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「これはロジェの日記のようです。前半は破れてしまっているので分かりません。」
リト様が机の上に読んでいた本を置いた。かなり古くてボロボロだ。
ロジェは王宮に仕える魔術師で新しい魔術を研究していた。国王陛下の命令で『不老不死』を研究していたようだった。魔術師たちは何年もかけて研究したが成功しなかった。
オメガの扱いは今より酷く、王宮仕えの魔術師でも身分はかなり低かった。
それでもロジェの生活は充実していた。それは番う事を約束したアルファの恋人がいたからだ。
そのアルファは公爵家の子息だったが、画家になりたいと言って家を出ていた。ロジェの家で暮らしながら絵を描いていたが画家としてなかなか芽が出なかった。お金もなかったので結婚も番う事もせずロジェは支え続けた。
少しづつ絵が売れ出した頃そのアルファは運命の番を見つけたと言って別のオメガと結婚してしまった。次の発情期に二人は番う約束までしていた。
ロジェは絶望した。何とかして二人に復讐をしようと仕事の傍らいろいろな魔術を研究した。その時に成功した魔法が『魅了』だった。ロジェの恨む気持ちが強く、本来の『魅了』ではなく『呪い』のようなものになったがロジェは満足だった。
それを使い恋人だったアルファたちを別れさせた。
運命の番だと聞くと腹が立って、その『魅了』を使い、番う前の運命の番たちを別れさせた。
その頃、王宮で研究していた『不老不死』が成功した。正確には『不老』だけだった。
すぐに報告しようとしたがやめた。誰よりも魔力が強く、一生懸命に働いてきたロジェだが、オメガと言うだけで不当な扱いをする王宮に腹が立っていたのだ。その『不老』を自分のために使うことにした。王宮は辞めて『不老』と『魅了』を使いアルファやベータを操って生活した。自分を見下していた者たちを操るのは楽しかった。
そんな生活を何十年か続けていた時、自分の恋人を奪ったオメガが病気で死んだ事を知った。
興味本位で恋人だったアルファの『魅了』を解いてみた。何十年経っても若く美しいロジェを見て驚いていたが、運命の番の死を知って自らも死を選んだ。
その出来事はロジェの心をさらに傷付けた。若く美しいロジェよりも死んだ番を選んだのだ。もうロジェに人の心は残っていなかった。憎しみ、嫉み、恨みに飲み込まれてしまった。
僕は泣いていた。ロジェ様のした事は許される事じゃない。でもほんの少しだけ同情した。好きな人に裏切られた悲しかったのだ。
おそらくあの絵は恋人だったアルファが描いたものだ。絵の中のロジェ様は幸せそうだった。恨んでも憎んでも好きだったのだ。だからあの絵も捨てる事が出来ず、『トリガー』に絵を選んだのだ。
あの本や紙の中からカナン様とビンセント先生が『魅了』と『不老』のかけ方を見つけた。『魅了』は相手の目を見て魔法陣を唱えるだけだった。ただ番い持ちにはかからないのでパーティーや夜会でアルファの情報を集める。番のいないアルファを見つけたら『魅了』をかけるだけだ。解くにはかけた本人が解くか、かけた本人が死ぬかしかないようだ。相手の目を見ると発動する。肖像画も目を見ると発動してしまうようになっている。
『不老』はかけ続けないと急激に歳をとって死んでしまう魔法だった。宝石の種類や質によって『不老』の長さが決まるらしい。
ロジェ様は『不老』をかけ続けて何百年も生きていたのだ。
恨みや憎しみを『怨念』に変えてまで…。
「サザーランドの経済状況は極めて良くない。ロジェはサザーランドを滅ぼし、次のターゲットを見つけたら行方をくらますかもしれない。その前に何とかしないと。」
オズベルト様が難しい顔で思案している。
「私とレオナルドがロジェのしてきた事に気付いているのは分かっているだろう。パトリックの名を借りて呼び出すか。」
「あぁ、宝石を贈りたいとか何とか言ってこちらに来てもらおう。」
パトリック・レイモンド様の名前を借りてロジェ様を誘き出す事になった。場所はフォーゼットの隣のリベロという街だ。一度行った事がある。そこにもラザウェル様の別邸があるらしい。古いのでほとんど使っていないみたいだ。ラザウェル様はグリーンレイクにあるパトリック様の手紙の筆跡を真似て手紙を出す。僕たちは一足早くリベロに向かう事にした。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
リベロの別邸は古いが建物や庭はとても広かった。庭に植えてある木や花の中に薬草も混ざっていた。僕とカナン様は使えそうな物を物色していた。
「これは爆弾草だ。珍しいね。」
カナン様がピンク色の蕾をひとつ採った。僕の顔の前でその蕾を振るとポンっと音を立てて弾けてピンクのインクのような物が顔に飛び散った。
「うわー。何するんですか⁉︎」
「爆弾草を見せてあげたんだ。面白いだろ?」
「もう、カナン様の顔にも飛んでますよ。」
顔をハンカチで拭きながら文句を言った。カナン様は笑いながら「そう。」と言って服の袖で顔を拭いていた。
屋敷に戻るとレオナルド様が僕の顔を見て驚いていたが、カナン様に悪戯されたと言うと笑いながら顔を拭いてくれた。
みんなで屋敷の応接室に集まって洞窟にあった本や持ってきた本を読んでいた。
「ねぇ、ルーファス。鏡持ってる?」
「えっ?持ってませんよ。」
「そうか。ビンセントは?」
前に座って資料を読んでいたビンセント先生にも聞いている。
「僕が持っているわけないだろう。」
「そりゃそうだ。」
カナン様は笑いながらどこかへ行ってしまった。
「アイツ、顔がピンクだって事に今気付いたんだ。」
僕とビンセント先生は顔を見合わせて笑った。
リト様が机の上に読んでいた本を置いた。かなり古くてボロボロだ。
ロジェは王宮に仕える魔術師で新しい魔術を研究していた。国王陛下の命令で『不老不死』を研究していたようだった。魔術師たちは何年もかけて研究したが成功しなかった。
オメガの扱いは今より酷く、王宮仕えの魔術師でも身分はかなり低かった。
それでもロジェの生活は充実していた。それは番う事を約束したアルファの恋人がいたからだ。
そのアルファは公爵家の子息だったが、画家になりたいと言って家を出ていた。ロジェの家で暮らしながら絵を描いていたが画家としてなかなか芽が出なかった。お金もなかったので結婚も番う事もせずロジェは支え続けた。
少しづつ絵が売れ出した頃そのアルファは運命の番を見つけたと言って別のオメガと結婚してしまった。次の発情期に二人は番う約束までしていた。
ロジェは絶望した。何とかして二人に復讐をしようと仕事の傍らいろいろな魔術を研究した。その時に成功した魔法が『魅了』だった。ロジェの恨む気持ちが強く、本来の『魅了』ではなく『呪い』のようなものになったがロジェは満足だった。
それを使い恋人だったアルファたちを別れさせた。
運命の番だと聞くと腹が立って、その『魅了』を使い、番う前の運命の番たちを別れさせた。
その頃、王宮で研究していた『不老不死』が成功した。正確には『不老』だけだった。
すぐに報告しようとしたがやめた。誰よりも魔力が強く、一生懸命に働いてきたロジェだが、オメガと言うだけで不当な扱いをする王宮に腹が立っていたのだ。その『不老』を自分のために使うことにした。王宮は辞めて『不老』と『魅了』を使いアルファやベータを操って生活した。自分を見下していた者たちを操るのは楽しかった。
そんな生活を何十年か続けていた時、自分の恋人を奪ったオメガが病気で死んだ事を知った。
興味本位で恋人だったアルファの『魅了』を解いてみた。何十年経っても若く美しいロジェを見て驚いていたが、運命の番の死を知って自らも死を選んだ。
その出来事はロジェの心をさらに傷付けた。若く美しいロジェよりも死んだ番を選んだのだ。もうロジェに人の心は残っていなかった。憎しみ、嫉み、恨みに飲み込まれてしまった。
僕は泣いていた。ロジェ様のした事は許される事じゃない。でもほんの少しだけ同情した。好きな人に裏切られた悲しかったのだ。
おそらくあの絵は恋人だったアルファが描いたものだ。絵の中のロジェ様は幸せそうだった。恨んでも憎んでも好きだったのだ。だからあの絵も捨てる事が出来ず、『トリガー』に絵を選んだのだ。
あの本や紙の中からカナン様とビンセント先生が『魅了』と『不老』のかけ方を見つけた。『魅了』は相手の目を見て魔法陣を唱えるだけだった。ただ番い持ちにはかからないのでパーティーや夜会でアルファの情報を集める。番のいないアルファを見つけたら『魅了』をかけるだけだ。解くにはかけた本人が解くか、かけた本人が死ぬかしかないようだ。相手の目を見ると発動する。肖像画も目を見ると発動してしまうようになっている。
『不老』はかけ続けないと急激に歳をとって死んでしまう魔法だった。宝石の種類や質によって『不老』の長さが決まるらしい。
ロジェ様は『不老』をかけ続けて何百年も生きていたのだ。
恨みや憎しみを『怨念』に変えてまで…。
「サザーランドの経済状況は極めて良くない。ロジェはサザーランドを滅ぼし、次のターゲットを見つけたら行方をくらますかもしれない。その前に何とかしないと。」
オズベルト様が難しい顔で思案している。
「私とレオナルドがロジェのしてきた事に気付いているのは分かっているだろう。パトリックの名を借りて呼び出すか。」
「あぁ、宝石を贈りたいとか何とか言ってこちらに来てもらおう。」
パトリック・レイモンド様の名前を借りてロジェ様を誘き出す事になった。場所はフォーゼットの隣のリベロという街だ。一度行った事がある。そこにもラザウェル様の別邸があるらしい。古いのでほとんど使っていないみたいだ。ラザウェル様はグリーンレイクにあるパトリック様の手紙の筆跡を真似て手紙を出す。僕たちは一足早くリベロに向かう事にした。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
リベロの別邸は古いが建物や庭はとても広かった。庭に植えてある木や花の中に薬草も混ざっていた。僕とカナン様は使えそうな物を物色していた。
「これは爆弾草だ。珍しいね。」
カナン様がピンク色の蕾をひとつ採った。僕の顔の前でその蕾を振るとポンっと音を立てて弾けてピンクのインクのような物が顔に飛び散った。
「うわー。何するんですか⁉︎」
「爆弾草を見せてあげたんだ。面白いだろ?」
「もう、カナン様の顔にも飛んでますよ。」
顔をハンカチで拭きながら文句を言った。カナン様は笑いながら「そう。」と言って服の袖で顔を拭いていた。
屋敷に戻るとレオナルド様が僕の顔を見て驚いていたが、カナン様に悪戯されたと言うと笑いながら顔を拭いてくれた。
みんなで屋敷の応接室に集まって洞窟にあった本や持ってきた本を読んでいた。
「ねぇ、ルーファス。鏡持ってる?」
「えっ?持ってませんよ。」
「そうか。ビンセントは?」
前に座って資料を読んでいたビンセント先生にも聞いている。
「僕が持っているわけないだろう。」
「そりゃそうだ。」
カナン様は笑いながらどこかへ行ってしまった。
「アイツ、顔がピンクだって事に今気付いたんだ。」
僕とビンセント先生は顔を見合わせて笑った。
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