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第一章

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「駄目だ!!!駄目に決まってるだろう!」


「父上がなんと言おうと私の意思は変わりません
決定事項です」


「駄目だ!!そんな・・・っ!
ミリア!お前からも何とか言ってやれ!」

「あらあら、やっぱり反対なのね
どうするの?ミーシャちゃん」


「反対だろうが関係ない、私はルークと旅に出る」


「駄目に決まっている!」



私の目的である私自身の正体探しと言う名の旅

細かく、丁寧に、噛み砕いて説明して説得を行ったのだが
この父はどうにも首を縦に振りたくないらしい

それに比べて母と兄は特に反対せず了承したと言うのに
前世の話においては、やはり半信半疑といった風であったが
私の献身的な説得に絆されたようで安心していた
しかし、父に限っては反対するだろうと予想出来ていたため後回しにしていたのだ


「もう旅の準備は出来ている
何時でも出られる状態になっているため今更止めろと言われた所で止める気は更々無い」

「なっ・・・・!!」


身体を震わせ口を開けては閉ざし、母を、私を交互に見ている

「おまっ、お前はこの事を・・!?」

「ええ、勿論知ってたわよ
貴方は反対するだろうから、予め準備が整ってから報告した方が良いだろうと思って今まで黙っていたの」

「何故止めない!?危険だ!いくらルークを連れていくにしても、まだ子供なんだぞ!
たった二人でどこまで行くつもりなんだ!?
一日二日程度ならともかく!五年も!?五年間もの旅だって!?意味がわからんぞ!!」


「約五年程だ。長引く可能性もある」


「五年だろうが何年だろうが、駄目なものは駄目だ!!」


「なら勝手に喚いていればいい、私は勝手に出ていく」


「あ!待てっ!まだ話は終わっていないぞ!」

「まぁまぁ、貴方、少し落ち着いて、ね?」



話を切り上げ、母が父に説得を試みようとしているのを背後に部屋を出た


季節は花の節の朝月
私ももう十歳だ。

旅の資金は充分な程には溜まった。教師の引き継ぎも滞りの無いようにしておいた。
結婚してしまえば私が自由に出来る時間は無いと言っていい、私が私自身の時間を自由に出来る期間は残り十年を切ってしまった。

長い事学院近くの集合住宅生活をしていた為随分と久しぶりの私室だがそこに懐かしさはない
ベッドにルーク駄狗が座ってなければ他人の部屋のように思っていた事だろう

「おう、そっちはどうだった?」

「説得は失敗だ」

「はぁ?じゃあどうすんだよ」

「関係ない、許可が無くては外出してはいけない道理など無いからな」

「それってどうなんだ?」


クロゼットを開ける
今の私の身体に合わせてあるだろう服を無視して左側、棚に小さく纏めてある肌着を十程インベントリ(収納庫)に放り込む
少ないよりかは多いに越した事はないだろうとタオルケットや毛布等も乱雑に入れていく

「はぁー、にしても便利だな魔法って奴は」

「万能では無いがな、それに私はズルをしているから出来るのであって、他の者にはそうそう真似出来ないだろうよ」


″インベントリ″言葉の意味そのままの収納魔法だが、似たような魔法具にアイテムボックスがあるにはあるがアレは容量が限られている上に食料品等を保存するには向いていない
ならば都合の良い便利な魔法を作ってしまえ、と元からあった収容魔法を弄ったのだ
前世、もといバケモノだった頃異世界を渡っては興味を惹かれたものを放り込んでいた収納魔法だが、収納量を増やし、完全ではないが時間停止系統の魔法を上書きして食料品も大量投入出来るようになった。
必要そうな物から余計な物までとにかく入れ込む

部屋に残ったのは家具といくらかの服だけとなった


「お前は荷物をまとめ終わってるのだろうな」

「だいじょーぶだってーの」

「なら良い、明日には出るぞ」

「は、」


二日前に帆馬車を一台頼んでおいた
五日後、本当なら明後日出発予定だったが構うまい
父が余計な事を仕出かす前に出てしまおう


コンコンコン
軽いノック音、そして扉越しに微かに聞こえる兄の声

「入ると良い」


「ミーシャ?準備はもう出来ているのかい?」

「ああ、滞りなく」

「そう・・・・
父さんが荒れてたよ」

「知っている」








「本当に、行くんだね」


「ああ」








「・・・、行ってらっしゃい」

「行ってこよう」


兄の長い間の中、何を考えていたのかは私にはわからない
だが、私の事を心配しているのだろう事だけはここ二、三年の間のやり取りで嫌という程知っている
幾ら妹の事とはいえ、ここまで私の身を案じる必要は無いのではないだろうか

長旅の前の実家の様子はどこかよそよそしい

私が居ようと居まいと変わらないだろうに
私が旅に出ると言った際に寂しい等と宣ったメイドは私が長い間家に居なかった時も変わらず働いていたと聞く

私がこの家に居ない
その事実はこれ迄とそう変わらない事だろう


「では、私はおいとまさせてもらおう」

「えっ、泊まっていかないのかい?」

「失礼したな」


街の外れにある宿を取っている事くらいわかっているだろうに
当たり前のように私がこの家で寝泊まりすると思って疑わないとは、察しの悪さは何時までも成長が見られない残念な兄だ。

「じゃーなぁ、元気でなぁ」

「あっ、ルークさん!
ミーシャの事・・・」

「安心しろ、守ってやるからな」

「・・・・お願いしますね、絶対」








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