人喰い遊園地

井藤 美樹

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第一章 闇からの誘い

同業者

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「あのな、勇也。涼とは、ガキの時からの付き合いでな、一応同業者なんだが……ちょっと、俺たちとは畑が違うっていうか……が絡んだ案件を主に請け負ってる」

 わざとらしく勇也から視線を逸らし、何もない宙に視線をやりながら、とても歯切れが悪そうに、巽は目の前にいる青年について語った。

「………………は?」

 それしか言えねー。同業者っていうのはまだ理解出来る。出来るが。

(今、何て言ったよ、この人は? よりにもよって、だって? 冗談だろ)

 冗談だったら相当悪趣味だ。冗談じゃなかったら最悪だ。今後の付き合い方を考えるぞ。真剣にマジで。

 心の中で勇也は悪態を吐く。口にしないだけ偉い。だけど目は正直で、やけに冷め切った目で上司である巽を見据える。

「やっぱ、そういう目で見るよな~~。まだ、嘘つきって罵られるよりマシか……」

 思った通りの反応だったのだろう。巽は苦笑する。

 だが、否定はしない。

 つまり、冗談じゃないってことだ。

「…………マジですか?」

 それしか言えないだろ。

「ああ。こんな嘘を吐いて、俺に何の得がある」

 真顔で返される。

「そりゃあ、そうですけど……」

 いくら信頼している上司で先輩だとしても、いまいち巽の言葉を信じ切れない。

 だって、そうだろ。今まで見たことも感じたことも……ないと否定したい。だがどうしても、ついさっきまで、ねっとりと付きまとっていた視線を思い出してしまうと、言い切れなくて暗くなる。

 自然と重くなる空気。

 どうしても、受け入れ切れたくなくて戸惑う勇也の耳に、場違いな笑い声が聞こえてきた。

 巽と俺の向かいに座っている柳井が、勇也と巽の会話を聞いて笑っていたのだ。勇也はからかわれた気がして少しムッとする。

「……クックック。ごめんね。君たちの会話がコントみたいでおかしくて」

 笑い声を必死に堪えながら柳井は謝る。謝罪になってやしない。

「何がそんなにおかしいんですか?」

(どこに笑う箇所があったんだ。それに、謝りながら笑われても誠意はこれっぽっちも感じないぞ)

 初対面だけど、勇也は苛立ちを隠そうとはしなかった。そんな余裕もなかった。台詞の端々に険をにじませる。

「いやぁ~~だって、そうでしょ。当事者である君が全く信じたくないようだし。それに、巽の困った顔を見るのが、ほんと楽しくて」

 全く気にしない様子で柳井は答える。

「「…………」」

 少しも言葉を飾らない柳井の台詞に、勇也も巽も呆気に取られて何も言い返せない。

(ほんとに楽しそうだな。おい!!)

 見た目と反して、なかなかの悪趣味な性格をしていると内心思うが、勿論口には出さない。代わりに、顔を少ししかめ抗議する。その時だった。

ぬし様、とても楽しそうですね」

 勇也と巽の背後から、明るい少女の声が聞こえたのは。

(マジでそう呼んでるの!? あだ名じゃないよな? この人と主従関係でもあるのか? どう見ても明らかに未成年だよな。ある意味犯罪だぞ、これ。ある趣味の人から見れば、とても羨ましい状況だよな)

 そんなことを考えながら隣を見れば、巽は平然としている。普通に少女のことを華って紹介していたし。まぁ、法に触れてなければいいのか。それってどうなんだ?

 内心、そんな風に思われているとは知らない華は、テーブルに三人分のコーヒーとケーキを置く。自分の分は必要ないようだ。

「どうぞ」

 華は巽と勇也に微笑みながらお茶を勧めると、そのまま柳井の後ろに移動した。自然な動きだ。本当に柳井に仕えているようだと、勇也は思った。

 いまいち、柳井と華の関係性が把握出来ない。再度隣を伺えば、慣れているのか、巽は全然気にしていない様子だった。なら、自分が気にすることじゃないよな。本人が納得してるんだし。

 そんなことを考えていると、柳井がゆっくりと口を開いた。

「……それで、君たちがここに来たのは、【人喰い遊園地】の件だよね」

 特に深刻な表情を見せるわけでもなく、あまりにも世間話のように、さらりと柳井は核心をついてきた。

 その声に、勇也と巽は否応なしに現実に引き戻されたのだった。


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