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第一章
~41~
しおりを挟む七年経った。
いきなり急過ぎないかと思うかも知れないが
なんだかんだあって七年経ったのだ。
短くはない筈の七年という時間も、不思議な事に過ぎ去ってしまえばあっという間だったと思えてしまう物で
思い返せば大した事は無かったとも思えてしまう
いや、色々と事件はあるにはあったのだが
今語る事ではない為置いておく事としよう
それこそ長編冒険小説並の濃い出来事も喉元過ぎれば何とやら、だ。
そして私はサズワイト王国に帰ってきた訳だが
「アナタは偽物の聖女よ。
本物は私、さっさとこの国から出て行ってくんない?」
久しぶりの実家は特に何も変わりなく、なんて筈もなく
七年と言う期間は母上の皺を増やし父上の白髪を増やし兄上の背丈を高くしていた
それを言うなら私もまた成長期の最中にあるわけだが
帰って来た際父上も母上も私の無事を涙ながらに喜び迎え入れてくれたのには少しばかり意外ではあっただろうか
この七年の間に父上も老成した考えを持つようになったと言う事にしておく
そして兄上は結婚をしておりなんとお相手のお腹には新しい生命が宿っているらしい
私も挨拶を交わしたが穏やかそうな御人であった
七年という歳月を実家で感じ入り、今度は国王陛下と王妃陛下に帰還の挨拶をする準備を整え終え
母上から積もる話があるだろうと街中の変わった所等を散策していた時であった。
奇しくも私と同じ黒髪に黒目の女性
違いがあるとすれば肌の色だろうか、七年間の旅をもってしても私の病人のような青ざめた白い肌は変わる事がなかったが
私の前に現れた女性の肌は白に橙、そして黄色を混ぜ込んだような、黄色人種、と表現するのが適切であろう肌の色をしている。
「只今帰還致しました。
お久しぶりですね、レオクリス・サズワイト王太子殿下」
「・・・ああ、帰って、きた、んだね」
そしてその女性の隣には何故か婚約者殿
ふむ、これは浮気なのだろうか?
まぁ別に側室が何人いようが私が側室になろうが構わないのだが
「レオ様!こんな偽物に声を掛ける必要なんて無いわ!」
いや、先に声を掛けてきたのは君だろうに
「いや、でも・・・・おれ、は」
「このような場所での長話もあれでしょう
国王陛下と王妃陛下も会わせ後日挨拶に向かいます。
では、これで」
この場に留まった所で面倒事にしかならないと判断して逃げたは良いものの
本物の聖女を名乗る存在に興味が湧かない訳もなく
「で?アレが何か知っているのだろう?」
「・・・・・あー・・
うん、あんたがとんでもないマイペースだってのがよぉく分かったわよ
一応言っとくだけ言っとくわ、お帰りなさい」
「ああ、ただいま」
何かしらかの情報を持っていそうな久しぶりの同類の元に話を聞きに来たのだった
「して、あの黒髪の女性は何者か
君は見当が付いているのではないかね?」
「二人目のヒロインよ」
「ほう、二人目の?どういう事か、詳しく教えてくれるな?」
「あー、なんて言うか
まぁ、″奇跡の雫″はアップデートにアップデートを重ねて攻略対象がバカみたいに増えてったのよね
で、まぁいつだったかのアップデートでヒロインが選択式で選べるようになって
それが所謂二人目のヒロインになるんだけど
初期から選べるヒロインが守ってあげたくなるお姫様系なら二人目のヒロイン設定はバリバリのキャリアウーマン系?ってのかしら
物怖じせず自分の意見をハッキリ言うリーダー気質って事で好感度マイナスから始まるキャラも居たりするんだけど
まぁそこは乙女ゲームだからね。
そんな物怖じしないヒロイン第二号に惹かれていくって感じなんだけど
まぁ、途中でいきなりヒロインが二人制になる訳でしょ?
二人目のヒロインは所謂トリップ系、まぁ現代日本で暮らしてた女の子がこの世界に突如として現れる訳よ。幸いにもこの国では黒髪黒目は聖女の証ってのが伝説と残っていてそれなりに不自由なく暮らせる訳だけど
まぁこの頃からだったかなぁ
恋愛要素だけじゃなくてRPGみたいな戦闘要素が加わったのは
このアップデートは色々と騒がれたらしいわ
まぁそんな事どうでもいいんだけど
で?あんたはどうするつもりよ」
「・・・ふむ、成程
つまり彼女はこの世界に存在する筈のない黒髪黒目の私に警戒している。と思って良いのかね」
「警戒どころか、敵意バリバリよ?
あいつ、私に対してレオ様ルートにいってないでしょうねって脅しつけるように聞いてきたのよ?
あいつレオ様狙ってるわ絶対」
「それで?ヒロイン二人制で、物語に矛盾は生じないのかね?」
「ストーリー自体が別物になってるから、そもそもヒロイン一号は存在しないっぽい?のよね
私は実際にやり込んだ訳じゃないからもしかしたら同じ世界線の可能性も捨てきれないけど・・」
「ふむ・・・」
「それより、あんた大丈夫な訳?
王子様、明らかにあいつを代替えにしてるわよ
黒髪黒目で物怖じせずにハッキリ意見を言える女性、あんたソックリ
ま、あんたはあんなに表情豊かじゃないけどね」
「失礼な、私とて愛想笑いくらいは出来るとも」
「うっさんくさいのよ!」
こいつ、いやこの悪役令嬢だったはずのミーシャにはそれなりに感謝しているのだ
しかし感謝しているからといってもこうして話し合うのは苦手だ。
何事にも興味ない、どうでもいいって雰囲気をバリバリに出してる表情筋死滅してんじゃないかってくらい冷たい
氷のような、という例えが酷く似合う女の子だったが、七年の間行方不明になっていて帰ってきたと思えば更にそれに拍車が掛かったと思う。
美人の無表情って、綺麗だけどやたら怖く感じるのよね。
たま~に見せる聖母のような笑顔の破壊力ったら!
なのに作り笑いはどうにも胡散臭さが滲み出ている、無表情のがよっぽどマシよ
好きか嫌いかで言えば、嫌いでは無いけれど、だからって好きと言う感じでもない相手だと思う
だからこそ、これから先あの女の行動によってミーシャが不幸になる可能性を危惧してしまうのは、当然の事だろう
本人は、気にもしてないんだろうけど
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