人喰い遊園地

井藤 美樹

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閑話〈クリスマス編〉

耳元で聞こえる声

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 ほんとに、探偵っていう仕事はつくづく因果なものだと勇也は思う。だってそうだろ。人が一番幸せな時間帯が、俺たちにとって一番稼ぎ時なんだからな。

 巷はクリスマス一色。赤や緑で街は染められている。聞こえてくるのもクリスマスソングばかり。

 そんな中、カップルがあちこちで自分たちだけの時間に浸っている。独り身にはほんと辛い時期だ。

 カップルっていっても、普通のカップルがいれば、不倫カップルもいる。本来なら、日陰にいる不倫カップルたちも、表立って活動したくなるようだ。クリスマスって、そんな魅力があるんだろう。

(今の俺には無縁だけどな)

 自嘲気味に心の中で呟いた時だった。

『…………な……………い……よ……』

 空耳と間違うくらいの小さな声が遠くから聞こえた。聞こえた気がした。

 周りを見渡すが、居るのはカップルばかり。勇也を視線にさえ入れていない。じゃあ違うのか。だとしたら、

 まさかーー

 一瞬、を思い出した。甦るあやかしの顔。

 途端に、ゾクリと全身に寒気が走った。

 勇也は慌てて柳井さんから貰った護符を確認する。いつも身に付けておくように言われた護符だ。この護符に少しでも異変が出ていたら、奴らはすぐ側にいる。そう教えてもらっていた。出ていたら明るい場所に逃げて、柳井さんを呼ぶように言われていた。

 護符を確認すると、どこも変わりがない。ホッと胸を撫で下ろす。

「気のせいか……あっ、出て来た」

 物陰から、勇也はラブホテルに標準を向けてシャッターを合わせていた。いつ出て来てもいいように。わりかし直ぐに、年齢差がある男女が出て来てくれた。シャッターを数回切る。上手い具合に撮れた。チェックすると、ちゃんと顔が撮れている。

(大学生と助教授の不倫か……これから大変だろうな。まぁ、俺には関係ないけどな。やってる方が悪いんだし)

 これで、今回の仕事無事完了。明日、報告書と一緒に提出すれば終わりだ。

 ずっと同じ体勢をしていたから、肩が凝った。寒いから特にバキバキだ。

「マジで痛ぇ」
 
 腕を軽く回してみる。そんな事をしているとスマホが鳴った。

「あっ、また、知らんとこから来てるな。無視だ無視」

 見たこともない番号。この頃よく掛かってくる。当然、折返しの電話はしない。いつもと同じように、無視してると、やけに生温かい風が吹いた。
 
 この季節に吹く風じゃないーー。

 持っていた護符をもう一度取り出す。

 すると、護符は真っ黒になっていた。

(こんなに黒かったら、直ぐ横にいるんじゃないか)

 そんな考えが頭を過る。腰が抜けそうになるが、どうにか耐えた。

「う……嘘だろ。明るい場所に逃げないと」

 勇也は独り言のように呟くと、開いてる店に飛び込んだ。チェーン店だから、ムードも何もない。こうこうと電気が点いている。

「…………ここなら、大丈夫だよな……」

 若干震える手で、スマホを取り出し柳井さんの所に掛けた。一回で繋がる。

「勇也君、今どこにいるんだ!!??」

 柳井さんの声だ。その声を聞いただけで安心する。

「…………◯☓駅の西口近くにあるバーガーショップです」

 震える声でなんとか伝えることか出来た。

「分かった。今から迎えに行く。ちゃんと明るい場所にいるね。そこをーー」

 電話の途中で店内の時計が鳴った。やけに大きく聞こえる。柳井さんの声が全く聞こえない。

 十二時ーー。

 日付けが変わった。

 今日はクリスマスイブだ。



『クリスマスイブだね、勇也様。約束通り迎えに来たよ。一杯楽しもうね』



 四か月以上前に聞いた声が耳元で聞こえた。


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