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第一章

~42~

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■レオクリス




酷く、苦しかった
どうして何も言ってくれなかったのかとか、俺の存在は君にとってそんな取るに足らないものだったのかとか
思えば思う程、身体中が軋むように痛む気がしてならなかった。
その日の夜は眠れ無かった。


学院でミーシャの姿が見えないのを確認して、事実を突き付けられた気がしてみっともなく泣いてしまった。

どうして?  どうして?

そんな言葉しか思い浮かばない状態で
それでも残酷にも時間は過ぎ去っていく

言われた事を言われた通りにこなすだけ
やるべき事を行うだけ
そこに俺のやりたい事なんてカケラも無かった
最早未来の国王という立場すら、もうどうでも良かった

彼女が隣に居てくれたならそれで良かったのに



「兄様、いつまでウジウジしてるのさ
学院中が兄様の噂で持ち切りなんだけど」


「・・・・・・・」

反論する気力すら無い
ライネルには俺の気持ちは分からないだろう
俺には何も言わずに姿を消してしまったミーシャ嬢
あの黒い髪を思い出す度に気持ちが沈んでいくのを止める事が出来ないでいる
王太子としてこんな事では駄目だと思ってはいても、身体が言う事をきかないのだから仕方がないだろう


「もう、落ち込むなら勝手に落ち込んでいていーよ
僕は色々忙しいからさ」


ライネルを羨ましいとでも思っているのだろうか
いや、よく分からない

ミーシャ嬢が俺に伝え無かった事を聞いていた事
入学前、家庭教師ではなくミーシャ嬢から勉強を教わっていた事
やりたい事、目的を持っている事

それらの事実にズルい!ライネルはズルしてる!って思った事は数しれず
しかし恨んでいるかと言われるとちょっと違う
ズルい奴だ、卑怯な奴だと思いはすれどそれだけだ
俺はライネルの事を嫌いにはなれない
弟なのだから当然だとは思うけど、一人の女性を狙っている言わば恋敵に対しては甘い対応のような気がしてしまう

ただ、ライネルが目的の為に頑張っている姿を見ていると、こう、凄いな。と素直に思う
他に言い表す言葉が浮かんでこないから、凄いな。としか言えない自分の語彙力に呆れてしまう

俺にはそんなもの無いから

やりたい事とか目的なんて欠片も無い


ただ、生まれた時から決まっていたから
俺は国王になるんだろうと信じて疑わなかった
父様や母様、家庭教師や乳母様、皆が皆
俺が良い国王になるに違いないと言ってくれたから
皆の期待に応えたいと思っただけだ

皆が俺にそうなる事を望んだだけで
俺自身が国王になりたいと思った訳じゃない


だからだろうか
自分の意思でなりたいもの、やりたい事を見出している弟を見て
凄いな。と思うしか出来ない

誰かの期待に応えたいとしか思えない俺は、誰かに、弟に、凄いな。と思われるだけの人になれるのだろうか


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