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第一章

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■ミーシャ




「てめぇは山を降りろ。こっから別行動だ。
・・・あと、言っとくが必ず追い付くからな。待ってろとは言わねぇが、新しい従者なんか雇うなよ」

「・・・・お前は、彼等と群れるものだと思ったのだがね」

「チッ、んなわきゃねーだろ」

「誘われていただろう」

「んなもん全部断るに決まってんだろーが」



寒い風の吹く雪山の中腹部
人が住むような集落は人狼の住処だった。

この山には神様がいる。だの
神様の怒りによって人が住めなくなった。だの
山に最も近い町(それでも移動に三十日はかかる場所)で人から人へ語り継がれる御伽噺のような噂を聞いてそれを手掛かりにやって来たのだが
山を登りはじめて、彼等、人狼に取り囲まれたのだった。
引き返せ、とは言われたものの、同族ルークの存在を見留め、暫くの滞在を許されたのだが

私の居ない所で何やらコソコソとルークに話し掛けている。
ルークがその度に首を横に振ったり、手を祓うようにしているが、おそらく勧誘だろう
私に対し敵意の篭った目を向けるに、余程人間が嫌いとみえる

ルークが人狼の者達に勧誘を受けている間に山の方に意識を向けていた。
精霊の気配はしない。
だが何か、とても強い力を感じる。
″神様″等と、何かしらかの比喩だろうとは思うものの、まるで門番のように待ち構えていた彼等と、山の頂上の方から感じる何者かの強い力の奔流を受け
彼等が″神″と崇める何かが居るのだろう
それに興味が湧かないでも無いが、私が山に向かおうとすると目敏く足止めをされてしまう
私の探す答えとは方向性も違う事だし山の調査は諦めようと思ったものの
どうやらルークは何かしら悩む素振りを見せてきた。
彼等に話し掛けられる度に嫌そうにしていたというのに、むしろルークの方から彼等に話し掛けている。

これは心変わりしたか?
ルークがここに身を寄せるというなら快く承諾してやろうと思った矢先にこれだ。


「お前は彼等に対して友好的であったと思うのだが?」

「いんや、全然」

「そうか、しかし・・・・・」


何故私に付き従うのか?
と質問しそうになるも、途中で止める。
雇われた義理を果たす為か、もしくは私に発情するのが理由か
良くもまぁ今の今まで我慢していた事だ。
旅の間、私の事をそういった目で見ていた事は知っていた。
ルークが望むのなら褒美に一度や二度くらいならば体の関係を持ってやっても良いとは思っていたのだが
ルークは決してそれを口にはしなかったし、手を出す事もしなかった。
主人と従者と言う立場を考えての事か、私に婚約者がいる事を考慮したのかは不明だが
私にはそう重要な事でも無いし、どうでも良い事だ。

私が私のしたい事をしているように、ルークもまた何かしらしたい事があるのだろう

「ルークの好きにすれば良い、待っていてやろうか?」

「いや、さっさと降りろ。俺が居ない間にアイツらに殺されるかもしんねーだろが」

「・・山を登るのかね?」

「ああ、やりたい事が出来た」


まるで死地にでも向かうような覚悟の篭った目に
この山の″神″とやらに喧嘩でも売りに行くのかと

「ならこれを渡しておこう」

収納空間からルークの槍を取り出す
予備も合わせて二本、これだけでどうにかなるとは思えんが

「さようなら、ルーク」

「またな、ミーシャ」


どうやら死ぬ気は無いようだ。
一人、山を降りていく
後ろに慣れた気配は無い、とても気楽な事だ。




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