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1話 追放されてみた

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「ノア。君は今日かぎりでお払い箱だ。勇者の仲間には相応しくない」


「え……?」

 僕は驚愕の表情を浮かべて、目の前の青年を見た。
 金髪碧眼の勇者と呼ばれる青年を。

「まさか聞こえなかったわけでもあるまい。二度は言いたくないんだが……諦めの悪い君に引導を渡してあげるのも、勇者の——ひいてはリーダーの仕事か。しょうがないな。あえてもう一度言おう。ノア、お前はクビだ。無能という罪を裁くために、追放処分とする」

「そんな! どうして僕が追放なんだ! 今までずっと一緒に頑張ってきたじゃないか!」

「そうだな。どれくらいになる?」

「んー……半年くらい?」

 青年の問いに、隣に並んだ赤髪の少女が答える。

「半年か。結構長かったな。むしろ、よく半年も君をパーティーに在籍させていたと、褒めてほしいくらいだ。何の役にも立たないごく潰しが、どんな感情で俺を見る?」

「僕は……僕は努力してきた。必死に、みんなの役に立とうと——」

「役に立ってないんだよ」

 ピシャリと言葉が遮られる。

「そういう台詞は、本当の意味で役に立った者が口にする言葉だ。君が俺たちに何をしてきた? 足を引っ張り、窮地に追い込んでこそ、窮地を救ったことは一度もない! いい加減にしてくれよノア。一時とはいえ俺の仲間だったなら、ここは潔く諦めろ。どの道、君に救われる道なんてないんだ」

「凡人には過ぎたる夢。所詮、あなたとエリックは違います。勇者と平民の間には、超えることのできない壁がある」

「君まで僕のことをそう思ってたんだね……イリス」

 白銀の髪を揺らす修道服の少女を睨む。
 彼女は半目で僕を見た。

「まるでわたくしが悪役のように言いますね。勘違いしないでください。決してあなたを貶す言葉ではありません。あるがままの事実を述べたまで。貴族は優秀な遺伝子を後世に残すのが仕事。それを全うするわたくし達に、平民のあなたが並べるとでも? それはもはや、貴族に対する侮蔑に他ならない。さて……責められるべきはどちらでしょう?」

「残念でしたね~、ノアさん。あたしは別に、ノアさんのこと嫌いじゃなかったですよ?」

「メイリン!」

 全身真っ黒な装いをまとった謎多き少女、メイリンだけは僕の味方をしてくれる。
 思わず表情がほころんだ。

「あはは、いい表情ですね~。救われた子犬みたいな顔だ。けど、ダメですよノアさん。あたしの言葉でリーダーの、勇者の決定は覆りません。残念ではありますが、我々の旅は終了らしいです」

「メイリン……」

 どうやら止めてくれるわけではなかった。
 ぬか喜びに終わる。

「ようやく理解したかノア。ダリアもイリスもメイリンも、君の追放を止めない。誰もが君に引き留める価値を見い出せない。集団の意見は受け入れられるべき事実だ。これ以上、何か言葉を交わす必要があるかい?」

「……くッ! わかった。諦めるよ。君たちの顔を見れば、どんな言い訳を繕っても無意味だと悟った。僕は、ただのノアとしてこれから生きていく」

「ふはは! そうそう。最後の最後で決断してくれてありがとう、ノア。お荷物がいなくなって清々するよ。なに、いくら無能な君でもハンターくらいにはなれるさ。なんせあの職業は、どんなクズでも名乗れる底辺だからね。よかったじゃないか。生活費くらいは稼げるぞ。魔物と戦えたら——の話だが」

「あははは! 惨め」

「さようならノアさん」

「またどこかで会いましょうノアさん。じゃ」

 おもいおもいに言葉を吐き捨て、彼らはその場をあとにする。
 僕だけが泊る安宿の一室には、膝をつく僕だけが残された。

「……僕が、追放」

 呟き、ふと顔を上げる。
 立ち上がって扉の向こうを見た。
 誰もいない。よし。
 扉を閉めて、

「——く、くく……くはははははは!」

 と盛大に笑った。

「やったぞ! やっと、僕は追放された! あのいけすかない勇者のパーティーから!」

 グッと拳を天に掲げて喜ぶ。

「今日まで長かった……死亡フラグに怯える日々を乗り越え、王命ゆえに自主脱退は認めらず、わざと無能のフリをして、傲慢で短気な勇者と腰巾着な女どもの罵詈雑言を受け流し、半年前から温めてた計画がついに実を結んだんだ! これで俺は自由だ! 死亡フラグも消えた! おおおおおおお!」

 半年前、僕がノアではなく前世で学生だった頃の記憶を思い出して、第二の人生は始まった。
 妙に既視感のあるキャラクター達、世界観を眺め続けて気付く。
 ここが前世でいうゲームの中だと。

 それからは怒涛の勢いで記憶が呼び覚まされる。しかし、中には困った情報もあった。
 元々はモブキャラだったノア。ストーリーの進行上しかたなく死ぬキャラに転生していた僕は、やばいとすぐに状況を理解する。

「そうだ、だったら最初からパーティーにいなきゃいいんだ——と思った過去の僕は天才だね。おかげでパニックになる前に解決策を出せた」

 その解決策が現在。自分の迎えるバッドエンド前にパーティーを抜けちゃえ大作戦である。

 イベントにさえ立ち向かわなければ僕は、ノアは死ぬことがない。
 転生特典で貰った無限の魔力と闇魔法もあるし、今後の生活はエリックの言う通りハンターにでもなって適当に立てる予定だ。

 え? 転生特典を使って未来を変えればよかった?
 いやいやいや。それはあまりにも不確定要素が多く含まれる。世界の強制力によっては同じ結果を辿る可能性が高い。

「それに、僕、あの勇者たちあんまり好きじゃないんだよねぇ。やっぱり主人公プレイヤーじゃないからかな? それとも厳密にはゲームとは異なる異世界だからかな。性格がそもそも合わない」

 ということで、僕が得た転生特典はこんな時のために使われるものだと勝手に解釈しておく。
 自由を得たら好きに世界を見て回るスローライフを送りたいと思ってたんだ。

 だってこの世界は僕が好きだったゲームの世界。
 あの勇者に縛られて生きる人生なんて、なんの面白味もないじゃん?
 世界は任せるよ、彼らにね。

「そうと決まれば今日はさっさと寝よう。明日からやらなきゃいけないことが山のようにあるんだ。まずはハンターの資格を取って——」

 勢いよくベッドに転がりながら、僕はニヤニヤと笑い瞼を閉じる。
 使命感、危機感から解放されて気が緩んだのか。
 視界を閉ざされると、驚くほどあっさり夢の世界に落ちた。
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