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第二章 開園
声
しおりを挟むーー七時二十分。
プラチナチケットに書かれていた開園時間四十分前に、勇也たち四人は桜ドリームパークの跡地に到着した。
巽は側道の脇に愛車を停める。
満月の明かりが周囲を、仄かに照らし出していた。
満月の夜に開園する。これもまた噂通りだった。
田舎だからか、周りに街灯がほぼなかった。あっても、あまり役に立たない程の明るさだ。ましてや、電球が切れ掛かってチカチカしている。だが、満月の明かりだけで十分こと足りるので大丈夫だった。懐中電灯は必要なさそうだ。
周囲が田んぼのせいか、車窓を閉めていても牛蛙の鳴き声がガーガー五月蝿い。
勇也がここに来るのは二度目だ。
(それにしても、こんな辺鄙な場所によく遊園地を造る気になったよな。絶対、上手くいきっこないだろ。税金の無駄。ほんと、呆れるよな)
そんなことを思いながら、勇也は車から下りる。他の皆も続くように車を下りた。
下りて気付く。車を側道に停めているのは、勇也たちだけじゃなかった。ざっと見渡しただけでも、二十台近くは停まっている。よく見れば、自転車も十台近く停まっていた。殆どが県外のナンバーのようだ。
既に三十人程の人が跡地に集まっている。彼らの目的は自分たちと同じだろう。
多くは、十代半ばか二十代。さすがに、小学生の姿は見ない。
意外にも、中年や老人がちらほらいた。彼らの大半は個人で参加したようだった。
ほぼ、SNSを見て集まった人たちだろう。
肝試しや都市伝説に興味を持って、遊び感覚で来たのが大半。後は、行方不明者の親族か親しい人たちといったところか。
個人で参加している人たちは、おそらく後者だろう。
個人で参加した彼らの表情はとても険しい。酷く思い詰めた顔をしている。遊び気分でお気楽な若者たちとは明らかに容貌が違っていた。彼らの周りだけ、異様なまでに空気が張り詰め重い。
誰も当てにならないなら、自分で。
そう考えて、我慢が出来なくなって、今この場に立っているのだろう。色々な覚悟をして。
「……勇也」
巽が軽く勇也の肩を叩く。慰めるように。
口にしなくても分かっている。
彼らは自分の意思で、ここに来たってことは。そして、自分たちに出来ることは何もないってことも。分かってはいるのだ。だからか、胸がギュッと締め付けられる。
勇也はこれ以上、彼らを見ていることが出来なかった。偽善者と罵られてもいい。痛みに逃れるように視線を外す。
幾つかのグループが勇也の目に映った。
暫く眺めていると、ふと……疑問が浮かんだ。
このグループの中で、俺たちと同じように、プラチナチケットを受け取った人間はいるのか、と。
勇也が柳井から、【人喰い遊園地】とあやかしについて話を聞いたあの日の夜。
まるで勇也たちが会うことを知っていたかのように、SNS上に〈桜ドリームパーク〉の新たな情報が一つアップされた。
【八月八日、夜八時。〈桜ドリームパーク〉開園】
開園の日時を報せるものだった。
アップされた日付と時間は、まさに、プラチナチケットに記載されていた時間だった。
つまりこのSNSは、【人喰い遊園地】の関係者、考えたくないが、あやかしがアップしたものの可能性が高いだろう。間違いなくそうだ。悪戯の可能性は極めて低い。
だとしたら、五つの噂全てが真実だということにならないか。極端過ぎるか。まぁ、それが真実かどうかはすぐに分かるだろう。
例え、あやかしたちに仕組まれたものだったとしても、強い【縁】を結んでしまった以上、自分はこの跡地に来なければならなかった。
【人喰い遊園地】を来園しなければならなかった。
あやかしについて、対処の仕方も知識もない自分だけでは不安だと、柳井や華が同行してくれた。
巽は「お前が無茶をしないように監視してやるから安心しろ」と言って、一緒に来てくれた。
三人とも、自分の考えなしの行動のせいで巻き込まれただけなのに。
(この人たちに、足を向けて寝ることなんて、絶対出来ないな)
いくら感謝の言葉を口にしても、しきれない程だ。巽さんの後輩で本当に良かったと心から思える。恥ずかしくて、絶対に口には出来ないが。
感傷に浸ってると、耳に障る甲高い笑い声が聞こえてきた。少し離れた場所にいる、大学生らしきグループからだ。
周りを気にせず、大きな声で馬鹿騒ぎをしていた。外だからいいと思ってるのか。少し酒が入ってるようだ。やたら見た目が派手な集団だった。完全に周りから浮いている。チラチラと女子が柳井と巽の方を伺っている。
(まぁ、二人ともタイプは違うけど美形だからな。俺は完全モブだけど)
あ……一人だけ、普通の顔をした奴がいる。ビールとつまみをせっせと差し出していた。瞬時に、このグループの関係性を理解する。胸糞悪い。でも、特に珍しいことではなかった。
ふと、思う。
談笑している人の中で、一人でも、自分たちが置かれている状況を把握している人はいるのだろうかと。あーーまず、あの大学生のグループはないな。
「多くの人がSNSで、いいねやリツイートをしてるのに、実際、この場に来ているのはこの人数だけ。……皆、危険だって分かってるのよ。中には、覚悟して来ている人たちもいるようだけど……。だから、勇也様や巽様が気にする必要はないの。これっぽっちもね。冷たいようだけど、自己責任よ」
眉をしかめる勇也と巽に、中学生ぐらいにしか見えない華がきっぱりと吐き捨てる。
言ってることは厳しいが、確かに華の言う通りだ。自己責任って言われたら、何も言い返せない。だけど……正直、そこまで割り切れない。
何も言い返せず、更に眉をしかめる勇也と巽をよそに、まだまだ人が集まって来る。騒がしさが一層増す。
「……まるでお祭り騒ぎだな」
彼らにとったらそうだろう。合コンかサークルと大して変わらない。外なだけいつもより弾けている。
『そりゃあ、そうさ。一か月に一度のお祭りだからね』
小さな声でポツリと呟く勇也の耳元で、楽しそうな口調でそう囁く声がした。
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