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第一章
~51~
しおりを挟むスピーカーからジ、ジ、とノイズが漏れ出ている。
電流電圧は問題無いようだ
「どうでしょう、改良を重ねて問題無いと判断したのですが、どうしても受信が上手くいかなくてですね」
「中を見ても?」
「わかりました。少し待って下さい」
正直に言うと驚いた。
天文学という分野の無い、気象学といったものすらなかったこの国がよもやここまでの発展を遂げるとは、予想など出来る訳が無いと言うものだ
いや、たしか未だに針時計は造られていないのだったか
それでも送受信機器の出来は中々に目に見張るものがある。
流石に基盤などといったものは無いが、ラグ板と変調トランスと思われるもの、配線に無駄が無く、一種の芸術性を思わせる。
しかし
「これは、剥き出しのまま使っているのかね?」
「え、いけませんでした?」
「ふむ、危険だな。それに中身もだ。金属で作ってどうするね。抵抗器ならば熱に強いもの、土器等が理想か
出来るかね?」
「はぁ!?土器ですか?!こんなちっちゃいの・・・」
「出来ないのかね?」
「・・やりますよ。ええ、やってやりましょう」
「あと、プラスチックの精製が出来たならマイクも造れるな
肉声の送受信が出来るぞ」
「・・・マジですか。そんなサラッと言わんで下さいよ。
俺らの苦労って・・・」
「君達の努力の成果なら目の前にあるな」
「・・・・これは褒められてるんでしょうか?」
「勿論」
人の知識欲、発見欲と言うものは留まる事を知らない
世界によっては臓器を取り替える治療法のある世界もあれば肉体を丸ごと入れ替える治療法もある。
肉声を遠くまで届ける携帯機器もあったし、瞬時に遠くまで移動する扉もあった。
世界の違い、時代の違い、人の違い、
私の生まれたこの世界はこれから先もきっと多くの人々の手により変化していくのだろう
私の知らない所でこれだけの変化が起きていたのだから
「ああ、そう言えばパーティがあるんですよ
漁業会の有志会員を主に集めてって話ですが、ミーシャ様は参加されます?」
「ああ、トルエー男爵とナビスキ子爵に誘われたな
まだ準備も整っていないと言うに」
「ししゃっ、・・ブフッ、フッ
ナビスキ会長をそんな呼び方する人、はじめて見ました。
あー、そういや貴族になったんでしたっけ?あの人」
「貴族に対しそのような物言いはどうかと思うのだが・・・今ではそのような身分は意味の無いものか」
「生まれが良いからって才能があるとは限りませんからね。あと努力と根性
文句ばっか言うお貴族様を教育するのはホント苦労しましたよ」
「突き放せば良かったのでは?」
「人手が勿体ない」
身にしみた貧乏性だな
私が生まれる前に発足し、世代交代もしているだろうに腐った部分が見受けられない
いや、私が見逃しているだけで腐敗した輩がいる可能性はあるのだが、それでも上手い事国を回している。
経済も行政も、そして法律すらも立案、決定権が今や漁業会が握っているのだと聞いた時は王家は何をしていたのだと呆れ果ててしまったものだ。
王族と言う名の権威も地に堕ちたものだ。
「それでまぁ、王様んとこから媚売られてるらしくってですね。
会長達も人が悪いこと、王宮で親談パーティをしようって話らしいですよ」
「そう言う君も随分と楽しそうではないか」
「そりぁ愉快にもなりますよ。
念入りに下準備して、この国改革しようってんですから」
「結果の見えた勝ち戦とは、趣味の悪い」
「ミーシャ様こそ、笑ってるじゃないですか」
「わずわらしい業務を君達が請け負ってくれるからな、肩の荷も降りると言うものだ」
「・・・・ああ、そう言えば王子様と婚約してんでしたっけ?
え?その話無くなったんじゃないんです?」
「弟の方だ。」
「ええ・・・しぶと・・」
「そうでは無いよ。彼等の最後の仕事だ。花を持たせてやると良い」
「・・・・え?それって」
「ではな、また立ち寄ろう」
「あ、今日はありがとうございました!ではまた」
この国に帰還して初めての国王陛下との会談はやはりと言うか婚約に関するものだった。
レオクリス殿下は来なかったのか、それとも呼ばれていなかったのかは不明だが国王陛下、王妃陛下、ライネス殿下と私との話し合いでは、恙無くライネス殿下との婚約を頼まれ
王権最後の代として漁業会の会長達と改めて話をしたいと申されていた。
王権存続の為に足掻くよりも潔く終わらせる事を選んだのは王族としての誇り故か
彼等には彼等なりに納得のいく終わらせ方というものに拘っているようで、今暫くは時間を必要とするだろう
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