転生した精霊モドキは無自覚に愛される

suiko

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第一章

~44~

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「・・・・・ふぅ」


テラス席に座り珈琲を飲む
何でも最近流行りの喫茶店だ。と道行く人から進められ丁度ゆっくりと考え事をしたかった事もあり入店をしたが
確かにとてもクオリティが高い
軽食にと頼んだサンドイッチですらパンの焼き加減から挟まれた野菜の新鮮さに思わず唸ってしまう
放っておいてしまっていたレストランの売り上げが心配だな、後で見に行かねば

この三日で得た王国の情勢を纏めてみよう
まず漁業会が独自に立ち上げた銀行事業と警備事業、そして裁判事業が順調過ぎる程に軌道に乗りサズワイト王国の経済の殆どを掌握しきっている事
その影響を強く受けた王宮は経済難に陥り多くの事務方を担っていた官僚が辞めていった事
今や国王の存在は″存在しているだけの人″というものが多くの街の人の共通認識となっている事

あと目に見える変化としては蒸気機関車と、七階建ての建築物か
七年前の段階ではどんなに高くとも四階建てまでの建築が殆どだったのだが、より丈夫な建築技術が出回ったのだろう
あと個人的に驚いたのは街の外、作物等を運ぶ燃料式自動車の存在だ
大きいレバーを操作し馬と同等の速さで荷物を運搬する農家の方は手慣れているように見えた。
七年という期間は私の旅としてはあっという間であったが国をここまで見違えさせる程には長かったように思う

「・・・・・・・」

すぐ近くの手すりに腰をかけているルークもまた、街の変化に思う所があるのかもしくは何も感じてはいないのか、じっと街道を眺めている
と、ふとその街道から二人、明らかにこちらに向かってくるのを認識し、正面から迎える事となった。



「あら~ぁ、偽の聖女さんではないですか
何をしてるんです?」

「・・・・・・・」


片方の女性はこちらを見下し
片方の男性は罰が悪そうにしながらチラチラとこちらを伺ってくる



「ちょっと、何か言ったらどうなのよ」

「・・・所要を思い出した。私は失礼する」


見苦しいまでの言い訳だと自笑しながらも、厄介ごとの気配しか感じなかったため
とにかくこの場を離れたい一心で席を立つも
やはりと言うか見逃してはくれないようだ


「待ちなさいよ!」

「・・何故?」

「あなた・・・ちっ、いい加減にしてくれないかしら?
あなたのおかげで色々めちゃくちゃなのよ
わかるでしょう?」

「・・・・」


わかるでしょう?と言われても
主語が無いそれに同意等出来ようが無い
彼女が私を目の敵にしている。敵意を向けてくるのは嫌と言う程実感しているが
明確な理由が良くわからない

困惑したような、情けないとしか言いようのない顔をしたレオクリス殿下の腕と絡み合う彼女の腕に目線をやり

「・・それで満足では無いのかね?」

と、言ってやる
恋愛事等興味も無い、というより
もはや私には誰かを愛する事等出来ないのだと悟った以上、どうでも良い
恋愛シュミレーションゲームの対象者の隣を手に入れた彼女はそれが目的の筈だ
私は婚約者がレオクリス殿下からライネル殿下にすげ変わるだけ
彼女はレオクリス殿下と婚約なりなんなりすれば良い
だと言うのに

「はぁ!?あんた、それ本気で言ってる訳!?」
「偽の聖女だって公表しなさいよ!私が本物だってあんたの口から!!」


「それは無理だ」

「何でよ!」


何故も何も無い
元より私は自身が聖女だなどと公表してない以上、偽物でもなんでも無い只の人だ。
貴族出身なだけの一般人が人前に出て「私は聖女ではありません」等と言った所で意味がわからない
私を聖女だなんだと持て囃す人間に関しては見て見ぬふりを徹底しているが、それに対しても対象者が一部の人間でしかないからだ。
この国の全員が私を聖女だと思って居る訳では無い上に、私=聖女だと言う図式も随分と前、それこそ七年前に一部の人々が勝手に付けた二つ名のようなものだ。
ただの愛称のようなものに正式的な意味合いは一切無く
まず前提として『聖女』という役割などこの国にはそもそも存在しない、
ありもしない役職に本物も偽物も無いだろうに


「・・っ、ミーシャッ。その・・・」

「後日、改めてお話に伺います。ではまた」

目を合わせるまでも無い
レオクリス殿下の真意は計りかねるが、世の風潮と言うものが情勢を変え得る時代である今
私と殿下の婚約破棄は確定だろう
力を失った王宮としては私を手放す訳にはいかない状況下、婚約者をすげ替えるしか取れる手段はない
それについての話を両家、両者揃った中で要相談しなければならないのだが、未だ話し合いが出来ずじまいのままとなっている
それもこれも話し合いの為の時間を空けておかない阿呆のせいなのだが、
第二のヒロインとやらに引き摺り回されている場合では無かろうに呑気なものだ。

脳内で″元″婚約者殿に罵詈雑言を並べ立てていたためヒロインの声を聴き逃していた。

「嘘・・もしかしてフェリル様・・・?」

ルークを凝視する彼女の表情も何もかもを見逃していたのだった。






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