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第一章

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典型的な人間、とは何か
それはいわば大多数の、取り留めもない名もなき群衆を指すだろう

逆に言えば典型的でない人間とは、大多数とは違う少数を指す事になる

歴史に名を残す人間等が良い例だろうか

人とは違う事をする。
大多数の群衆を導いた、救った、殺した。

大多数とは一線を化した存在こそがそれに当たる

自身の意思を貫き、自らの掲げる正義を多数に賛同させる事の出来る人物
自身の意思を持っていても口にはせず、多数の掲げる正義を自らの正義とする事を良しとする人物

彼女は間違いなく後者だろう

どんなに舞台を用意しようが、台本を渡されようが、彼女自身の生来の気質がそれを拒んでいる

それでいて気付いて貰いたい、認めて貰いたい、大切にされたいという承認欲求はやたらと持っている。
ようはまぁ


「言い方は悪いが、敷かれたレールに沿った生き方を良しとしてしまった事を後悔している。と言ったところか」

「・・・・え?」

「ここは『ゲーム』の世界なのだから、と
それに甘んじて自ら行動する事なく常に受け身であったのだろう?
しかしここに来て『ゲーム』とは違う現実に戸惑い行き場を失った。違うかね?」

「・・・・・・・・わからないわよ、そんなの」


「いいや、君は理解している筈だ
ここはゲームの世界等ではない、現実だ。
我々は確かに生きている。息もしている、血も流れている。
それでもどこかで″ここはゲームの世界なのだ″と思っていたからこそ、ゲームとの相違に、自らの持つ″これから起こるだろう未来″の知識が役に立たなくなってしまった事に憤りを覚えたからこそ
私の所に来たのだろう?」


「・・・・・・・」


「自身を特別な存在であると思う事は別に悪くない
ただ、君の場合″余計な知識″を持ってしまった為に自分らしく生きる事が出来なかった
君の知る″ローズ・ブロッサム″の人生は、″君自身″の人生ではない」


「・・・・・・・」


「私は私の生きたいように生きたぞ
君は?君の生きたいように生きてきたと、そう胸を張れるかね?」


「・・・・・・・・・」

完全に力無く俯く
表情を見る事が出来ずともわかる
意気消沈、やつれ、敗北
否定出来ない、それは認める事と同意だ
彼女を彼女たらしめた物の一つを完全に否定しなければならない
恐らくそれは彼女にとってあまりにも苦しい選択

だからどうした?

私には私の人生がある
それを『ゲーム』だか『創作物』だか『物語』だとか、そんな物に操られてやる程の暇は私には無い
彼女の『妄言』に付き添ってやってるのは単に彼女の持つだろう別世界の知識に興味があっただけだ(それすらも対した情報は手に入りそうになかったが)
彼女が前を向き、足掻きもがいて生きるならそれで良し
過去に縋り、逃避するならそれまでの事
そもそも、彼女と私は他人でしかない
転生者であるという共通者ではあれど、だからと言って馴れ合う必要などどこにもないのだから


しばらく、
長い沈黙が続いた


ゆっくりと、音もなく息を吐き出し
こちらを見つめる彼女の顔は、どこか清々しさを感じるものだった




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