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第四章 ドールハウス
疑問
しおりを挟むミラーハウスを出た勇也たちは、次の目的地に向かっていた。流れからみて、たぶん【ドールハウス】だろう。
途中、様々な姿をした、あやかしたちとすれ違った。
人とそっくりなあやかしもいた。一瞬、人だと思ったが、あやかしと仲良く遊んでいるから、おそらく人じゃない。もしくは、あの一つ目の親子のように、中身があやかしなのかもしれない。どっちにせよ、あやかしだ。
遊園地らしく、ワゴンで何かを売っているようだ。ソフトクリームか。結構並んでいる。遠くにメリーゴーランドが見えた。
本当にここは遊園地なんだと、勇也は改めて思った。それも少し古いタイプの。どこか懐かしい、ほっとする雰囲気がある遊園地だ。
でもーー。
この遊園地で行われているのは、遊園地とは到底思えないものだった。
人として許しがたい行為。
しかしそれは、あやかしにとっては許されている行為で喜ばれていた。
いや違うな。その行為そのものが、一つの遊戯に、アトラクションになっているんだ。
人間を使ったアトラクションーー。
柳井さんも言ってたが、あやかしにとって人間は高級な玩具に過ぎないのだ。いや、玩具というよりは家畜に近いか……。駄犬が入っていたあの青年もそう言っていた。動かなくなった人間は最後は加工されるんだから、ある意味家畜に近いだろう。
どっちにせよ、あやかしには都合のいい、虐げられる存在には違いない。あの駄犬が言っていた通りに。
だがそれだったら、疑問が残る。根本的な疑問がーー。
ミラーハウスの次に、道化とレン太が勇也たちを連れて来た場所は、大方の予想通り【ドールハウス】だった。
中川という男子学生(肉体は)が逃げ込んだとされている場所も【ドールハウス】。
そして彼と一緒に来たクズらも、今そこに向かっている筈だ。スタッフに誘導されたことも知らずに。
偶然?
偶々?
そんな訳ない。
そんな場所にわざわざ勇也たちを案内したのか。
何故、中川の【復讐】の目撃者にしようとしているのか。
いったいそこに、何の意味がある。
勇也は思う。この世界に意味がないものは存在しないと。どんな馬鹿げたことにも意味があるのだと。
だとしたら、あやかしたちに何らかの意図が隠れていると考えるべきだ。いや、間違いなく隠れているだろう。
でも……それを知ろうとするのは、止めといた方がいいかもしれない。好奇心は時として、身を滅ぼす刃になることもあるのだ。
ただそうだとしても、どうしても知りたいことがあった。訊くのを止めようか、どうしようか悩んだが、答えは意外と直ぐに出た。言葉を選びながらなら大丈夫か。そう自分に言い聞かせる。
「……訊いていいか?」
ドールハウスに向かう途中、勇也はレン太と道化に小声で話し掛けた。
『いいよ!! 勇也様。何でも質問して』
『なんなりとどうぞ』
根が真面目なのか、レン太はキャラ設定の話し方だ。声のトーンも高い。相変わらず相棒の方は全く無視してるけど。それでも、レン太と道化が嬉しそうなのは伝わって来た。
「そもそも、どうして、わざわざ入れ替わったりしてるんだ? あやかしは、人間に棲みかを追われたんだろ。恨んでるんじゃないのか。なのに何で、人間に関わろうとしてるんだ? 無視すればいいだろ。誘拐する必要がどこにある? 餌として狩るのなら、わざわざ目立つようなことをしなくてもいいだろ? それともこういうのが、あやかしにとって娯楽なのか?」
道化とレン太は人間の意思を尊重していると言った。尊重の意味が人とはだいぶん違うが。それでも、尊重しているらしい。
しかし、現実は反している。
行方不明になった人数は遥かにその数を上回っているし、年端もいかない子供に到底意思があるとは思えなかった。ましてや、中には赤ちゃんもいた。矛盾もいいところだ。
『う~ん。誘拐した覚えはないけど』
『誘拐はしておりませんよ』
思いもしない言葉が返ってきた。おもわず、勇也は声を荒げる。
「何言ってるんだ!! 結構な数の行方不明者が出てるだろ!?」
勇也の台詞にレン太と道化は肩を竦める。
(やけに人間らしい仕草だな、おい)
外見はウサギの着ぐるみとピエロだが。
『それに関しては、僕たちは完全に無実だね。言っとくけど、桜ドリームパークが閉園する前にいなくなった人たちは、勝手に来た人たちだからね。それ以外の半分は、これから分かると思うけど……。後の半分は、僕たちは全く関係ないよ』
(誘拐に関しては無実ってことか……)
レン太が言う、勝手に来た人たちは、閉園する切っ掛けとなった行方不明者たちのことだろう。
レン太の言うことが正しければ、巽が請けた仕事の行方不明者の何人かは、あやかしは関係していないことになる。あくまで、レン太の言うことが真実だったとしたらの話だ。
もし……犯人があやかしでなかったら、何かしらの事件に巻き込まれたのか。意図して、自分で姿を消したかの二つだ。だとしたら、見付かる可能性は出てくる。生死を問わなければ。
「あくまで、こいつらの話が真実ならだ」
前を歩いていた巽が、勇也の腕を掴み自分の方に引っ張る。あやかしから引き離し、柳井と華の側に連れて行く。
「勇也……お前、危機感無さ過ぎ。何、和んでるんだ」
「勇也君は愛されてるからね」
「だとしても、近過ぎです。もう少し、距離感を持って下さい!! 何、懐柔されてるんですか!!」
やっと自分たちの側に戻って来た勇也に、巽は頭を軽く小突きながら怒る。柳井は呆れて溜め息を吐き、華は十歳近く上の大人を叱り付ける。三人とも、勇也のことを心から心配していた。
「ごめん」
勇也は三人に素直に頭を下げる。
仲の良さを見せ付けられたレン太と道化は、後ろから忌々しそうに巽たちを睨み付けていた。
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