人喰い遊園地

井藤 美樹

文字の大きさ
上 下
24 / 43
第四章 ドールハウス

疑問

しおりを挟む

 ミラーハウスを出た勇也たちは、次の目的地に向かっていた。流れからみて、たぶん【ドールハウス】だろう。

 途中、様々な姿をした、あやかしたちとすれ違った。

 人とそっくりなあやかしもいた。一瞬、人だと思ったが、あやかしと仲良く遊んでいるから、おそらく人じゃない。もしくは、あの一つ目の親子のように、中身があやかしなのかもしれない。どっちにせよ、あやかしだ。

 遊園地らしく、ワゴンで何かを売っているようだ。ソフトクリームか。結構並んでいる。遠くにメリーゴーランドが見えた。

 本当にここは遊園地なんだと、勇也は改めて思った。それも少し古いタイプの。どこか懐かしい、ほっとする雰囲気がある遊園地だ。

 でもーー。

 この遊園地で行われているのは、遊園地とは到底思えないものだった。

 人として許しがたい行為。

 しかしそれは、あやかしにとっては許されている行為で喜ばれていた。

 いや違うな。その行為そのものが、一つの遊戯に、アトラクションになっているんだ。

 人間を使ったアトラクションーー。

 柳井さんも言ってたが、あやかしにとって人間は高級な玩具に過ぎないのだ。いや、玩具というよりは家畜に近いか……。駄犬が入っていたあの青年もそう言っていた。動かなくなった人間は最後は加工されるんだから、ある意味家畜に近いだろう。

 どっちにせよ、あやかしには都合のいい、虐げられる存在には違いない。あの駄犬が言っていた通りに。

 だがそれだったら、疑問が残る。根本的な疑問がーー。





 ミラーハウスの次に、道化とレン太が勇也たちを連れて来た場所は、大方の予想通り【ドールハウス】だった。

 中川という男子学生(肉体は)が逃げ込んだとされている場所も【ドールハウス】。

 そして彼と一緒に来たクズらも、今そこに向かっている筈だ。スタッフに誘導されたことも知らずに。

 偶然?

 偶々?

 そんな訳ない。

 そんな場所にわざわざ勇也たちを案内したのか。

 何故、中川の【復讐】の目撃者にしようとしているのか。

 いったいそこに、何の意味がある。

 勇也は思う。この世界に意味がないものは存在しないと。どんな馬鹿げたことにも意味があるのだと。

 だとしたら、あやかしたちに何らかの意図が隠れていると考えるべきだ。いや、間違いなく隠れているだろう。

 でも……それを知ろうとするのは、止めといた方がいいかもしれない。好奇心は時として、身を滅ぼす刃になることもあるのだ。

 ただそうだとしても、どうしても知りたいことがあった。訊くのを止めようか、どうしようか悩んだが、答えは意外と直ぐに出た。言葉を選びながらなら大丈夫か。そう自分に言い聞かせる。

「……訊いていいか?」

 ドールハウスに向かう途中、勇也はレン太と道化に小声で話し掛けた。

『いいよ!! 勇也様。何でも質問して』

『なんなりとどうぞ』

 根が真面目なのか、レン太はキャラ設定の話し方だ。声のトーンも高い。相変わらず相棒の方は全く無視してるけど。それでも、レン太と道化が嬉しそうなのは伝わって来た。

「そもそも、どうして、わざわざ入れ替わったりしてるんだ? あやかしは、人間に棲みかを追われたんだろ。恨んでるんじゃないのか。なのに何で、人間に関わろうとしてるんだ? 無視すればいいだろ。誘拐する必要がどこにある? 餌として狩るのなら、わざわざ目立つようなことをしなくてもいいだろ? それともこういうのが、あやかしにとって娯楽なのか?」

 道化とレン太は人間の意思を尊重していると言った。尊重の意味が人とはだいぶん違うが。それでも、尊重しているらしい。

 しかし、現実は反している。

 行方不明になった人数は遥かにその数を上回っているし、年端もいかない子供に到底意思があるとは思えなかった。ましてや、中には赤ちゃんもいた。矛盾もいいところだ。

『う~ん。誘拐した覚えはないけど』

『誘拐はしておりませんよ』

 思いもしない言葉が返ってきた。おもわず、勇也は声を荒げる。

「何言ってるんだ!! 結構な数の行方不明者が出てるだろ!?」

 勇也の台詞にレン太と道化は肩を竦める。

(やけに人間らしい仕草だな、おい)

 外見はウサギの着ぐるみとピエロだが。

『それに関しては、僕たちは完全に無実だね。言っとくけど、桜ドリームパークが閉園する前にいなくなった人たちは、勝手に来た人たちだからね。それ以外の半分は、これから分かると思うけど……。後の半分は、僕たちは全く関係ないよ』

(誘拐に関しては無実ってことか……)

 レン太が言う、勝手に来た人たちは、閉園する切っ掛けとなった行方不明者たちのことだろう。

 レン太の言うことが正しければ、巽が請けた仕事の行方不明者の何人かは、あやかしは関係していないことになる。あくまで、レン太の言うことが真実だったとしたらの話だ。

 もし……犯人があやかしでなかったら、何かしらの事件に巻き込まれたのか。意図して、自分で姿を消したかの二つだ。だとしたら、見付かる可能性は出てくる。生死を問わなければ。

「あくまで、こいつらの話が真実ならだ」

 前を歩いていた巽が、勇也の腕を掴み自分の方に引っ張る。あやかしから引き離し、柳井と華の側に連れて行く。

「勇也……お前、危機感無さ過ぎ。何、和んでるんだ」

「勇也君は愛されてるからね」

「だとしても、近過ぎです。もう少し、距離感を持って下さい!! 何、懐柔されてるんですか!!」

 やっと自分たちの側に戻って来た勇也に、巽は頭を軽く小突きながら怒る。柳井は呆れて溜め息を吐き、華は十歳近く上の大人を叱り付ける。三人とも、勇也のことを心から心配していた。

「ごめん」

 勇也は三人に素直に頭を下げる。

 仲の良さを見せ付けられたレン太と道化は、後ろから忌々しそうに巽たちを睨み付けていた。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
よくよく考えると ん? となるようなお話を書いてゆくつもりです 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

怪異語り 〜世にも奇妙で怖い話〜

ズマ@怪異語り
ホラー
五分で読める、1話完結のホラー短編・怪談集! 信じようと信じまいと、誰かがどこかで体験した怪異。

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【語るな会の記録】鎖女の話をするな

鳥谷綾斗(とやあやと)
ホラー
語ってはいけない怪談を語る会 通称、語るな会 「怪談は金儲けの道具」だと思っている男子大学生・Kが参加したのは、禁忌の怪談会だった。 美貌の怪談師が語るのは、世にも恐ろしい〈鎖女(くさりおんな)〉の話―― 語ってはいけない怪談は、何故語ってはいけないのか? 語ってはいけない怪談が語られた時、何が起こるのか? そして語るな会が開催された目的とは……? 表紙イラスト……シルエットメーカーさま

処理中です...