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第三章 ミラーハウス
プレミアムツアー
しおりを挟む『まず最初に、御案内させて頂くのが、ミラーハウスです!!』
相変わらず、キャラを完無視した道化の堅苦しい台詞と、
『ミラーハウスに到着~~!! ここはね、一杯、鏡があるんだよ~~』
キャラに徹したウサギのレン太の陽気な声に導かれて、勇也たちはミラーハウスの前までやって来た。
あやかしによる、園内案内ツアー。
それが、道化とレン太が言う特別プログラム、プレミアムツアーの内容だった。
(まさか、あやかしに案内される日が来るなんて思わなかったな……)
人生はつくづく不思議なものだと勇也は思う。いや、そもそも、あやかしが運営する遊園地に来ること事態想像もしていなかった。普通しないだろ。
あやかしである道化とレン太がプレミアムツアーの説明を始めた時、正直、慎んで辞退したかった。「結構です」と。
専門家である柳井の作戦は、閉園まで広場で時間を潰す。至ってシンプルで簡単なものだった。
それが最も理想的だった筈。実際、その作戦でいくつもりだった。なのに、現実は全く違う方向へと進んでいる。
広場から離れない。
何もしない。
誰とも接触しない。
園内の物は一切口にしない。
それが、柳井と華から何度も何度も繰り返し受けた注意だった。
少なくとも他の人とは違い、勇也たちはここに遊びに来た訳じゃない。
ましてや、捜索依頼を達成するために来た訳でもない。
自分の不注意で結ばれてしまった、あやかしとの【縁】を解きに来たのだ。
なのに、なのにだ。今現在進行形で、勇也たちは思いっきりあやかしに関わっている。勇也たちの目の前でアトラクションの説明をしてるのは、勿論あやかしだ。それも【人喰い遊園地】の関係者。
(尚更、【縁】が強くなってるんじゃないのか?)
一抹の不安が勇也の頭を過る。
とはいえ、この選択が間違ってるとは思わない。というか、それしか道がなかった。
「彼らのテリトリー内に来た以上、逆らうことは得策じゃない」
柳井の考えに、勇也たちは険しい顔をしながら賛同した。賛同するしかなかった。
おそらく、逆らえばーー。
最悪、餌にされる。
それとも、このまま閉じ込められて玩具になるか。
どのみち、只では済まない。人生即終了だ。
例え、プラチナチケットを持っていたとしても、無事帰れる保証はどこにもない。そもそも、柳井さん曰く中身が違うらしい。とするなら、肉体だけ解放されても意味がない。中身も一緒じゃないと。
それにだ。
帰って来れた者がチケットを持っていただけで、配分された数=戻って来た人数とは限らない。確かめる術もない。正直、一緒の可能性はかなり低いと勇也たちは考えていた。
それらを考慮する。考慮した上で最悪を想定して動く。これ、結構大事なことだ。
少し冷静になって考えれば、柳井の言う通り、ここはあやかしの誘いに敢えて乗るのが一番最善の手だ。
全員無事に帰ることが最優先すべきこと。これは絶対譲れない。
なら、少しでも可能性がある方を選択するだけだ。それを繰り返す。そして、生き残る確率を自分たちで引き上げる。常に危険と隣り合わせだが。
だけど、それが一番の有効打。
という訳で、勇也たちはプレミアムツアーに参加することにした。だとしても、
(何で、わざわざプレミアムツアーをするんだ……?)
何の意味がある? 疑問は色々残るが、今はそれを考えるのは止めとこう。答えは出ないから考えても無駄だ。でも、少しだけツアーに興味があったのは巽さんたちには内緒だ。怖いもの見たさってやつだ。
無言のまま歩くと五分程で目的地に着く。
道化とウサギのレン太が最初に勇也たちを案内した場所、それは意外にも【ミラーハウス】だった。
そう……あの特に華のない、外れた場所にあるミラーハウスだ。
(普通、ジェットコースターとかじゃないのか!?)
そもそもこのご時世、ミラーハウスがある遊園地自体少ないんじゃないか。とはいえ、全くなくなった訳じゃないだろうけど。
昔、勇也が小さい頃よく行っていた市営の動物園には、何故かミラーハウスがあった。勇也は一度も入ったことないが。
『どうかしましたか? 勇也様』
『ジェットコースターは後だよ。まずは、ミラーハウス。怖くないよ。とって食ったりしないから大丈夫!! 僕と道化が守るから安心してね』
ミラーハウスの入口で足を止める勇也に、道化とレン太が声を掛けてくる。
(一番危ない奴らに守るって言われても、正直困る。……ん、今レン太は何て言った? ジェットコースターって言ったよな!? もしかして、心を読んだのか!?)
考え過ぎかもしれない。だけど、道化とレン太が、他人の考えが読める能力がある気がしてならない。
(俺の声聞こえてるんだろ?)
声に出さずに訊いてみる。
すると道化は無言。レン太は可愛く首を傾げて見せた。無言は肯定。で、レン太、それちっとも可愛くないから。
能力の一部を知られた道化とレン太は、特に気にすることなく、ミラーハウスの入口に立ち勇也たちを待っている。
(はぁ……行くしかないのか…………)
溜め息が漏れる。すごく気が重い。マジ入りたくない。
小さい頃から、どうしても入れなかった。親が宥めすかしても入れなかった。今思えば、あやかしが関わっていたんだろう。暗闇を怖がったのと一緒だ。
やっぱり、足が竦む。
だけど、あやかしが営む遊園地に来て、あやかしを恐れるのも変な話だ。周りにあやかししかいないんだから。仕方ない。いつまでも皆を待たせるのも悪い。勇也は覚悟を決めた。
「勇也君、大丈夫? 無理しなくてもいいからね」
「そうですよ、勇也様」
「嫌なら、嫌と言え。俺たちに構うな」
ここまで来て、自分を気遣ってくれる皆の気持ちがとても嬉しかった。涙が出そうになる。
勇也がミラーハウスを怖がっているのに気付いたからだ。感のいい皆だ。その理由も察してるだろう。なのに、優しい彼らは勇也に逃げ道を用意してくれた。それが、自分たちの生存率を下げると分かっていながらだ。その気持ちだけで十分だ。
勇也はもう一度大きく息を吐き出す。腹を決めた。
何としても皆と一緒に帰りたい。
いや、絶対に一緒に帰るんだ。
改めて強く決意する。その第一歩を逃げずに勇也は踏み出した。
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