スパダリ社長の狼くん

soirée

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第五章

八話

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忍と瞬を含めた関係者四人が佑の部屋に呼び出されて顔を突き合わせていた。忍の言葉が身に沁みたのか、佑本人は不本意なのではないかと思うほどシンプルな部屋だ。ワンルームのリビングの端に据えられた高速PCには相変わらずの5モニターと、いつの間にか増えた液タブ。イラストでも描いているのだろうかと忍は緩く微笑む。その自慢のPCの前のゲーミングチェアに座って佑はいくつものデータファイルを開く。
「で、この人。見た目ですぐわかるけど完全な日系だよ。生まれはウィスコンシン州、大学は同じ州の農業系だ。ウィスコンシンはバイオテクノロジーが盛んなことで有名。忍は知ってるよね、あんたも知ってんじゃない? 安曇さん。けど、この人大学を出て向かった先が物騒なんだ。どこかわかる? バージニア州。言わずと知れた米陸軍のペンタゴンだよ。バイオの技術を持って軍に関わってて、そんな女が育ててたのがアンタ。もう分かるでしょ。安曇さんの予想通りだと俺は思う。瞬、お前を生み出した目的が軍事目的かどうかは知らないけど、あきらかなバイオ実験だ」
 五つのモニターをフル展開しながら事実と仮説を展開していく佑に、瞬が青い顔で口を抑える。槙野が慰める言葉もないまま軽くその背を叩いた。
「けれど佑。君の仮説が事実なら瞬を外に出すはずがない。どういう経緯でハマジマさんは瞬を連れて日本に渡航できるだろう? そんな機密を外に漏らせば……」
「……オレ、なんかハマジマさんがまだこの世にいるとは思えなくなってきたなぁ……シュンを殺処分しようとしたのはもしかしたら彼女なりの優しさなのかもしれない。その後利用されるだけのシュンを思って連れて逃げたんだとしたら……」
悪い予測ばかりが飛び交う中で、槙野が疑問を口にする。
「しかし、当時の黒宮さんは全く何の変哲もない子供でしょう? 生まれ持った血液キメラの特徴はあったとしても、少し変わっているだけの子供ですよ。そんな──黒宮さん、すみません。悪意はないんですが……奇天烈な話を他人が信じるでしょうか。私だって実際に見なければ信じられませんでしたよ」
 沈黙が落ちる。この場にいる全員の、それは共通した思いだ。ここに実際に瞬がいなければ、誰もそんな話をまともに取り合ったはずもなかった。
瞬の手が微かに強張る。小さく持ち上げられた手のひらが耳を塞ごうとするのを優しく遮って忍がその瞳を覗き込む。
「大丈夫。僕たちは何も君を否定してるわけじゃない。たしかに信じられなかったよ。でも今の僕たちはみんな君のそばに望んでいるような人間だ。何も心配いらない。怖がらないで」
 精悍な顔立ちに不釣り合いな、頼りない心細げな視線。忍が静かに尋ねる。傷を開いてしまうかもしれないが、もうここまで来て避けて通ることはできない。
「瞬。僕を信じて。絶対に君を一人にしたりしないしどこかへ突き出すつもりもない。──君の覚えている、ハマジマさんとの記憶を全て話してくれる?」
 それを聴いた途端に走った戸惑いと追い詰められた小動物のような怯えは、忍の視線を受け止めているうちに強い覚悟に変わっていく。もう、怯えなくてもいいことは瞬にも分かる。ここにいる四人は、誰よりも瞬が頼りにできる仲間だ。やや青ざめながらもしっかりと頷いた瞬に、安曇がソファに腰を据える。ここまでデータを元に仮説ばかりを組み立ててきた真実にようやく辿り着けるまでもう後少し。佑も興味深そうな顔をしている。心配そうな槙野と、安心させるようにそっと手を握ってくれる忍。
(大丈夫だ……それにこんなことに使ってる時間が惜しい)
 閉ざされた記憶の奥へと思いを馳せる。もう、顔も覚えていないのにずっと求めてやまない最初の飼い主。
「母さんは……」

 語り出す瞬の言葉が無音の部屋に染み渡っては消えていく。懐かしそうに、嬉しそうに、時に恥じるように彼が語る……冷たい関係が哀しかった。

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