転生した精霊モドキは無自覚に愛される

suiko

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第一章

~52~

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◆メッシュール




「久しぶり、覚えてる?」

「久しぶりだな、メッシュール・ガルパン」

「こっちの人と同じものください。
学院以来だね。あ、そうそうまた学科が増えたんだよ。知ってた?」

「ああ」

「それでさ、学院に戻るって聞いたんだけど本当?」

「ああ」


夜の屋台通りに彼女がいると聞いて丁度暇だった事もあり探してみれば、呑気にお酒を飲んでいた。
彼女らしく、度数の低い酔いにくい酒で、無表情も相まって美味しくなさそうに見える。

「先生が居ない間、この国は凄い変わったよ。
先生が居ればもっと凄い事になってたかもね」

変化は緩やかであり、劇的だった。
王都から離れた港町が主にその舞台であった為か、王都に住む人達はさぞ振り回された事だろう
俺ももう学院を無事に卒業し、それなりに忙しい日々を送ったものだった。
結婚もしたし、子供もいる。
未だに忙しい事に変わりは無いが、それだけ稼ぎもあり、充分に幸せだと言える
それでもやっぱり、

「懐かしいな、俺、ミーシャ先生の事好きだったんだよなぁ
でもその頃は王族がまだ強くってさ、ミーシャ先生は王太子様と婚約関係だってんだから」
「そしたらいきなりなぁんにも言わないでどっか行っちまうし、その間にいっっっろいろあったし」

「商会としては良い変化だったのではないのかね?」

「まぁ、稼がせて貰ってるしね。
で、先生はどうすんの?『秀才の聖女』の動向、かーなーり、注目されてるけど」

「まだその字名あざなが使われている事に驚いたよ。
七年近く空けたからな、忘れられていてもおかしくないと思っていたのだがね」


渡されたオレンジ色のグラスの中身を軽く混ぜ、二口程飲む
濃口でありながらも飲みやすい
そうか、七年か
俺はもう二十歳を過ぎていて、お互いすっかり大人となったのだと改めて思う


「まぁ、俺も顔は殆ど忘れかけてたけどさ
こうして見ると面影残ってるもんだね。ってゆーか先生の表情筋仕事し無さすぎ!」

「表情については元からだ。
あと、君は随分と落ち着いたものだな」

「大人になったからね。家庭も出来たし、仕事も充実してるし」

「そうか」


ミーシャ先生はこういう所が人が良いんだなぁ
いきなり話し掛けて飲み始めた俺の事邪魔だって思ってるだろうに、なんだかんだ席を外すことなく話を聞いてくれる所が

「あ、そうだ。これ先生に渡しとこうと思ってたんだった」

「これは?」

「一部のお得意様に渡してるバッジ。俺んとこのブティックで完全オーダーメイドとか出来ちゃうよ」

「そんなものを私に渡して良いのかね?」

「もっちろん、先生ならお得意様になってくれるって信じてるからね!」

「そうか、なら期待には応えねばならないな」

「あ、笑った」


こんな事で笑うのか、この歳になってはじめて知った。
俺の好きになった人はやっぱり綺麗で、素敵だった。




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