恐ろしい〈鎖女(くさりおんな)〉の話――
語ってはいけない怪談は、何故語ってはいけないのか?
語ってはいけない怪談が語られた時、何が起こるのか?
そして語るな会が開催された目的とは……?
表紙イラスト……シルエットメーカーさま
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
一年以上前に完結しているお話に突っ込み入れるようでどうだろう…とは思ったのですが、
一章 依頼 本文で一番最初に出てくるところ 桜ドリーム“ランド” パークじゃ…
三章 器 人間で言う、自殺補助・・・・幇助、ですよね?
この二か所だけは引っかかって仕方がなかったです。
ホラーは大好きなので楽しく読ませていただきました。
ぞわぞわくる感じがとても良かったです。
そして、クリスマスバージョンも読みたいというひそかな願いをここに…
他の方も書かれてますが、とても読みやすくしっかりした文章をお書きになると私も思っておりますよ。
感想&誤字報告ありがとうございますm(__)m
早速直しましたね😀
時間があればクリスマス編を書けたらなぁと思っています😀
最後に、温かいお言葉ありがとうございますm(__)m これからも、頑張って書いていきますね(。•̀ᴗ-)✧
ホラー1位から来ました(´ー+`)
ひとつ下の方も仰ってますが文章がお上手だと思います。
加えても表現も上手く書けてて羨ましいです。
まだ少ししか読んでませんが、続きも楽しませて頂きます。
感想ありがとうございますm(__)m
重ねて、温かいコメント、とても嬉しかったです( ꈍᴗꈍ)
私もまだまだなので、日々試行錯誤しています。頭で考えたことを文字にするのは、ほんと難しいですね。
ツイッターからやってきました。サクサク読める形でとても読みやすいです!比較的ホラーの小説って描写が難しいのですがとてもお上手です!お気に入り登録しますのでこれからも頑張って!
こんにちは(^-^)/
感想&お気に入り登録ありがとうございますm(__)m
そう言ってもらえると、とても嬉しいです。これからも、頑張ります。