スパダリ社長の狼くん

soirée

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第一章

六話

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 新しく届いたベッドの寝心地の良さに思わず何度も寝返りを打ってごろごろする瞬を見て忍が笑う。完全に新しい寝床を与えられた犬だ。

「気に入った?」
「すげえ気持ちいい」

 これも狼の血が関係するのかモデル並みに高い身長でも窮屈さを感じさせないそのベッドは、スプリングも体格の良い相手が寝ることを想定しており適度な沈み込みで腰の負担がほとんどない優れものだ。
目を閉じてうっとりしているその体に、クローゼットから出してきた布団をかけてやる。

「午前からよく働いたから少し昼寝したらいい。随分眠そうに見えるからね」
「わり……この姿の間はどうしても昼間眠くなっちまって……」
「別に言い訳するようなことじゃないよ。僕は少し在宅でできる仕事を片付けているから目が覚めたら教えて。安曇くんのところに行くよ」
「安曇って……」
「昨日君にタバコをくれた飼い主キラーの獣医だよ。君の足の骨のレントゲンがおかしいって連絡があったから」
「ああ、これ? 治るのか?」
「心当たりがあるの?」
「三年くらい前に俺を飼ってた飼い主に殴られた時に脱臼したんだよ。医者連れてってもらえないでいるうちになんか痛くなくなったからそのままにしてたんだ」

足首を持ち上げたその形状に今更ながら気づく。よくこれで耐え抜いたものだとしかいいようがない。


だがそんなことより、これは彼に何も知らせずに連れて行く案件ではない。連れて行く前に安曇に確認を取らなければならない。トラウマレベルの治療になるなら姿が戻るのを待って人間用の病院で麻酔をかけた方がいい。
「……──まぁ、あの病院で治療するかはわからないけどね。とりあえず一眠りしておいで」

満足そうに布団に顔を埋めている青年を部屋に残し、忍はこっそりと安曇とリモート通話を繋いだ。






「裕也。人が悪いんじゃないかな。この治療は彼に教えずに連れて行ってたら悲惨なことになるものだろう?」
「ああ、やっぱり気づいた? あの足首戻すのはかなり痛そうだよね」

飼い主キラーの異名を持つ安曇の顔を軽く睨んで忍がため息を絞り出す。
「どうしてそんなに急ぐ必要が? 姿が戻るのを待って人間用の病院にかかった方が──」
「急ぐ急がないじゃないんだよ。あのレベルの怪我を放置していたことが分かれば医者なら誰だって不信を抱く。その上あの子、足の親指の骨の形状が若干イヌ科寄りなんだ。元に戻すにしても怪しまれるだろうね。オレの病院ならその辺の事情は全部誤魔化せるよっていうオプションがつくだけ」
背後に貼られたレントゲンを指で叩いて見せる安曇に、忍は再度ため息を絞り出す。
「全身麻酔は?」
「ムリ。うちに人間用の麻酔医はいない。耐えてもらうしかない」
しばらく悩んだ末に忍は首を振る。
「ダメだ。そんな治療を受けさせるわけには──」
「あのままにしといて本当にいいの? 歩けなくなっても知らないよ?」

正鵠を射た言葉に眉根がよる。
脱臼を放置した関節を戻すのは、大人の男が失禁してもおかしくないレベルの痛みを伴う。せっかく心を許してくれようとしているあの青年に今することだろうか?

「飼い主でしょ?」

安曇のセリフに腹を括る。

連れて行くしかない。

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