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「ロジェには手紙を送った。パトリックの名前を借りた。パトリックはリベロのこの屋敷にいる事になっている。」
「後はロジェが来るのを待つたけだな。」
僕たちは全員でリベロにいる。ロジェ様が来るのを待っている。ロジェ様が『魅了』を解いてくれないのなら、最悪な事態も考えておかなければならない。ロジェ様の命を…。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「これは護身用だよ。」
レオナルド様から短剣をもらった。タガーという物らしい。柄と鞘は綺麗な宝石で飾られている。
「ありがとうございます。凄くキレイですね。」
「ちゃんと使える物だから気を付けて。」
レオナルド様が鞘から抜いて使い方を教えてくれた。腰のベルトのところに装置する。ジレやジャケットを羽織ると短剣は見えないので誰かに奪われたりせず安全だ。
その後、レオナルド様とラザウェル様は庭に出て目隠しをして剣の稽古をし始めた。オズベルト様も混じって稽古をしている。カナン様は何故か熱心に手鏡を見ている。他のみんなは資料や本を読んだりと忙しそうだ。
僕は庭の薬草を見に行こう。傷に効くサリアという薬草の花が咲きそうだったのを思い出した。
庭の草木を見て歩いていると馬が駆ける音が聞こえた。何だろうと目を凝らして遠くを見た。
「ロジェだ!ロジェが来たぞ!」
ラザウェル様の叫ぶ声が聞こえた。
七、八頭の馬が庭に侵入して来るのが見えた。馬上にはあの黒い鎧を来た男たちが乗っている。その後ろにも馬が見える。
慌てて屋敷の中に逃げようとすると誰かに後ろから羽交締めにされた。
「うわっ⁉︎」
「ルーファス!」
僕が捕まるのが見えたオズベルト様が叫んだ。その声にレオナルド様が驚いて目隠しを外そうと手を掛ける。
「レオ、ダメだ!ロジェだ。」
『魅了』にかかっている二人は目隠しを外そうとした手を止めた。
「みんなで仲良く剣の稽古?楽しそうだね。パトリックの名を語って呼び出したならそれなりの見返りがあるんだろうな。
レオナルド、これはおまえの大事なオメガか?命が欲しかったら私を見ろ!」
ゾッとするような声だった。冷たい湖の底のような声だ。
「レオナルド様ダメです!お願い!」
「うるさい!レオナルド、本当に殺すぞ!」
「止めろ!わかった…ルーファスごめん。」
どうしよう、どうしたらいい?
視界の右端に小さなピンクの蕾が目に入った。ロジェ様に気付かれないようにその蕾をそっと採った。
「レオナルド様、外しちゃダメっ!」
叫びながら右手に持った小さな蕾をロジェ様の顔の前で振る。ポンっと音がして弾けた。爆発草のインクのような汁がロジェ様の顔に飛んだ。
「うわーっ!何だ⁉︎クソッ、前が見えない!」
僕を捕まえる手の力が緩んだのでロジェ様を突き飛ばしてみんなのところに走った。目隠しを外そうとするレオナルド様の手を掴んで止めた。爆発草一つではロジェ様の目は潰せない。一時的に見えなくなっただけだ。
騒ぎを聞きつけたリト様たちが屋敷から出てきた。
「ルーファス!良かった。」
レオナルド様に抱きしめられる。危なくないところへ隠れろと言われた。ふわりと身体が暖かい空気に包まれた。魔法をかけられたみたいだ。その時轟音が鳴り響き僕たちは飛ばされた。みんな散り散りになってしまった。
「『突風』だ!」
ロジェ様が魔法陣を唱えたのだ。
その後は本当に戦争のようだった。黒い鎧の男たちは剣と魔法で襲いかかって来る。レオナルド様たちが何とか食い止める。
「『炎爆』」
レオナルド様の火魔法が辺りを焼き尽くす。
「『氷槍』」
サフィーア様の氷魔法だ。鎧の男目掛けて氷の槍が突き刺さる。
鎧の男たちは次々と倒されていく。鎧男は雷を使うようだ。隠れて見ている僕の身体もビリビリする。
遠くに見えるリト様の周りで風が吹いている。ラザウェル様が守っているようだ。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
爆音や雷が鳴り響きラザウェル様やサフィーア様が倒れているのが見えた。オズベルト様の剣に『雷火』が当たり剣が砕け散った。
いよいよ厳しくなってきた。鎧男の数がなかなか減らない。何かの魔法がかかっているようだ。みんなは体力も魔力も底をついているように見える。
レオナルド様は目隠しをしたまま鎧男と戦っている。
僕は震える手で腰の短剣の柄をぎゅっと握りしめた。いざとなったらレオナルド様を守るぞ。僕にだって出来る事はある。
「勇敢だね。」
「はっ!ロジェ様…。」
木の影に隠れていた僕の後ろにロジェ様が現れた。驚いて体が動かない。
「それで私を殺すつもりか?」
冷たい声だ。美しい顔も冷たく僕を睨んでいる。
「あ、あ、あ…。」
逃げようとするが足がすくんで動かずお尻からひっくり返った。急に爆発音がして隠れていた木が粉々になった。
「『聖光防壁』、レオナルドか…。そんなにびびっていたら剣なんか使えないだろ。剣はこうやって使うんだよ!」
ロジェ様が自分の剣を抜いて僕の目の前に突き付けた。殺される…。レオナルド様を守れなかった。
「「「ルーファス!!!」」」
みんなが僕の名を呼ぶ。
「やめてくれ、ロジェ。ほら、目隠しは外した。頼む…。」
レオナルド様が目隠しを外した。顔を見るよう、ロジェ様を呼ぶ。その顔は青ざめている。
「もうこの地は飽きた。レオナルドと仲良く死ね。」
剣を持つロジェ様の手が動いた。殺される!!
「『停止』」
ビンセント先生の声が聞こえた。今だ!腰の短剣を抜きロジェ様に向けた。ロジェ様は動けずに固まっている。
「ルーファス、早く!長い間は縛れない。」
ロジェ様を刺せば終わる…。殺してしまえば…。
もうみんなボロボロだ。このままではみんなの命も危ない。ロジェ様さえ死ねば…。
震える手でロジェ様に剣を振りかざす。
……………。
「出来ない!出来ないよっ!だってロジェ様だけが悪いんじゃない。」
悲しかったのだ。恋人に裏切られて悲しかっただけなのだ。
僕だってレオナルド様に捨てられてたらどうなるかわからない。
オメガはアルファが居なければ生きていけない。辛いと言われる発情期を一人で耐え、それに命を削られ短い寿命を終えるのだ。僕は短剣を地面に落とし泣き崩れた。出来ない、ロジェ様の辛い気持ちが分かる。
倒れていたみんなも立ち上がって僕を見ている。レオナルド様を見ると唖然としていた。バカなヤツだと思っただろうか…。
「ふん、意気地のない無能なオメガだ。」
『停止』を振り払ったロジェ様が再び剣を僕に向けた。
今度こそ終わりだ。僕の名前を呼ぶ悲鳴のような声が聞こえる。レオナルド様だ…。
ごめんなさい、レオナルド様。ごめんなさい、みんな。
僕はぎゅっと目を閉じてその時を覚悟した。
「止めろロジェ!」
目を開けるとカナン様が叫んで近づいて来るのが見えた。何故かその手にはボロボロの本を持っている。
「うるさい。もう遅い。私以外みんな終わりだ。」
「いいから聞け。恋人だったアルファはアルティスだな?
アルティス・カステール。」
ロジェ様の顔色が変わった。驚いた顔でカナン様を見つめる。
「これはアルティスの日記だ。紙はボロボロでほとんど読めない。最後のページのインクが裏表紙に写って反転文字になっているのを見つけた。だからかろうじて読めた。おまえに宛てたメッセージだ。よく聞け。
『親愛なるロジェ
おまえをこのようにしてしまったのは私だ。運命の番に舞い上がりおまえの事を蔑ろにして傷付けた。あんなに優しく、あんなに聡明だったおまえを悪魔のようにしてしまった。おまえと過ごした七年は貧しくとも幸せだった。私は確かにおまえを愛していたんだ。ただ運命に抗えなかった。だが私はもっとおまえの事を考えて行動するべきだった。どうか許してほしい。
父は私がカステール家に戻る事を許してくれたが私はもう長くない。番と同じ病に侵されている。私が死んだらカステール家の財産は全ておまえに譲ろう。ロジェ・カステールとして養子の手続きをしておいた。いつかおまえの魂が天に召された時に天国で会おう。その時はどうか笑って…。私はもう輪廻は望まない。おまえが生まれ変わった時、運命の番に出会える事を心から祈っている。』」
あれは本なんかじゃなかったんだ。ロジェ様の恋人だったアルティス様の日記。ロジェ様は知らないみたいだ…。
許して欲しいと言っている。運命を引き裂きたロジェ様に許して欲しいと謝っている…。
「なっ!今更そんな…。私は許さない。許さないんだ!」
ロジェ様は持っていた剣を落とした。身体が震えている。
「ロジェ様!アルティス様は『魅了』のせいで死ぬまで番に会えなかった。病気の番を支える事も出来なかった。でも許したんだよ。ロジェ様の事を許したんだ。だからもう…ロジェ様もアルティス様を許してあげて…。」
泣きながらロジェ様に訴えた。許してあげて…。アルティス様は充分苦しんだんだ。もちろんその番のオメガも…。
ロジェ様が驚いた顔で僕を見た。アメジストの美しい瞳からは涙が流れていた。
突如ロジェ様の身体が金色に光出した。その身体は足元から砂のように崩れていく。
「イヤだ、イヤだ、私は許したくない。アルティス、君を許したくない…。君を忘れたくない、君を覚えていたいんだ、私だけはずっと…。アルティス、アルテ………」
ロジェ様の身体は砂になり消えた。
僕は金色の砂になっていくロジェ様を茫然と見ていた。
レオナルド様が近づいて来て抱き起こしてくれた。
「ルーファス、終わったよ。」
「後はロジェが来るのを待つたけだな。」
僕たちは全員でリベロにいる。ロジェ様が来るのを待っている。ロジェ様が『魅了』を解いてくれないのなら、最悪な事態も考えておかなければならない。ロジェ様の命を…。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「これは護身用だよ。」
レオナルド様から短剣をもらった。タガーという物らしい。柄と鞘は綺麗な宝石で飾られている。
「ありがとうございます。凄くキレイですね。」
「ちゃんと使える物だから気を付けて。」
レオナルド様が鞘から抜いて使い方を教えてくれた。腰のベルトのところに装置する。ジレやジャケットを羽織ると短剣は見えないので誰かに奪われたりせず安全だ。
その後、レオナルド様とラザウェル様は庭に出て目隠しをして剣の稽古をし始めた。オズベルト様も混じって稽古をしている。カナン様は何故か熱心に手鏡を見ている。他のみんなは資料や本を読んだりと忙しそうだ。
僕は庭の薬草を見に行こう。傷に効くサリアという薬草の花が咲きそうだったのを思い出した。
庭の草木を見て歩いていると馬が駆ける音が聞こえた。何だろうと目を凝らして遠くを見た。
「ロジェだ!ロジェが来たぞ!」
ラザウェル様の叫ぶ声が聞こえた。
七、八頭の馬が庭に侵入して来るのが見えた。馬上にはあの黒い鎧を来た男たちが乗っている。その後ろにも馬が見える。
慌てて屋敷の中に逃げようとすると誰かに後ろから羽交締めにされた。
「うわっ⁉︎」
「ルーファス!」
僕が捕まるのが見えたオズベルト様が叫んだ。その声にレオナルド様が驚いて目隠しを外そうと手を掛ける。
「レオ、ダメだ!ロジェだ。」
『魅了』にかかっている二人は目隠しを外そうとした手を止めた。
「みんなで仲良く剣の稽古?楽しそうだね。パトリックの名を語って呼び出したならそれなりの見返りがあるんだろうな。
レオナルド、これはおまえの大事なオメガか?命が欲しかったら私を見ろ!」
ゾッとするような声だった。冷たい湖の底のような声だ。
「レオナルド様ダメです!お願い!」
「うるさい!レオナルド、本当に殺すぞ!」
「止めろ!わかった…ルーファスごめん。」
どうしよう、どうしたらいい?
視界の右端に小さなピンクの蕾が目に入った。ロジェ様に気付かれないようにその蕾をそっと採った。
「レオナルド様、外しちゃダメっ!」
叫びながら右手に持った小さな蕾をロジェ様の顔の前で振る。ポンっと音がして弾けた。爆発草のインクのような汁がロジェ様の顔に飛んだ。
「うわーっ!何だ⁉︎クソッ、前が見えない!」
僕を捕まえる手の力が緩んだのでロジェ様を突き飛ばしてみんなのところに走った。目隠しを外そうとするレオナルド様の手を掴んで止めた。爆発草一つではロジェ様の目は潰せない。一時的に見えなくなっただけだ。
騒ぎを聞きつけたリト様たちが屋敷から出てきた。
「ルーファス!良かった。」
レオナルド様に抱きしめられる。危なくないところへ隠れろと言われた。ふわりと身体が暖かい空気に包まれた。魔法をかけられたみたいだ。その時轟音が鳴り響き僕たちは飛ばされた。みんな散り散りになってしまった。
「『突風』だ!」
ロジェ様が魔法陣を唱えたのだ。
その後は本当に戦争のようだった。黒い鎧の男たちは剣と魔法で襲いかかって来る。レオナルド様たちが何とか食い止める。
「『炎爆』」
レオナルド様の火魔法が辺りを焼き尽くす。
「『氷槍』」
サフィーア様の氷魔法だ。鎧の男目掛けて氷の槍が突き刺さる。
鎧の男たちは次々と倒されていく。鎧男は雷を使うようだ。隠れて見ている僕の身体もビリビリする。
遠くに見えるリト様の周りで風が吹いている。ラザウェル様が守っているようだ。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
爆音や雷が鳴り響きラザウェル様やサフィーア様が倒れているのが見えた。オズベルト様の剣に『雷火』が当たり剣が砕け散った。
いよいよ厳しくなってきた。鎧男の数がなかなか減らない。何かの魔法がかかっているようだ。みんなは体力も魔力も底をついているように見える。
レオナルド様は目隠しをしたまま鎧男と戦っている。
僕は震える手で腰の短剣の柄をぎゅっと握りしめた。いざとなったらレオナルド様を守るぞ。僕にだって出来る事はある。
「勇敢だね。」
「はっ!ロジェ様…。」
木の影に隠れていた僕の後ろにロジェ様が現れた。驚いて体が動かない。
「それで私を殺すつもりか?」
冷たい声だ。美しい顔も冷たく僕を睨んでいる。
「あ、あ、あ…。」
逃げようとするが足がすくんで動かずお尻からひっくり返った。急に爆発音がして隠れていた木が粉々になった。
「『聖光防壁』、レオナルドか…。そんなにびびっていたら剣なんか使えないだろ。剣はこうやって使うんだよ!」
ロジェ様が自分の剣を抜いて僕の目の前に突き付けた。殺される…。レオナルド様を守れなかった。
「「「ルーファス!!!」」」
みんなが僕の名を呼ぶ。
「やめてくれ、ロジェ。ほら、目隠しは外した。頼む…。」
レオナルド様が目隠しを外した。顔を見るよう、ロジェ様を呼ぶ。その顔は青ざめている。
「もうこの地は飽きた。レオナルドと仲良く死ね。」
剣を持つロジェ様の手が動いた。殺される!!
「『停止』」
ビンセント先生の声が聞こえた。今だ!腰の短剣を抜きロジェ様に向けた。ロジェ様は動けずに固まっている。
「ルーファス、早く!長い間は縛れない。」
ロジェ様を刺せば終わる…。殺してしまえば…。
もうみんなボロボロだ。このままではみんなの命も危ない。ロジェ様さえ死ねば…。
震える手でロジェ様に剣を振りかざす。
……………。
「出来ない!出来ないよっ!だってロジェ様だけが悪いんじゃない。」
悲しかったのだ。恋人に裏切られて悲しかっただけなのだ。
僕だってレオナルド様に捨てられてたらどうなるかわからない。
オメガはアルファが居なければ生きていけない。辛いと言われる発情期を一人で耐え、それに命を削られ短い寿命を終えるのだ。僕は短剣を地面に落とし泣き崩れた。出来ない、ロジェ様の辛い気持ちが分かる。
倒れていたみんなも立ち上がって僕を見ている。レオナルド様を見ると唖然としていた。バカなヤツだと思っただろうか…。
「ふん、意気地のない無能なオメガだ。」
『停止』を振り払ったロジェ様が再び剣を僕に向けた。
今度こそ終わりだ。僕の名前を呼ぶ悲鳴のような声が聞こえる。レオナルド様だ…。
ごめんなさい、レオナルド様。ごめんなさい、みんな。
僕はぎゅっと目を閉じてその時を覚悟した。
「止めろロジェ!」
目を開けるとカナン様が叫んで近づいて来るのが見えた。何故かその手にはボロボロの本を持っている。
「うるさい。もう遅い。私以外みんな終わりだ。」
「いいから聞け。恋人だったアルファはアルティスだな?
アルティス・カステール。」
ロジェ様の顔色が変わった。驚いた顔でカナン様を見つめる。
「これはアルティスの日記だ。紙はボロボロでほとんど読めない。最後のページのインクが裏表紙に写って反転文字になっているのを見つけた。だからかろうじて読めた。おまえに宛てたメッセージだ。よく聞け。
『親愛なるロジェ
おまえをこのようにしてしまったのは私だ。運命の番に舞い上がりおまえの事を蔑ろにして傷付けた。あんなに優しく、あんなに聡明だったおまえを悪魔のようにしてしまった。おまえと過ごした七年は貧しくとも幸せだった。私は確かにおまえを愛していたんだ。ただ運命に抗えなかった。だが私はもっとおまえの事を考えて行動するべきだった。どうか許してほしい。
父は私がカステール家に戻る事を許してくれたが私はもう長くない。番と同じ病に侵されている。私が死んだらカステール家の財産は全ておまえに譲ろう。ロジェ・カステールとして養子の手続きをしておいた。いつかおまえの魂が天に召された時に天国で会おう。その時はどうか笑って…。私はもう輪廻は望まない。おまえが生まれ変わった時、運命の番に出会える事を心から祈っている。』」
あれは本なんかじゃなかったんだ。ロジェ様の恋人だったアルティス様の日記。ロジェ様は知らないみたいだ…。
許して欲しいと言っている。運命を引き裂きたロジェ様に許して欲しいと謝っている…。
「なっ!今更そんな…。私は許さない。許さないんだ!」
ロジェ様は持っていた剣を落とした。身体が震えている。
「ロジェ様!アルティス様は『魅了』のせいで死ぬまで番に会えなかった。病気の番を支える事も出来なかった。でも許したんだよ。ロジェ様の事を許したんだ。だからもう…ロジェ様もアルティス様を許してあげて…。」
泣きながらロジェ様に訴えた。許してあげて…。アルティス様は充分苦しんだんだ。もちろんその番のオメガも…。
ロジェ様が驚いた顔で僕を見た。アメジストの美しい瞳からは涙が流れていた。
突如ロジェ様の身体が金色に光出した。その身体は足元から砂のように崩れていく。
「イヤだ、イヤだ、私は許したくない。アルティス、君を許したくない…。君を忘れたくない、君を覚えていたいんだ、私だけはずっと…。アルティス、アルテ………」
ロジェ様の身体は砂になり消えた。
僕は金色の砂になっていくロジェ様を茫然と見ていた。
レオナルド様が近づいて来て抱き起こしてくれた。
「ルーファス、終わったよ。」
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