スパダリ社長の狼くん【2】

soirée

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第三章

14話

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「ねぇ、ちょ……も、嫌だってしつこいっ……」

音をあげてベッドから逃れようとする佑に秋平が小さく笑う。

「お前、俺が抜いてやらないと絶対自分でしないだろ? そんなに溜まってんのは身体に悪い。戻れ」
「っ……、うるさいな! 今日はその気じゃないんだってば!」



 言葉とは裏腹に濡れ切った瞳と吐息、色づいた肌。秋平が忙しさにかまけて相手をしてやれないまま一週間も過ぎてしまい、悪かったのは自分だとは思いつつもここまでして秋平を近づけさせない理由をもう知っている以上はお仕置きしないわけにはいかない。いや、この場合はお仕置きではないはず。我慢をさせすぎたのだから限界までリワードを与えてやりたいだけだ。

「その気じゃない、ねぇ……随分身体は限界みたいだけど? 佑くん、最初に俺、言ったよね。限界を分からない子は嫌いだよって。……こんな物挿れて、俺以外に慰めさせるほどシて欲しかったならちゃんとおねだりしないと」

 ビクンっ、と分かりやすく動きを止めた佑の視界にあえて少し入るように、複数台あるリモコンをポケットの中でonにする。がくがくと佑の腰が震え、立っていられなくなった足から頽れるように床にへたり込む。その間も身体は跳ね、押し殺そうと懸命に歯を食いしばっていても漏れる快楽混じりの吐息が唇からこぼれ落ちる。
 なまじ見た目が可愛らしい──そう、おそらく女装をさせれば誰もが騙されてしまうであろう容姿であるせいか、妙な背徳感があった。秋平はゲイ寄りのノーマルという性嗜好だが、佑ほど性癖が混乱を起こす相手は今まで見たことがない。体の線自体は完全な男だ。元々の骨格は忍ほど華奢ではなく、節もしっかりとしていて、筋肉こそほとんど運動しないせいでついていないものの、だからこそ第二次性徴を迎える前の女子のような妙な平坦さがある。そのアンバランスさがなんとも唆るのである。そして首から下を隠して肌に多少の加工アプリでも使えば、顔だけならばその辺にいる売れないアイドルなどよりよほど童顔で整っているのだ。こんな見た目の佑が秋平と出会うまで行きずりの相手とエッジプレイ──Domのやりたい放題のプレイをしていたと聞かされた時には、よく犯罪に巻き込まれなかったと内心ほっとしたものだ。



 それはともかく、佑本人はこの状況に陥ることは予測の範囲外で、まさかこっそり買ったアダルトグッズがバレていることももちろん、それで自慰をしている最中に部屋に入ってこられるとも、あまつさえそのリモコンが秋平の手に渡っているなどとも夢にも思っていなかった。ケーブルを使うタイプではないから、下着の下に隠して何でもない顔をして誤魔化そうとしたらこれだ。
 細めのディルドが小刻みに震えて、よりにもよって前立腺を直撃している。初めて購入したので刺激が強すぎるものはどうにも抵抗があり、サイズもそんなに巨大な物は選ばなかった。なのにどうしてこんなに的確に当たるんだとおかしくなりそうな頭の中で毒づく。

(くそっ……レビューぜってぇ書かない……っ、……うあ、も……だめイく……っ)

 限界を感じて抵抗を諦めた途端にディルドの振動がぴたりと止まる。身体の奥が物足りなさで暴走し、ぎゅうぎゅうとディルドを締め上げるように収縮する。

「な、ん……でっ……」
「うん? いや、俺の言ったこと聞いてた? シてほしいならちゃんとおねだりしないと。勝手にこんなもの買って……しかも一人で使ってたんだろ? まあでも初心者らしいもの選んじゃったみたいだし、どうせ物足りないんだろ」


 ベッド戻って、と命令されて、微かに残った理性がこのまま戻ったらどんなに苛められるか分からないと頑固にかぶりを振らせてしまう。秋平からしたら佑のこういう素直でないところは如何にしてその砦を崩壊させるかという攻防戦を含めて楽しめるという点で非常に相性がいい。主人である秋平の征服欲が異常に高いのに対して、奴隷である佑がギリギリまで抗う性格なので釣り合いが取れているのである。瞬のようにすぐに何もかもを受け入れていうなりになってしまうSubでは、秋平の欲は天井知らずでエスカレートして犯罪じみたものにもなってしまう。忍のように諦めを覚えて無抵抗に絶望してしまう相手だと、相手はもう反応を返す余力もないほどに磨耗しているにも関わらず、力ずくでねじ伏せていることを実感したいという歪んだ欲求で自死寸前まで痛めつけてしまう。
 もうこれはどうしようもないもので、長年付き合ってきたこの異常な欲への対抗策は抑制剤しかないと思っていた。


「んー……じゃあ俺と賭けをしてみる?」
「は……? 何言ってんの……?」

はぁ、はぁ、と熱っぽい呼吸を繰り返す佑をベッドで悠然と座って眺めたまま、ポケットの中でまたスイッチを操作する。

「っ!! あっ……ぅ、んんんっ、は、ああっ……」

 しばらく身悶えする佑を目で楽しんだのちに、またイキそうになるタイミングを見計らってスイッチを切る。
「俺がいいっていうまでStayしろ。もしCumしろって言う前にイったらそうだな……その度にノルマを増やそうか。最初の設定は5回にしてやる。ああ、ドライでも潮吹きでもそれはいい。俺の許しなしにイくたびに1回ずつ達成回数を増やす。君がエロすぎて我慢できずに俺が突っ込んじまったら佑が欲しがってた24型タッチ機能付きの液タブ買ってやる。でも寸止めに耐えられなくなったりオモチャじゃ嫌だって佑がおねだりしちまったら……そうだな。漏らすまで攻める」

 余裕がない思考回路でも、提示された条件が破格なのはわかる。なにしろ佑が欲しがっているその液晶タブレットは40万円近い価格だ。この程度の責めに耐えれば買ってくれるのならば、と一瞬靡きかけたが聞き捨てならない部分に気がついて問い返す。

「いや、なにそれ……俺最低5回イくんでしょ……? そんなん、漏らすまでも何も……」

 涙の滲んだ瞳でもしっかりと聞くべきところは聞いている佑に秋平が堪えきれずに笑う。頭がいいのはこういうところではないところで発揮してほしい。そう、たとえば初めて買うディルドは自宅に届けるのではなくどこかのコンビニで受け取るなり何なり……まぁ、今後も面白い届け物がありそうなのであえて教えないが。

「ふうん? 5回もイかされたらお漏らしする自信でもあるのか? なら尚更躾けなきゃな。俺と付き合ってるうちにちょっとやそっとじゃイかない身体になるから安心しろ」
「なんか透ってたまに怖いこと言うよね……んっ!! ちょ、俺賭けに乗るなんて言ってなっ……は、ぁん……んんんん!! う、ぁっ、ちょ……ホントにこれっ……」
流されそうになったその瞬間、別の振動で腰が砕けた。止まらない振動は尻ポケットのスマートフォンだ。助かったはずなのにこの状況では何も喜べない。
「とお、る……待て、待って本当に……電話、多分会社のっ……」
 実に7台のスマートフォンを使い分ける佑はそれぞれの端末の通知音とバイブレーションのパターンを変えている。会社用の着信を告げるサウンドとバイブだと回らない頭でも即座に判断し、震える指をリングに引っ掛けて引っ張り出す。面白そうな顔をしながら一旦ディルドの振動を止めた恋人を横目で睨みつけ、上がった息を整えながら平常心を装って通話に出る。
 相手が誰かも確認できないままの佑に、聞き覚えのない声が「夜分にすみません。ファイナンシャル事業部の藍原です」と夜更けの連絡を詫びた。
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