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第一章
~72~
しおりを挟む◆ミルウェッチ
初めは利用しようと考えて近づいた。
けれど、彼女の気質に、在り方に惹かれてしまった。
近年の精霊殿はかつてと比べて祈りに来る人が少なくなっている。
十年前には国中のいたる所に建ててあった社も、ここ五年僅かの間に随分の数が取り壊され、精霊信仰は廃れていっているのを嫌でも感じていた。
祖父も、父も精霊官を務めており、そんな親を尊敬していた。
私自身が大人となり、精霊官となった時はとても誇らしかった。
それだけに、今のこの国の現状が耐え難かった。
この国で最も大きな精霊殿に突如として現れた彼女、黒髪黒目で、この国の未来を予言してみせた。
彼女を祭り上げて再び信仰を取り戻そうと、彼女を懐柔する事にした。
でも、彼女はとても真面目で、ひたむきで、少し不器用だった。
身分も立場も関係なく、この国を守りたいのだと、協力して欲しいと、自分にはその力が無いから力を貸して欲しいと、
多くの人に頭を下げて協力者を増やし
人命を第一に、被害を最小限に、と浸水対策とやらを説明し
なるべく怪我の無いように、と魔物との戦いでも女性とは思えない程の戦略を披露してみせた。
彼女はとても立派だ。
この国の人々を、仲間を思いやれる人だ。
予言の力に頼るだけでなく、賢くて知識もある。
彼女は称賛されてしかるべき人であるのに、生来の気質なのか周りから軽く見られてしまう所があった。
多分、彼女は子供なのだ。
大人ぶっている子供、という印象だ。
この国に訪れると言う魔物の大量発生を抑えられれば一役英雄だ。とはしゃぐ姿がまさに子供じみている。
まぁ、それに乗った私と殿下も同じようなものかもしれない
私は精霊信仰をかつてのように取り戻す為に、殿下もまた、王族の威厳を取り戻すといきがっていたけれど、彼の本当の望みはもっと俗なものなのではと、邪心してしまう。
実際そうだった訳だけれど
誰が誰を好きになろうが、付き合おうが振られようが関係ないと思っていた。
でも、許せなかった。
何がなんでも好きだから、なんて言うつもりは無い
そもそも略奪愛だとか、独占欲なんて柄でも無い
第三者の目線だったからこそ分かる
真っ直ぐに彼に好意を寄せ、彼の心を支えようとする彼女と
彼女を他の女の代替品にして、自分の都合のいい言葉を吐き出させて満足する男
最低な屑野郎だ。
自分の想いを、感情を抑えるのが苦手な子供同士の不器用な恋だと思い込み見守るには、余りにも苦々しく不愉快な気持ちにさせられる。
かと言って私が彼女を恋愛的な意味で好きかと問われると疑問も上がる。
私のこれは、妹を守る兄のような、そんな感情の気がするのだ。
あんな男にくれてやるくらいなら私が変わりに幸せにするから、だからあいつだけは止めておけ。
そんな過保護な気持ちで彼女に告白してしまったのは、軽率だったかもしれない
彼女の好意の矛先が別人であったなら
実直で無愛想ながらも熱い志しを秘めた男、ギラジュであれば
気弱で引っ込み思案ながらも自身の意思を決して曲げない頑固な男、ビリークであれば
朗らかでいて目の放せない天然な気質の男、マルクスであれば
私は素直に祝福していたかもしれない
いや、結局の所はわからない
彼女が殿下に好意を抱いているのが気に食わないと考えている時点で、誰が相手でも変わらないかもしれないし、そうでないかもしれない
ただ、もう、口に出してしまった言葉を無かった事には出来ない。
これから先の事に想いを馳せる。
殿下のあの落ち込み様、塞ぎ込む事が増え、彼女に縋りみっともなく喚き散らしている。
あんな、救いようの無い男、切り捨ててしまえば良いのに
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