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43話 数の暴力

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「さて、そろそろ休憩は終わりにしようか」

 軽く摘まめる携帯食料を食べながら休む彼女たちへ、僕は立ち上がって声をかけた。

「魔物、来てる?」

 同じように立ち上がったアリシアが、単刀直入に訊ねる。

「ああ。結構な数がこっちに向かって来てるね。どうやってこっちの気配を探知してるんだか」

「向こうにもノア様と同じ魔法の使い手がいるとか?」

「ということは、魔法系の敵か」

 この世界に生息する魔物は、弱い個体なら魔法などの特殊な技を使ったりはしない。
 厳密には魔力自体は持ってるが、それを操る術を知らないのだという。

 それに対して、中型以上の個体には、魔法や生まれながらの固有スキルとでも呼べばいいのか、そういう異能を持つものがいるとかなんとか。

 あまり考えたくはないが、敵の中に面倒な相手がいたら嫌だなと思う。

「ご安心を、ノア様。アリシアさんもミュリエルもわたしが守ってみせます! ミュリエル、強化の魔法をお願いね」

「う、うん」

 シャロン達も立ち上がり、やる気まんまんに腰の鞘から剣を抜いた。
 やる気は問題ない。
 問題があるとすれば、敵の方か。

 まあ、魔力の反応から察するに、こちらへ向かってくる魔物は弱い個体ばかりだ。
 シャロン達が手こずるような中型以上の個体はいないと思われる。

 だが、

「みんな油断しないようにね。戦闘においては数の差は圧倒的な有利を生む。いくら魔術師がいても、多くの敵に囲まれたらヤバイ」

「ええ。承知してるわ」

 一応、忠告はしておく。
 彼女たちの背後に隠れ、僕は様子を窺った。

 先程の話の続きになるが、それこそ戦争は数がものをいう。
 これは戦争ではないが、ゲームにしろスポーツにしろ、一対多という状況はあまりよろしくない。

 人間にはやれることに限りがあるのだから。

 いくら魔法と呼ばれる奇跡を持とうと、限界はある。
 僕みたいに無限の魔力を持つならともなく、それがない彼女たちには上手く立ち回ってもらいたいものだ。

「! 皆さん、来ます!」

 第六感? もしくは聴覚、嗅覚によって敵の接近を捉えたシャロンが、低い声で後ろの仲間に告げる。

 そして、薄暗い洞窟の奥から——大量の魔物が押し寄せてきた。

「はあ、ほんとに多い。嫌になるわ」

 そう言いながら魔力を練り上げるアリシア。
 必然、全身を覆うように風が吹き出した。
 洞窟の中だと火や土の魔法は使えない。
 水は苦手と言ってたので、ここでもやはり風の魔法を使うらしい。

「——≪身体強化・付与≫」

 戦闘がはじまる直前、一番後ろにいたミュリエルが魔法をかける。

「≪魔力増加・付与≫」

 赤い光と紫の光が、それぞれシャロンとアリシアの体を包む。
 何度見ても付与系の支援魔法は見栄えがいい。

 まるで前世でいう蛍光塗料のようだ。

「ありがとうミュリエル。——行きます!」

 自らの状態をたしかめた後、シャロンは剣を構えて地を蹴った。
 戦闘がはじまる。

 鋭い一撃が魔物の首を断ち、襲いかかる獣の攻撃を避けながら、なるべく攻撃を受けないようシャロンは立ち回る。

 そこへ、

「避けなさい、シャロン!」

「はい!」

 魔力を溜めたアリシアが、ほどほどにデカイ魔法を叩き込む。
 ダンジョンは狭い通路での戦闘が多い。
 それは魔術師によって制約となる場合も多いが、逆に利点となる部分もある。

 今の場合は、利点だ。
 狭い場所では彼女の魔法を避けられない。
 荒れ狂う暴風が、刃を纏って敵を切り刻む。

 深いダメージは負わせられないが、そこそこの敵に重傷を与えた。
 足が止まり、動揺とダメージを受けた敵は、もはやシャロンの敵ではない。

 鬼のように剣を振り回す彼女の刃にかかり、一体、また一体と凄まじい速さで敵が倒されていく。

 しかし、

「くっ……! 敵の数が多い。また後続からきます!」

 シャロンがそう言うと、死体を踏み抜いて新たな魔物が現れた。
 まさに質より量。

 血に飢えた化け物たちが次から次へと考え無しにシャロンへ迫る。

「ああもう! これじゃあキリがないじゃない!」

 今度は乱戦になったため、攻撃範囲を抑えた魔法を撃ちながら、アリシアが愚痴をこぼす。

 ダンジョンにおける魔術師の弱点、味方への巻き込みを危惧する。

「少し、後退しましょう! このままではアリシアの方にもたくさんの敵が!」

「了解よ。ミュリエル、ノア様、下がってくれるかしら?」

 シャロンとアリシアが敵を削りながら、ジリジリ後退していく。
 前に進めず、立ち止まっていれば囲まれる。

 このような状況では後ろに逃げながら戦うしかない。

 僕もミュリエルも反論などせずに大人しく後ろへ下がった。
 だが、その間にも魔物は攻めてくる。

 特に苦しいのはシャロンだ。

 剣を振りながら動くことで、大量のスタミナが消費されていく。
 どこまでもつか……。

「うーん……流石に、この数はまだ三人じゃ難しいかな?」

 不穏、とまではいかないが、徐々に押されはじめた戦況を眺め、僕は呟く。
 そもそも、三人だけでは無理がある。

 せめてもう一人くらい魔術師がいれば、少数でも安定した戦闘に持ち込めるのだが……。

 まあ、当初の目的である戦闘経験を積ませることには成功してる。
 多少、僕が手を出しても問題ないだろう。

 体内を巡る魔力を練り上げて、魔法を構築する。

「——≪死神の鎌エアボレアス≫」

 一度、大きく跳躍。
 シャロンより僅かに前へ出て、待機状態の魔法を前方へ向けて放つ。

 慎重に攻撃範囲を調整して——、

「ッ!?」

 一陣の風が吹いた。
 それを見て、シャロンが息を飲む。

 あれだけうるさかった魔物たちが、斬撃のように放たれた風の刃にて——一様に、胴体を真っ二つにされた。

 これは低級の魔法である風刃をより強力にした魔法。

 ただひたすら攻撃力を上昇させたもので、ゲームにおいては単体技だったが、リアルになったこの異世界においては、ある程度の範囲攻撃にもなる。

 こと、狭い洞窟内なら、十分に範囲は足りるほど。

 バタバタと脳を失った魔物たちは地に倒れ、周囲一帯が鮮血によって穢れた海と化す。
 まさに地獄のような光景だった。
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