転生した精霊モドキは無自覚に愛される

suiko

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第一章

~35~

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■ルーク





「あー、その、
オレ人身売買?ってやつをやってたとこで奴隷みたいなもんやってまして
んで、まぁ、縁あってお宅の娘さんに雇われたんす。はい」






暫くの沈黙
そして三人分の音にならない深い呼吸は溜息だったんだろう

「その、ミーシャちゃんが雇ったって、言ってたけど、この家の使用人になるって事で、良いのかしら?」

「いえ、待って下さい母様
ミーシャは従者兼護衛、と言ってました。
この言葉から察するに、ミーシャ個人に付く、という事かと・・・」

「うむ、うむ、まあなんだ
ミーシャの事だ、ただの同情で連れて来た訳ではないんだろう
ここは、ミーシャに任せるべきか・・?」




「責任ならば取る。ルークの処遇については私が一任しよう」

部屋の入口
初老の執事服を着た男性を連れミーシャが戻ってきていた

「そちらの少年をお嬢様付きの使用人として相応しく教育するよう頼まれました。早速ですが連れていってもよろしいでしょうか」

白髪を撫で付け鋭い眼光を更に細め、歴戦の勇者かと見紛うばかりの厚く鍛えられた筋肉が服越しにも伝わるこの男性
執事長と言われてもおかしくないだろう風格を持ち合わせているが諸事情により副執事長である事等この時のルークに分かるわけもなく

「ああ、頼んだよハダス」

「畏まりました。ではルークくん、こちらに」

「はい、その、よろしくお願いします」











■ロズベルト



数時間後


「あー・・・・・ムリだ」


一目で高級とわかるソファにぐったりと倒れている様子はだらしがないと言う表現しか出てこない
気にしないようにしようと意識しようとしても寧ろ気になって気になって仕方がなく
つい様子を伺いにきたが、どう見ても人間と獣の混ざり物のような姿に目がいってしまう
鋭い爪はないけれど指や手の甲を覆う灰色の毛はフサフサしていそうで、ずり下げられたズボンのベルトの上から大型の狼のような尻尾が微かに動いている

あまりにもじっくりと見つめてしまっていたのか、俺に気付いた彼、ルークが顔を上げてこちらに軽く手を上げた

「おう、ミーシャの兄ちゃんだったか
まあなんだ、これからよろしくな」


む、

「別に、よろしくする気はないけど
ミーシャとどう知り合ったのさ」

「最初に言ったろ、奴隷扱いされてた所から助けられたんだよ」

「それは、確かに聞いたけど、そうじゃなくて、」



ムカムカする
何故、どうしてかは良くわからないけれど
こいつを見ていると無性にイライラと俺の中の何かが苛立っていくのを止められない
単純にこいつが気に入らないからなのだろうか?
いや、それはない。と断言出来る
悪い奴ではないのは確かだ、侯爵家の人を相手にするには口は悪過ぎるが、つい最近まで農民以下のような扱いを受けていたにしてはそれなりに知性がある方だろう
見た目が見た目なだけに寧ろしっかりしている印象すら受ける

しかしどうにも、腹立たしいような、モヤモヤするような、
はっきりとしない曖昧な何かが自身の内側をグルグルとしていて
言葉に出来ない気持ち、とはこんなものなのだろうかと思考を他に飛ばす


「あー、どうしたんだ?っと、どうされたんです?」

砕けた口調を正しつつ姿勢良く座り直す
その様子にすら妙に苛立ってくる


「別に、良いよそんな畏まらなくても
キミはミーシャの護衛であってこの家の使用人じゃないんだから」

言葉にして、腑に落ちるような気がした
そうか、こいつはミーシャが選んで、態々この家に連れてきたんだ。
ただ護衛が必要だったのなら王都の宿舎にでも連れて行って報告だけに留める事も出来た筈だ
それなのに態々、領地の屋敷に連れ帰って両親にまで紹介した。
副執事長であるハダスに頼んで使用人としての教育までしている。
それはこいつがただの護衛ではなく、付き人として、常に傍に置くという事だ。

それに思わず顔が歪むのを抑えられない
だってそうだろう
俺はミーシャの兄だ。
ずっとミーシャの傍にいた、共にあった
なのに、俺のいたその立ち位置にこいつがすげ変わろうとしている
駄目だ、こんなのただの八つ当たりだ。そう思っても俺の表情筋は言う事を聞いちゃくれない


「・・ふぅん、あいつの兄貴って割にはわかりやすいのな」


「っ!お前に何がわかる!」


叫んで、後悔した。
こんな事言ったって何にもならない、意味がない
頭にきて、苛立って、叫んで、感情を持て余した子供みたいじゃないか

大人にならないといけない
我慢しなくちゃいけない
冷静でなければいけない
そうしないと、ミーシャの隣に居られない
資格が無い

余りにも惨めだ。


「あいつよりかはよっぽどマシだと思うんだけどな」

「・・ミーシャは、特別なんだ」


聖女の生まれ変わりである黒髪黒瞳の姿
幼くして学院を卒業出来る程の優秀さ
世界の全てに祝福されたような特別な存在

俺とミーシャとの隔たりはどうしようもないほどで
羨ましいと思う事もあった。
嫉む気持ちもあった。
でも、誇らしいと思う気持ちにも嘘は無かった
ミーシャの兄である事に自信と不安があって
ミーシャばかりが優遇されているように感じる事に諦めたフリをしていた

だってどうしようも無いじゃないか
こんな俺に、ミーシャに勝てる要素が一つでもあるのか?ないだろう?
ミーシャの兄であると言う事にしか存在価値がない



「なんつーか、苦労してんだな」


無責任な物言い
こいつに俺の気持ちがわからないように俺だってこいつの気持ちはわからない
ただ、こいつとは″合わない″と、感じた。











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