人喰い遊園地

井藤 美樹

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第四章 ドールハウス

通話

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 クズ女里奈の恐怖が頂点に達した、まさにその時だった。

 壊れた筈のスマホが突然鳴り出した。

 もう……悲鳴を上げたり、ビクッとすることも出来ない程、精神的に追い込まれた里奈。もはや、この場から逃げ出すことなど不可能な状態だった。

 それでも逃げ出したい。

 その気持ちだけが、どうにか里奈を動かす。

 といっても出来たのは、体を僅かに反対側に逸らせることだけだったが。たったそれだけのこと。だが、里奈にとってそれが精一杯だった。

 しばらく鳴り続ける壊れたスマホ。

 その場に似つかわしくない、アイドルの新曲が響き渡る。それも最大音量でだ。二分程軽快な音楽が流れ、唐突に切れた。触ってないのに通話中になる。

「………………斉藤さん。次は君の番だよ」

 操作もしていないのに、ましてや壊れているのに、勝手に通話中になったスマホ。それもスピーカーになったスマホから聞こえてきたのは、親友の声ではなかった。

 やけに楽しそうな若い男性の声だ。

 里奈はその声に聞き覚えがあった。

(……嘘……その声は………)

 その声の主が誰なのか分かった瞬間、里奈は全てを悟った。そして、自分がこれまで彼にしてきた嫌がらせの数々を思い出す。

 全て仕組まれていたんだ。自分たちはまんまと罠にはまった。

 これは復讐。

 あのキモ男のーー。

「い……嫌っ!! 止めて……ごめんなさい…………許して…………ゆるーー」

 里奈の口から出るのは謝罪の言葉。とても聞き取りにくいが、確かに謝罪の言葉だった。

 死にたくないから謝罪したのか。

 それとも、自分が悪かったと反省したから出た謝罪なのか。

 今となっては、もうどちらでもよかった。全てにおいて遅すぎたのだ。何もかもが。

「許すわけないだろ。……僕も何回も言ったよね。もう嫌だ。止めてって。でも、君たちは止めてくれなかった。逃げようとした僕を孤立させた。バイト先にも両親にも、先生たちにも嘘を吐いた。友人たちにもね。楽しかった? 一人の人間を追い詰めて、奴隷のように、家畜のように扱って。そこまでされるようなこと、僕は君たちにしたかな? してないよね。だって、僕は君たちに目を付けられるまで、接点がなかったんだから。クラスも選択科目も違ったしね。……今度は君たちの番だよ、斉藤さん。僕は優しいから、奴隷や家畜のようには扱わない。その代わり、餌になって。あやかしたちのね。彼らはが好物なんだって。柔らかいから。……痛いのも、苦しいのも、すぐに終わるよ、斉藤さん。だから、せめて苦しみながら死んでね。僕を楽しませてね」

 ーー僕を楽しませてね。

 その言葉を最後に通話がプツリと切れた。

 明るい声で告げられたのは、里奈の死亡勧告。

 その証拠に、壊れたスマホの横に可愛いピンクのドレスを着たフランス人形が立っていた。エレベーターにいたフランス人形ではなかった。違う人形だが、姿を現した理由は決まっている。

 さっきまで、何処にもいなかったのに。

 何で気付かなかったんだろう。

 里奈はフランス人形から視線が外せない。もはや、悲鳴さえ上げれなかった。

 その人形の手には、アイスピックが握られている。

『一番最初にどこを突かれたい? 手、足、それとも目?』

 口は動いてないが、そう楽しそうに問い掛けてきたのは、間違いなく、目の前にいるフランス人形だった。それしか考えられない。

 そう訊きながら、ゆっくり、ゆっくり、フランス人形は里奈に近付いて来る。

 恐怖は、時に精神に多大な苦痛とダメージを与える。それを分かっているからこそ、フランス人形は敢えてゆっくりと里奈に近付いた。既に、宴は始まっているのだ。

「…………や……だ…………死にたくない……死にたくないよぉ……」

 目の前のフランス人形に気を取られていて、クズ女は全く気付いていなかった。

 人形は一体ではなかったことに。

 ここは【ドールハウス】だってことにだ。

 中には、動物のぬいぐるみもいる。可愛らしい、愛らしい容姿をしているが、その手には皆、アイスピックがしっかりと握られていた。

 人形たちはゆっくりと、里奈に一歩、一歩近付いて来る。フランス人形もだ。

『目にする?』

 フランス人形が再度、里奈に尋ねる。

「…………いや…………止めて……」

 もう……里奈はそれしか言えない。

『止めてあげないよ。……目は一番最後にしないと。僕たちの勇姿を目に焼き付けなきゃ』

 クマのぬいぐるみが代わりに答える。とても楽しそうだ。

『そうだね。だったら、手かな?』

『足もいいよね』

 里奈を無視して、うきうきしながらフランス人形とクマのぬいぐるみが話している。すると、他の人形たちから次々に希望を言ってきた。全然まとまらない。

『里奈ちゃんはどこかいい?』

 そう問い掛けられても、今の里奈には答えられなかった。

「…………いや……いや…………いや……」

 もうそれしか言えなかった。

『嫌じゃ分かんないよ。希望がないんだったら、皆、一緒にやっちゃう?』

 その言葉を合図に、皆仲良くアイスピックを持っている腕を振り上げる。鋭い尖端が一斉に里奈に向いた。

 もはや、悲鳴さえ上がらない。マスカラが取れ、付けまつ毛も取れ掛けている目を見開き、ただただ尖端を凝視する。その目から涙がぼろぼろと落ちる。

『駄目だよ。皆一緒にやったら、簡単に死んじゃうよ』

 一体の人形が言った。どの人形がぬいぐるみが言ったのか分からない。

『そうだよね。簡単に死んだら、怒られちゃうよ。だったら、順番に刺していこうよ』

 クマさんの提案に他の人形が賛成する。

『うん。そうしよう』

『簡単に死なせちゃ駄目だから、お腹や胸は駄目だよね』

 他の人形がそう尋ねると、クマさんとフランス人形が頷く。

『だったら、爪の間はどうかな?』

 他の人形が提案してきた。

『それいいね』

『いいね』

『決定』

 楽しそうな声が次々と同時に上がった。クスクスと笑う声も聞こえる。

『その前に、動かないようにしなきゃね』

 その声に答えるように、フランス人形二体とクマとイヌのぬいぐるみが一歩里奈に近付く。

 それを合図に、何体もの人形とぬいぐるみが一斉に里奈を襲う。どこにそれだけの力があるんだろう。あっという間に里奈の体は、床に寝かされた。里奈の四肢は伸ばされ、大の字に固定される。

『じゃあ、固定するね』

 四体の人形はアイスピックを降り下ろした。
 

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