44 / 84
第一章
~43~
しおりを挟むガンッガンッ
ガンッガンッ
王城前広場
そこは七年前から広く開けた場所ではあったが今ではあまりにも何も無い閑散としたもの寂しい雰囲気の場所となっている。
せめて花壇でもあったなら少しは見栄えしたかもしれないが今の王宮にはそれだけの余裕は無いのだろう
サズワイト王国に帰還して三日
ようやく王城へと向かい国王陛下と王妃陛下に帰還の挨拶を交わした。
本来なら家族に次いで挨拶すべき存在なのだが、それについて責められる事は無かった。
むしろ王妃陛下が私に対して謝罪をしてきた事に驚いた
七年、短くはない筈のその間に王族の力は削ぎ落とされてしまったようだった
ガンッガンッ
ガンッガンッ
「うるさいな、あれは何だ?」
馬車で帰るのを断り街を見て回っている最中
ひたすら穴を掘っている工事現場近くの人に尋ねたところ
「ああ、なんでも自称聖女様が地下水がどーのって騒ぎたてたらしいのよ
ホント、王様は何をしてるのかしら
あんな小娘に良いようにされてるんじゃない?」
「ほう、地下水か」
「今じゃ水道水が主流で、井戸を使ってる人の方が珍しいくらいなのに
地下水が危ないとか、街が大変な事になるだとか、そんな事言って騒いでたのよ」
「それで人が沢山死ぬーとか騒いでたわねぇ」
「馬鹿みたいよねぇ、井戸水なんて掃除くらいにしか使わないわよ」
地下水、そのワードで昨日ローズ嬢と話した内容が頭に過ぎる。
ローズ嬢が前世でプレイしたというゲームでは第二のヒロインの序盤のストーリーで汚染された地下水の問題を解決するといった物があるのだとか
おそらくその問題解決の為なのだろうが、とにかくうるさい上に作業者達の態度も悪い
工事現場の近くには瓦礫が放り投げられたまま積み上げられている
広い道路の為通行の邪魔にはなっていないが迷惑な事に変わりはない
「最近の漁業会は勢いに乗ってるねぇ
久しぶりの街はどうだい?」
「悪くない」
概ね、予想通りといった所か
街中に敷かれたレールと大きく作られた駅舎
大勢の人が住める七階建ての集合住宅地
私の居なかった間に我が国は随分と様相を変えたようだった。
「ああ、そうそう聖女様
港の方で珍しい物を捕まえたとか、聖女様が帰ってきたら見せたいとか漁業会の人達が言ってたらしいですよ」
「そうか、明日にでも行ってこよう
伝えてくれて感謝する」
「いえいえ、良いですよ」
それと不思議な事に七年もの間不在であった筈の私に対してやたら人々が馴れ馴れしい
私は人から好かれるようなタイプでは決して無いはずだし、特別なにか世のため人のためになるような事をした訳でもないのだが
しかし珍しい物を捕まえた、か
生き物、なのか
ルークのようなものであればスカウトするのも悪くない
ちらり、と気配を消し私の後ろを付きまとう男を見る
この男は随分と揶揄いがいが無くなってしまった。
しかし詰まらない存在となった訳でも無い
長く伸びた灰色の癖っ毛に男らしい角張った骨格に厚い筋肉、整った顔立ちと
いかにも年頃の女性からモテそうな見目となったものだ。
正々堂々、真っ正面から私のストーカーとなる事を宣言するような男だとは誰も思わないだろう
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
【完結】野垂れ死ねと言われ家を追い出されましたが幸せです
kana
恋愛
伯爵令嬢のフローラは10歳の時に母を亡くした。
悲しむ間もなく父親が連れてきたのは後妻と義姉のエリザベスだった。
その日から虐げられ続けていたフローラは12歳で父親から野垂れ死ねと言われ邸から追い出されてしまう。
さらに死亡届まで出されて⋯⋯
邸を追い出されたフローラには会ったこともない母方の叔父だけだった。
快く受け入れてくれた叔父。
その叔父が連れてきた人が⋯⋯
※毎度のことながら設定はゆるゆるのご都合主義です。
※誤字脱字が多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※他サイトにも投稿しています。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
皇妃は寵愛を求めるのを止めて離宮に引き篭ることにしました。
鍋
恋愛
ネルネ皇国の后妃ケイトは、陰謀渦巻く後宮で毒を盛られ生死の境を彷徨った。
そこで思い出した前世の記憶。
進んだ文明の中で自ら働き、 一人暮らししていた前世の自分。
そこには確かに自由があった。
後宮には何人もの側室が暮らし、日々皇帝の寵愛を得ようと水面下で醜い争いを繰り広げていた。
皇帝の寵愛を一身に受けるために。
ケイトはそんな日々にも心を痛めることなく、ただ皇帝陛下を信じて生きてきた。
しかし、前世の記憶を思い出したケイトには耐えられない。命を狙われる生活も、夫が他の女性と閨を共にするのを笑顔で容認する事も。
危険のあるこんな場所で子供を産むのも不安。
療養のため離宮に引き篭るが、皇帝陛下は戻ってきて欲しいようで……?
設定はゆるゆるなので、見逃してください。
※ヒロインやヒーローのキャラがイライラする方はバックでお願いします。
※溺愛目指します
※R18は保険です
※本編18話で完結
転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる
花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。
もうすぐ、お別れの時間です
夕立悠理
恋愛
──期限つきの恋だった。そんなの、わかってた、はずだったのに。
親友の代わりに、王太子の婚約者となった、レオーネ。けれど、親友の病は治り、婚約は解消される。その翌日、なぜか目覚めると、王太子が親友を見初めるパーティーの日まで、時間が巻き戻っていた。けれど、そのパーティーで、親友ではなくレオーネが見初められ──。王太子のことを信じたいけれど、信じられない。そんな想いにゆれるレオーネにずっと幼なじみだと思っていたアルロが告白し──!?
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる