7 / 129
第一章
六話
しおりを挟む
新しく届いたベッドの寝心地の良さに思わず何度も寝返りを打ってごろごろする瞬を見て忍が笑う。完全に新しい寝床を与えられた犬だ。
「気に入った?」
「すげえ気持ちいい」
これも狼の血が関係するのかモデル並みに高い身長でも窮屈さを感じさせないそのベッドは、スプリングも体格の良い相手が寝ることを想定しており適度な沈み込みで腰の負担がほとんどない優れものだ。
目を閉じてうっとりしているその体に、クローゼットから出してきた布団をかけてやる。
「午前からよく働いたから少し昼寝したらいい。随分眠そうに見えるからね」
「わり……この姿の間はどうしても昼間眠くなっちまって……」
「別に言い訳するようなことじゃないよ。僕は少し在宅でできる仕事を片付けているから目が覚めたら教えて。安曇くんのところに行くよ」
「安曇って……」
「昨日君にタバコをくれた飼い主キラーの獣医だよ。君の足の骨のレントゲンがおかしいって連絡があったから」
「ああ、これ? 治るのか?」
「心当たりがあるの?」
「三年くらい前に俺を飼ってた飼い主に殴られた時に脱臼したんだよ。医者連れてってもらえないでいるうちになんか痛くなくなったからそのままにしてたんだ」
足首を持ち上げたその形状に今更ながら気づく。よくこれで耐え抜いたものだとしかいいようがない。
だがそんなことより、これは彼に何も知らせずに連れて行く案件ではない。連れて行く前に安曇に確認を取らなければならない。トラウマレベルの治療になるなら姿が戻るのを待って人間用の病院で麻酔をかけた方がいい。
「……──まぁ、あの病院で治療するかはわからないけどね。とりあえず一眠りしておいで」
満足そうに布団に顔を埋めている青年を部屋に残し、忍はこっそりと安曇とリモート通話を繋いだ。
「裕也。人が悪いんじゃないかな。この治療は彼に教えずに連れて行ってたら悲惨なことになるものだろう?」
「ああ、やっぱり気づいた? あの足首戻すのはかなり痛そうだよね」
飼い主キラーの異名を持つ安曇の顔を軽く睨んで忍がため息を絞り出す。
「どうしてそんなに急ぐ必要が? 姿が戻るのを待って人間用の病院にかかった方が──」
「急ぐ急がないじゃないんだよ。あのレベルの怪我を放置していたことが分かれば医者なら誰だって不信を抱く。その上あの子、足の親指の骨の形状が若干イヌ科寄りなんだ。元に戻すにしても怪しまれるだろうね。オレの病院ならその辺の事情は全部誤魔化せるよっていうオプションがつくだけ」
背後に貼られたレントゲンを指で叩いて見せる安曇に、忍は再度ため息を絞り出す。
「全身麻酔は?」
「ムリ。うちに人間用の麻酔医はいない。耐えてもらうしかない」
しばらく悩んだ末に忍は首を振る。
「ダメだ。そんな治療を受けさせるわけには──」
「あのままにしといて本当にいいの? 歩けなくなっても知らないよ?」
正鵠を射た言葉に眉根がよる。
脱臼を放置した関節を戻すのは、大人の男が失禁してもおかしくないレベルの痛みを伴う。せっかく心を許してくれようとしているあの青年に今することだろうか?
「飼い主でしょ?」
安曇のセリフに腹を括る。
連れて行くしかない。
「気に入った?」
「すげえ気持ちいい」
これも狼の血が関係するのかモデル並みに高い身長でも窮屈さを感じさせないそのベッドは、スプリングも体格の良い相手が寝ることを想定しており適度な沈み込みで腰の負担がほとんどない優れものだ。
目を閉じてうっとりしているその体に、クローゼットから出してきた布団をかけてやる。
「午前からよく働いたから少し昼寝したらいい。随分眠そうに見えるからね」
「わり……この姿の間はどうしても昼間眠くなっちまって……」
「別に言い訳するようなことじゃないよ。僕は少し在宅でできる仕事を片付けているから目が覚めたら教えて。安曇くんのところに行くよ」
「安曇って……」
「昨日君にタバコをくれた飼い主キラーの獣医だよ。君の足の骨のレントゲンがおかしいって連絡があったから」
「ああ、これ? 治るのか?」
「心当たりがあるの?」
「三年くらい前に俺を飼ってた飼い主に殴られた時に脱臼したんだよ。医者連れてってもらえないでいるうちになんか痛くなくなったからそのままにしてたんだ」
足首を持ち上げたその形状に今更ながら気づく。よくこれで耐え抜いたものだとしかいいようがない。
だがそんなことより、これは彼に何も知らせずに連れて行く案件ではない。連れて行く前に安曇に確認を取らなければならない。トラウマレベルの治療になるなら姿が戻るのを待って人間用の病院で麻酔をかけた方がいい。
「……──まぁ、あの病院で治療するかはわからないけどね。とりあえず一眠りしておいで」
満足そうに布団に顔を埋めている青年を部屋に残し、忍はこっそりと安曇とリモート通話を繋いだ。
「裕也。人が悪いんじゃないかな。この治療は彼に教えずに連れて行ってたら悲惨なことになるものだろう?」
「ああ、やっぱり気づいた? あの足首戻すのはかなり痛そうだよね」
飼い主キラーの異名を持つ安曇の顔を軽く睨んで忍がため息を絞り出す。
「どうしてそんなに急ぐ必要が? 姿が戻るのを待って人間用の病院にかかった方が──」
「急ぐ急がないじゃないんだよ。あのレベルの怪我を放置していたことが分かれば医者なら誰だって不信を抱く。その上あの子、足の親指の骨の形状が若干イヌ科寄りなんだ。元に戻すにしても怪しまれるだろうね。オレの病院ならその辺の事情は全部誤魔化せるよっていうオプションがつくだけ」
背後に貼られたレントゲンを指で叩いて見せる安曇に、忍は再度ため息を絞り出す。
「全身麻酔は?」
「ムリ。うちに人間用の麻酔医はいない。耐えてもらうしかない」
しばらく悩んだ末に忍は首を振る。
「ダメだ。そんな治療を受けさせるわけには──」
「あのままにしといて本当にいいの? 歩けなくなっても知らないよ?」
正鵠を射た言葉に眉根がよる。
脱臼を放置した関節を戻すのは、大人の男が失禁してもおかしくないレベルの痛みを伴う。せっかく心を許してくれようとしているあの青年に今することだろうか?
「飼い主でしょ?」
安曇のセリフに腹を括る。
連れて行くしかない。
41
お気に入りに追加
622
あなたにおすすめの小説
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
兄さん、僕貴方にだけSubになるDomなんです!
かぎのえみずる
BL
双子の兄を持つ章吾は、大人顔負けのDomとして生まれてきたはずなのに、兄にだけはSubになってしまう性質で。
幼少期に分かって以来兄を避けていたが、二十歳を超える頃、再会し二人の歯車がまた巡る
Dom/Subユニバースボーイズラブです。
初めてDom/Subユニバース書いてみたので違和感あっても気にしないでください。
Dom/Subユニバースの用語説明なしです。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる