殲滅された小国の姫

とうたら

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幸せ

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◇◇◇

わたくし、魔力に磨きをかけとうございますわ」
『『『『わぁ!シルヴィアの魔力、楽しみ!』』』』
『待て。シルヴィアの魔力は我のものだ。我の神力で我慢せよ』
『『『『わぁーい!真神の神力だー!』』』』

 精霊達は嬉しそうだ。魔力を巡る精霊と神の駆け引きにシルヴィアは吹き出してしまった。

「ルフ、ありがとう存じますわ。ルフの為にも、精霊様の為にも、わたくし、これまで以上に精進致しますわ」
『シルヴィアの思うままに生きよ』

 ルフの言葉は、シルヴィアが気付かなかった心の澱を払う。

 昨夜あれほど泣いたのに、再び涙が溢れ出した。

 前世では、子どもの頃から、国のため、民のために、尽くすことが当然の事だった。期待に応えようと必死だった。
 そして、全て失った。

 私は私であることを、初めて許された。
 失ったからこそ、得られた私の居場所。
 私の全てを受け入れてくれる。
 貴方に相応しい私になりたい。

 己を愛せない者が、他者を愛せるはずはない。
 私は私を大切にしよう。
 そして、全身全霊で貴方を想う。

「ルフ、心よりお慕い申しております」
『シルヴィア、其方は我の全てだ』

 シルヴィアはルフの温もりに包まれ、過去の恐怖に疲弊した身も心も解れていく。

「マリー、心配させてごめんなさい。わたくしは悪夢に怯える幼子のままでいたくないの。皆を守れる力が欲しいの。協力してね」
「はい、シルヴィア様」

 過去に囚われ恐れながら生きていたくない。私は非力だが、独りではない。何も取り繕わず無様な自分をさらけ出し、純粋に生きていることを楽しもう。

 シルヴィアは、晴れやかな笑顔で微笑んだ。

「不思議ですわ。安心するとお腹が減るのでしょうか。それとも、泣いたからかしら」
「ふふ。シルヴィア様、すぐにお持ち致します」
「ありがとう、マリー」

 いつもの食事時間はとうに過ぎている。

 基本、貴族は朝が遅いので、食事は、早めの軽い昼食を寝台で済ませ、お茶の時間を誰かと楽しみ、夕食は家族揃って食卓を囲む。

「今日も、とっても美味しゅうございますわ」

 新鮮なベビーリーフのサラダには、グレープフルーツを混ぜてある。前世ではなかった柔らかいパンもお気に入りだ。山羊の乳で作ったヨーグルトにはドライフルーツを混ぜてある。

 シルヴィアは一口毎に幸せを噛み締めている。

 満面の笑顔で食事を楽しむシルヴィアの姿を見るのは、マリーの楽しみでもある。

 シルヴィア様は食のお好みも変わられた。以前はお好きだった甘い菓子には手もお付けにならない。かと思うと、苦手だった新鮮な生野菜をこの上ない贅沢な食材のように目を輝かせてお喜びになられる。裏庭にお出になるたびに、果物や野菜をまるで宝石のように愛でていらっしゃる。香草や薬草にもお詳しくなった、と言うより、熟知しているように感じられる。

 シルヴィア様に何が起きたのか気にはなるが、些末なこと。
 シルヴィア様がお幸せなら何も問題ない。

 マリーは綺麗に完食された器を下げ、調理場にシルヴィアの喜び様を伝えた。

 調理場は活気づき、更なる研鑽を積み、益々シルヴィアを喜ばせた。

◇◇◇




補足説明

北国ですが、温泉付近は年中温かく、グレープフルーツなどの柑橘類も実り、温泉の周辺は酸性の土壌なので、ブルーベリーもたわわに実るという設定です。
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