スパダリ社長の狼くん【2】

第三章

18話

「山岸さんと社長の関係がなんなのかは俺らは知らないですけど、でもそう思うなら尚更伊南さんは放置しちゃまずいんじゃないかと俺は思いますけど。あいつ立ち回りはすげー巧いですからね。それに、言っちゃなんですが黒宮はお人好しにバカがつくような性格だ。周りが排除しなけりゃ上辺だけの謝罪でも受け入れちまいますよ」

　真剣に瞬のために策を講じるところはお前だってバカがつく人たらしだよ、と内心毒づきながら、藍原も無理やり頭を討論に引き戻す。

「山岸さん。ある程度情報をもらえたら、山岸さんから社長へは最低限の報告だけでいいんです。多分こいつが本領発揮しますから。ただ、ああ言う人だから何かあった時に被害者だと言い張って騒ぎかねない。その時のために証拠を集めていて欲しいんです。今回のような音声データ、もしこの先カメラに引っ掛かることがあればその映像とか。本気で裁判なんて起こさないでしょう、向こうもばかじゃない。ただ、不本意な方法ですが、最後の切り札として使えるって言うことなんです」


　佑が暫し沈黙する。回転の速い頭脳が天秤にかけた瞬の現状と忍の体裁を慎重に測り、答えを出しあぐねていた。

　本音を言えば、佑は槙野と同じ考えの持ち主だ。瞬は忍にとっての唯一の弱点であり、何があっても冷静さを失わずに行動する忍を狂わせうるオーパーツなのだ。会社から排除したい気持ちはないわけではなかった。ただ、どう考えても今の忍はそうすることで一番狂わせられてしまうことが分かるだけに……とかく問題を起こすなと言い含めてそばに置いておくのが一番だとしか言えないのだった。

「……まぁ、俺は文字通りセキュリティ部門の人間だし、うちのカメラの提供先に警察も含まれてるのは言わずもがなでしょ。社内だけは無法地帯だなんてそんなことは忍が許さないよ。もちろんコンプライアンス違反については報告するし、暴力沙汰なら懲戒解雇だってあって当然だとは思う。できることは協力する。ただ一つ条件がある」

佑が口にしたその「条件」を小耳に挟みながら、秋平が小さく頷いてやった。