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「ここにロジェは居たんだな。でももうかなり使われていないようだ。」

サフィーア様が机の埃を指で拭いながら言った。

扉の奥は洞窟になっていて奥に進むと部屋があった。テーブルと椅子、本棚がひとつ置いてある。飾りや余計な物は一切置いていない質素な部屋だった。机の上は埃が積もっていて部屋の中は蜘蛛の巣だらけだった。ビンセント先生か魔法で明かりを灯し、レオナルド様が蜘蛛の巣を焼き払った。埃まみれの机には本や紙などが散らばっていた。みんなでその部屋の中を眺めて本や紙に書かれた文字を読んでいる。僕にはそこに使われているとても古い異国の文字は読めないので部屋の中を見て回る。壁にカーテンが掛かっている場所があったので何気なく開けてみた。

「うわっ!」

「ルーファス⁉︎どうした?」

「レオナルド様、来ちゃダメです!」

レオナルド様の足が止まる。ビンセント先生とカナン様がカーテンの裏を覗き込んだ。そこにはたくさんの絵が置いてあったのだ。キャンバスだけで飾られていた様子はない。無造作にカーテンの裏に押し込めてあった。
その絵は何枚ものロジェ様の肖像画だったのだ。レオナルド様が持っていたものより髪が長いロジェ様の絵は、横顔だったり、全身像だったりとさまざまだった。

「かなり古いね。」

「あぁ。」

カナン様とビンセント先生が絵を見ながら話している。絵の背景や着ている服装から年代がわかるみたいだ。二人で丹念に絵を見ていた。

レオナルド様の顔色が良くない。表情も虚だ。ここの場所はロジェ様の『怨念』が強いみたいだ。
さっき引っ張られた感触を思い出した。『怨念』があのブローチに反応したのかもしれない。ロジェ様は宝石を集めている。
僕はレオナルド様が拾ってくれたそのブローチを手に取って見つめた。
そうか。『怨念』が強いということは、『魅了』が発動してもおかしくない。僕は慌ててレオナルド様に近寄りキスをした。

「あ、あぁルーファス。ありがとう。今、頭の中にモヤが出て来そうだったんだ。」

ほっとしたように笑って僕を抱きしめてキスをする。心配そうに顔を覗き込むとさらに強く抱きしめて何度も何度もキスをした。チラリとラザウェル様を見るとリト様を抱きしめてキスをしていた。同じように頭の中にモヤが出て来たのだろう。

「あまり長居はできないな。」

僕たちの様子を見たサフィーア様が本や紙を鞄に詰めながら言った。みんなで持てるだけ本や紙を鞄に詰め込んで外に出た。
レオナルド様が木の根を引っ張ると扉が閉まった。


デスカルロ山の麓に着いた頃には辺りは暗くなっていた。山を見上げると頂上付近は吹雪いているようだった。あんなに晴れていたのに…。やっぱり山の天気は変わりやすいんだ。

麓の宿で一泊して翌日フォーゼットに戻った。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


みんなで持ってきた本や紙を読んでいる。僕とオズベルト様は読めないので庭に出て剣術の稽古の真似事をしていた。

「あはは、それじゃあ虫も殺せないぞ。」

「うぅ、仕方ないじゃないですか。」

木の棒でオズベルト様に向かって行くが擦りもしない。ただ体力を消耗するだけだ。オズベルト様に笑われながら木の棒を振り回しているとレオナルド様が血相を変えて飛んできた。

「ルーファス!危ないよ。そんな事しなくても大丈夫だから。怪我でもしたら大変だ。」

「だとよ。ルーファス。」

「僕だって少しは役に立ちたいんです…。」

木の棒はレオナルド様に取り上げられてしまった。レオナルド様は危ないからダメ、の一点張りだ。

「ルーファスの気持ちはよく分かったよ。でも、無理する必要はない。みんなそれぞれの得意な事やできる事をやってるでしょ?剣が得意な人、文章の解読が得意な人、薬を作るのが得意な人。ルーファスにはルーファスしかできない事があるよ。」

「僕にしかできないこと…?」

「あるだろ?私を癒やして元気にする事だ。」

「え?そんな事…?」  

「とても重要な事だよ。しかもルーファスにしか出来ない。」

「そうだぞ。レオがこの試練を乗り越えられるかはルーファスにかかっていると言っても良い。」

「そうだよ。私はどんなに辛くてもルーファスとの幸せな未来を手に入れるために頑張れる。だからルーファスは側で私を支えて?」

二人が僕を励ましてくれた。僕だってレオナルド様との幸せな未来を手に入れたい。何も出来ないといって落ち込んでばかりではダメだ。僕にできる事を一生懸命やろう。レオナルド様を支えて…あっ!また庭の薬草が役に立つ日が来るかもしれない。後で庭を見に行こう。

「はい。頑張ります。」

レオナルド様が笑顔で頭を撫でてくれた。



応接室に戻るとみんなまだ持ってきた本や紙を読んでいた。
リト様の横で熱心に本を読んでいるラザウェル様に近寄って声を掛けた。
あまりにも難しい顔をしていたからだ。その本に書いてある事が気になった。


「ラザウェル様、何か怖い事でも書いてあるのですか?」

「は?あ、あぁ。この本か?」 

「はい。すごく怖い顔をしていたので。」

「そうか。いや、私は読めないんだ。他国の文字や古代文字はさっぱりだ。ただ見ていただけだ。」

あははと笑って本をテーブルの上に置いた。隣のリト様が『ラザウェル様は読んでいるフリをしているだけだよ。』と言って面白そうに笑っている。なるほど、その手があったか。

「こういう事はリトの専門だ。私は何かあった時にすぐに守ってやれるように隣に居るんだ。」

リト様を抱き寄せてこめかみや頬にキスをした。
二人はお互いができる事をして支え合っているんだ。
よし!僕もレオナルド様を守ろう!改めて心に誓いソファーで本を読み始めたレオナルド様の隣に座った。


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