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第一章
6話
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カウンターに座って忍の見様見真似でメニューから適当なカクテルを選ぶ。小さなカクテルグラスは、瞬のやけくそな気分も手伝って次々と空いていく。笹野が着いた頃には瞬はすでに酔い潰れてしまう寸前だった。
「悪い、遅くなったな。今回の相手ちょっと面倒くさくて」
何が、とは言わなかったが、つまりはトラブったのだろう。瞬のとろんとした目を眺めてマスターに何杯飲んだのかと尋ねると、15杯という数字が返り耳を疑った。瞬はアルコールに強い体質ではない。まずいなと舌打ちして水を頼み、無理やりに飲ませる。
「黒宮、お前どうかしてるぜ? 社長がめちゃくちゃ探してるだろ今頃……帰るぞ。立てる?」
肩を担ぎ上げて立たせるが、瞬は甘えるように抱きついてきて話にならない。
(くっそ重てぇ……連れて帰れねーぞこんなん)
「マスター。VIP部屋貸して。こいつSubなんだわ、危なくて置いてけねぇから」
笹野のセフレの中には第二性を持つ人間もわずかだがいる。セックスとプレイは別と考える彼らは、ハードなプレイの後の鞭の跡を平然と晒して笹野と体を重ねるのだ。えげつない仕置きの跡にたまに引くことはあった。そして彼らがよく指定してくるのがこの店だ。瞬は知っているのかどうなのか、ここはDomとSubの出会いの場としては有名な店で、うまくマッチングして人前ではできないようなプレイに持ち込みたい場合は追加料金を払えばVIPルームと呼ばれるプレイ専用の部屋を貸してもらえる。マスターと二人係で瞬を運び、やれやれとベッドに下ろす。
朦朧とはしているものの意識はまだある瞬に、呆れたような顔で尋ねる。
「で? どうしたんよ。社長ラブなお前がどうしてこんなマッチングバーで一人で前後不覚になるまで飲んでんの? しかも呼び出した相手は俺だって分かってんの?」
「笹野……お前どうして一人の相手に絞んないの?」
笹野の問いは完全に無視し、酔った勢いに任せて普段は聞きにくいようなことをあけすけに尋ねる。忍がどうして平然と複数のSubに手を差し伸べるのか分からない。瞬は忍にしか心を許していないのに。笹野が目玉をぐるりと回してみせる。
「いきなりそんなこと聞くか……まあ、俺の場合はちゃんと本命はいるよ。そいつに気を遣わせないためだな」
「どういうことだよ……そんなの逆に……」
「傷つくだろって? そうだなー、普通はそうかもな。でも俺の本命はちょい特殊だ。俺が真剣に考えてるって思っちまうと負担になる。大事だからこそその他大勢なんだよって思わせてんだよ。むしろその他大勢なのは俺の方なんだけどな。まぁあとは簡単に言やぁ、その本命を俺は抱くわけにはいかねんだわ。そんなことしたらそいつはマジで傷つくからな。そうは言っても俺だっていくらなんでもオナってるだけじゃ溜まるからだ」
酔い潰れる寸前の瞬の要領を得ない質問にも笹野はきちんと考えてくれる。笹野のいいところはこういうところだ。なんだかんだとだらしないように見せかけてはいるが、営業でもすぐに信頼を得てくるように相手への向き合い方は真摯で、良くも悪くも嘘つきだ。
相手のための優しい嘘をつける。
「……藍原なのか?」
「言わないでやってくれよ。あいつには家庭もある。あいつが本気で好きだって大事にしてんのは萌絵ちゃんだし、それでもあいつは俺があの会社からいなくなったら孤立してどうしていいか分からなくなっちまう。あいつのために隠してやってくれ」
「……笹野、すごい優しいんだな……」
半分眠りそうになりながらも瞬が心を打たれたように呟く。何言ってんだか、と笹野が苦笑した。
「お前の恋人だってそうだろ。だから心配かけてやるなよ」
その言葉は眠り込んでしまった瞬の耳には届かなかった。
「悪い、遅くなったな。今回の相手ちょっと面倒くさくて」
何が、とは言わなかったが、つまりはトラブったのだろう。瞬のとろんとした目を眺めてマスターに何杯飲んだのかと尋ねると、15杯という数字が返り耳を疑った。瞬はアルコールに強い体質ではない。まずいなと舌打ちして水を頼み、無理やりに飲ませる。
「黒宮、お前どうかしてるぜ? 社長がめちゃくちゃ探してるだろ今頃……帰るぞ。立てる?」
肩を担ぎ上げて立たせるが、瞬は甘えるように抱きついてきて話にならない。
(くっそ重てぇ……連れて帰れねーぞこんなん)
「マスター。VIP部屋貸して。こいつSubなんだわ、危なくて置いてけねぇから」
笹野のセフレの中には第二性を持つ人間もわずかだがいる。セックスとプレイは別と考える彼らは、ハードなプレイの後の鞭の跡を平然と晒して笹野と体を重ねるのだ。えげつない仕置きの跡にたまに引くことはあった。そして彼らがよく指定してくるのがこの店だ。瞬は知っているのかどうなのか、ここはDomとSubの出会いの場としては有名な店で、うまくマッチングして人前ではできないようなプレイに持ち込みたい場合は追加料金を払えばVIPルームと呼ばれるプレイ専用の部屋を貸してもらえる。マスターと二人係で瞬を運び、やれやれとベッドに下ろす。
朦朧とはしているものの意識はまだある瞬に、呆れたような顔で尋ねる。
「で? どうしたんよ。社長ラブなお前がどうしてこんなマッチングバーで一人で前後不覚になるまで飲んでんの? しかも呼び出した相手は俺だって分かってんの?」
「笹野……お前どうして一人の相手に絞んないの?」
笹野の問いは完全に無視し、酔った勢いに任せて普段は聞きにくいようなことをあけすけに尋ねる。忍がどうして平然と複数のSubに手を差し伸べるのか分からない。瞬は忍にしか心を許していないのに。笹野が目玉をぐるりと回してみせる。
「いきなりそんなこと聞くか……まあ、俺の場合はちゃんと本命はいるよ。そいつに気を遣わせないためだな」
「どういうことだよ……そんなの逆に……」
「傷つくだろって? そうだなー、普通はそうかもな。でも俺の本命はちょい特殊だ。俺が真剣に考えてるって思っちまうと負担になる。大事だからこそその他大勢なんだよって思わせてんだよ。むしろその他大勢なのは俺の方なんだけどな。まぁあとは簡単に言やぁ、その本命を俺は抱くわけにはいかねんだわ。そんなことしたらそいつはマジで傷つくからな。そうは言っても俺だっていくらなんでもオナってるだけじゃ溜まるからだ」
酔い潰れる寸前の瞬の要領を得ない質問にも笹野はきちんと考えてくれる。笹野のいいところはこういうところだ。なんだかんだとだらしないように見せかけてはいるが、営業でもすぐに信頼を得てくるように相手への向き合い方は真摯で、良くも悪くも嘘つきだ。
相手のための優しい嘘をつける。
「……藍原なのか?」
「言わないでやってくれよ。あいつには家庭もある。あいつが本気で好きだって大事にしてんのは萌絵ちゃんだし、それでもあいつは俺があの会社からいなくなったら孤立してどうしていいか分からなくなっちまう。あいつのために隠してやってくれ」
「……笹野、すごい優しいんだな……」
半分眠りそうになりながらも瞬が心を打たれたように呟く。何言ってんだか、と笹野が苦笑した。
「お前の恋人だってそうだろ。だから心配かけてやるなよ」
その言葉は眠り込んでしまった瞬の耳には届かなかった。
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