スパダリ社長の狼くん【2】

soirée

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第一章

5話

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 佑の家に遊びに行ってくる、と忍に告げて、ワンルームの部屋に押しかけてからすでに9時間。とっくに門限は過ぎている。佑のベッドに図々しく寝転がって最新のゲーム機で遊んでいる瞬に、ゲーミングチェアを回転させながら部屋の主がうんざりした顔をする。

「あんたいつまでいるんだよ。俺、一人時間が大事なタイプなんだよね。それにあんたがここでぐずぐずしてると忍が迎えにくるんじゃないの? 俺まで怒られるのホント嫌なんだけど」
「んー……いいだろ。泊めて。今夜は帰りたくない」

佑を見もしないままそう言う瞬に佑が眼鏡を外す。実は佑は近眼でも乱視でもない。こだわり抜いたアイスブルーと鼈甲の眼鏡はブルーライト対策なのである。佑ほどの時間を画面と睨めっこで過ごすのであれば当然だった。

「いいのかよ? なぁ、あのさ、前から思ってたんだけどアンタ忍に甘やかされすぎじゃない? 悪いこと言わないから本気で怒らせる前に帰れよ」

ちら、と視線を上げた瞬の目が何か言いたそうなのに気づいて、なんだよ、と尋ね返す。

「お前、忍の元恋人なんだよな?」
「元ってわざわざ言う? ムカつくな」
「……忍がDomなのは知ってるのか?」

思い詰めたような声音に眉を寄せる。当たり前だ。第二性の持ち主の多くはパートナーと恋人は同じなのだから。

「そりゃ……付き合う相手にはプレイだって求めるだろ。知ってるに決まってるじゃん」
「……その、あのさ……その……」

 言いかけては言い淀んで口を閉じる瞬に佑が痺れを切らした。朝の9時から押しかけてきた挙句にこれだ。これでも佑だって暇ではない。瞬がそうであるように、佑だってSubとしてDomとのプレイは必須なのだ。忍との関係が切れた今、佑には新しい恋人がいる。そしてその恋人は何があっても忍には知られてはいけない相手な上、佑に関してはねちっこいほどに躾が厳しい相手なのだ。そしてその恋人との待ち合わせまであと2時間。準備をしたいのにいつまでも瞬が帰らないせいでできない。同じ同性のパートナーの持ち主として察しろよとイライラもする。
「言いたいことあんならハッキリ言って。あのな、俺もこのあとデートなの! 分かる? 洗ってローション仕込んでプラグで塞ぐとこまでやんなきゃいけないんだよ、いい加減帰れよ!」
「わっ……悪い!! あのさっ……!! 忍にお仕置きされたことある……か……? あとでLINEでいいから教えてっ……」
「はぁ?!」

佑がもう勘弁してくれと言わんばかりに瞬を部屋から叩き出す。

「そんなこと人に言えるか! 忍に聞けばいいだろ、もうなんなんだよ……」

 アパートの廊下で立ち尽くす。どうしよう。帰りたくない。ガーデンパーティーの時のあの光景が目の裏にちらついてどうしても忍の元に素直に帰る気になれない。
 忍はもしかしたら本当にたくさんのSubと関係を持っているのかもしれない。瞬はその大勢のうちの一人にすぎないのかもしれない。現に忍は槙野にも佑にも安曇にも、誰にでも分け隔てなく優しい。瞬にだけ特別に優しいわけじゃない……。
 仕方なくアパートのエントランスから出て、スマホを見下ろす。今の瞬にはこんな時でも連絡していいかも、と思える数人がいる。だが、藍原と安曇には家庭がある。槙野には小言を喰らいそうだし、忍に心配をかけるなと連れ戻されてしまいそうだ。迷った末に笹野の番号をタップした。
 

 しばらくのコールのあとで明らかに賢者タイムと思われる声で笹野が出る。

「んー? 何黒宮、どうしたん。お前から連絡くんの初めてじゃね」
「いや……、その、ごめん。今暇じゃないよなその感じだと」
「いや、別に。もうヤったしこれから解散だぜ。シャワーだけ浴びてくからそれ待っててくれれば飲みくらいなら付き合うけど」


 赤裸々な笹野の物言いにやや赤面する。しばらく悩んで、駅前のバーを指定した。
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