28 / 43
第四章 ドールハウス
通話
しおりを挟むクズ女の恐怖が頂点に達した、まさにその時だった。
壊れた筈のスマホが突然鳴り出した。
もう……悲鳴を上げたり、ビクッとすることも出来ない程、精神的に追い込まれた里奈。もはや、この場から逃げ出すことなど不可能な状態だった。
それでも逃げ出したい。
その気持ちだけが、どうにか里奈を動かす。
といっても出来たのは、体を僅かに反対側に逸らせることだけだったが。たったそれだけのこと。だが、里奈にとってそれが精一杯だった。
暫く鳴り続ける壊れたスマホ。
その場に似つかわしくない、アイドルの新曲が響き渡る。それも最大音量でだ。二分程軽快な音楽が流れ、唐突に切れた。触ってないのに通話中になる。
「………………斉藤さん。次は君の番だよ」
操作もしていないのに、ましてや壊れているのに、勝手に通話中になったスマホ。それもスピーカーになったスマホから聞こえてきたのは、親友の声ではなかった。
やけに楽しそうな若い男性の声だ。
里奈はその声に聞き覚えがあった。
(……嘘……その声は………)
その声の主が誰なのか分かった瞬間、里奈は全てを悟った。そして、自分がこれまで彼にしてきた嫌がらせの数々を思い出す。
全て仕組まれていたんだ。自分たちはまんまと罠にはまった。
これは復讐。
あのキモ男のーー。
「い……嫌っ!! 止めて……ごめんなさい…………許して…………ゆるーー」
里奈の口から出るのは謝罪の言葉。とても聞き取りにくいが、確かに謝罪の言葉だった。
死にたくないから謝罪したのか。
それとも、自分が悪かったと反省したから出た謝罪なのか。
今となっては、もうどちらでもよかった。全てにおいて遅すぎたのだ。何もかもが。
「許すわけないだろ。……僕も何回も言ったよね。もう嫌だ。止めてって。でも、君たちは止めてくれなかった。逃げようとした僕を孤立させた。バイト先にも両親にも、先生たちにも嘘を吐いた。友人たちにもね。楽しかった? 一人の人間を追い詰めて、奴隷のように、家畜のように扱って。そこまでされるようなこと、僕は君たちにしたかな? してないよね。だって、僕は君たちに目を付けられるまで、接点がなかったんだから。クラスも選択科目も違ったしね。……今度は君たちの番だよ、斉藤さん。僕は優しいから、奴隷や家畜のようには扱わない。その代わり、餌になって。あやかしたちのね。彼らは若い娘が好物なんだって。柔らかいから。……痛いのも、苦しいのも、すぐに終わるよ、斉藤さん。だから、せめて苦しみながら死んでね。僕を楽しませてね」
ーー僕を楽しませてね。
その言葉を最後に通話がプツリと切れた。
明るい声で告げられたのは、里奈の死亡勧告。
その証拠に、壊れたスマホの横に可愛いピンクのドレスを着たフランス人形が立っていた。エレベーターにいたフランス人形ではなかった。違う人形だが、姿を現した理由は決まっている。
さっきまで、何処にもいなかったのに。
何で気付かなかったんだろう。
里奈はフランス人形から視線が外せない。もはや、悲鳴さえ上げれなかった。
その人形の手には、アイスピックが握られている。
『一番最初にどこを突かれたい? 手、足、それとも目?』
口は動いてないが、そう楽しそうに問い掛けてきたのは、間違いなく、目の前にいるフランス人形だった。それしか考えられない。
そう訊きながら、ゆっくり、ゆっくり、フランス人形は里奈に近付いて来る。
恐怖は、時に精神に多大な苦痛とダメージを与える。それを分かっているからこそ、フランス人形は敢えてゆっくりと里奈に近付いた。既に、宴は始まっているのだ。
「…………や……だ…………死にたくない……死にたくないよぉ……」
目の前のフランス人形に気を取られていて、クズ女は全く気付いていなかった。
人形は一体ではなかったことに。
ここは【ドールハウス】だってことにだ。
中には、動物のぬいぐるみもいる。可愛らしい、愛らしい容姿をしているが、その手には皆、アイスピックがしっかりと握られていた。
人形たちはゆっくりと、里奈に一歩、一歩近付いて来る。フランス人形もだ。
『目にする?』
フランス人形が再度、里奈に尋ねる。
「…………いや…………止めて……」
もう……里奈はそれしか言えない。
『止めてあげないよ。……目は一番最後にしないと。僕たちの勇姿を目に焼き付けなきゃ』
クマのぬいぐるみが代わりに答える。とても楽しそうだ。
『そうだね。だったら、手かな?』
『足もいいよね』
里奈を無視して、うきうきしながらフランス人形とクマのぬいぐるみが話している。すると、他の人形たちから次々に希望を言ってきた。全然まとまらない。
『里奈ちゃんはどこかいい?』
そう問い掛けられても、今の里奈には答えられなかった。
「…………いや……いや…………いや……」
もうそれしか言えなかった。
『嫌じゃ分かんないよ。希望がないんだったら、皆、一緒にやっちゃう?』
その言葉を合図に、皆仲良くアイスピックを持っている腕を振り上げる。鋭い尖端が一斉に里奈に向いた。
もはや、悲鳴さえ上がらない。マスカラが取れ、付けまつ毛も取れ掛けている目を見開き、ただただ尖端を凝視する。その目から涙がぼろぼろと落ちる。
『駄目だよ。皆一緒にやったら、簡単に死んじゃうよ』
一体の人形が言った。どの人形がぬいぐるみが言ったのか分からない。
『そうだよね。簡単に死んだら、怒られちゃうよ。だったら、順番に刺していこうよ』
クマさんの提案に他の人形が賛成する。
『うん。そうしよう』
『簡単に死なせちゃ駄目だから、お腹や胸は駄目だよね』
他の人形がそう尋ねると、クマさんとフランス人形が頷く。
『だったら、爪の間はどうかな?』
他の人形が提案してきた。
『それいいね』
『いいね』
『決定』
楽しそうな声が次々と同時に上がった。クスクスと笑う声も聞こえる。
『その前に、動かないようにしなきゃね』
その声に答えるように、フランス人形二体とクマとイヌのぬいぐるみが一歩里奈に近付く。
それを合図に、何体もの人形とぬいぐるみが一斉に里奈を襲う。どこにそれだけの力があるんだろう。あっという間に里奈の体は、床に寝かされた。里奈の四肢は伸ばされ、大の字に固定される。
『じゃあ、固定するね』
四体の人形はアイスピックを降り下ろした。
0
あなたにおすすめの小説
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる