運命には抗えない〜第一幕〜

みこと

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「ルーファス、準備はいいね?その外套、よく似合ってるよ。その帽子も良いね。可愛い…。食べたい。」

レオナルド様が抱きついて顔にキスしてくる。みんないますから。恥ずかしいですっ!

「レオ、わかったから。おまえの言う通りルーファスは可愛いよ。」

「なんだ、オズベルト。ルーファスは私のものだ。」

サッと僕を背中に隠してオズベルト様を睨んだ。オズベルト様は呆れた顔だ。


僕たちは今からデスカルロ山に登る。ラザウェル様の体力の回復を待って今日になったのだ。またロジェ様が奇襲して来るかもしれないのでみんなで行動する事にした。
そしてこの新しい外套はこの間作ってもらったものでセーブルの毛皮で出来た上等なものだ。レオナルド様がデザインや生地を選んでくれた。この外套ひとつで僕の実家は一年くらい働かなくても暮らせる。こんな日に着ていくのも勿体ないがデスカルロ山はものすごく寒いので一番暖かいこの外套にした。同じセーブルの毛皮の帽子と手袋を着けた。足元はブーツ、これもレオナルド様が発注し作ってもらったムートンのブーツだ。とても暖かい。平地では暑くて汗が出てくる。



馬車でデスカルロ山の麓に向かう。馬車では六合目くらいまでしか行けないので後は歩きだ。一応、食料や飲み物なんかを鞄に入れているのが僕の荷物はほとんどレオナルド様が持ってくれている。リト様も僕と同じような感じだ。全身モコモコでラザウェル様が荷物を持っている。

「リト、腹は減ってないか?ほら、おまえの好きなチョコレートがたっぷり入ったブラウニーだ。」

リト様の口にブラウニーを入れている。さらに口の端についたチョコレートを舐め取っている。さっきからこの調子だ。

「ルーファス、マフィンがあるよ。ほら、あーん。」

こちらは僕の口の中にマフィンを入れてくる。僕の好きなラズベリーのマフィンだ!甘酸っぱくて美味しい!
…じゃなくて。
僕たち四人が同じ馬車だ。何で僕たちを同じ馬車にするんだ。オズベルト様が勝手に決めてしまった。

「美味しい?私にも一口…。」

僕の口の中に舌をねじ込んでマフィンを攫っていく。うっとりした顔でルーファスの味、美味しいと言って喜んでいる。それを見たラザウェル様が、リト様に口移しでブラウニーを食べさせている。

「よく噛んでやったからな。食べやすいだろ?」

見てはいけないのはわかっているけどラザウェル様のアレは服の上からでもわかるくらいに形を変えていた。僕のお隣さんもしっかり大きくなっているのが分かる。二人ともズボンがキツそうだ。このままではこの馬車の中で…。僕とリト様は素早く目配せした。そしてお互いの番の耳元で囁いた。

「「デスカルロ山から帰ったら気が済むまで愛して下さい。それまでは我慢です。」」

「一日中?」

「好きなだけ?」

「「はい。」」

やっと大人しくなった。側にいるだけってやつも大変だ。




デスカルロ山の六合目は既に寒かった。うっすらと雪が積もっている。登山道はあるが八合目辺りから雪で覆われて分かりずらくなっている。大司教様が遭難したのは九合目あたりなのでそこを目指す。

険しい道を無言で進む。時々レオナルド様が僕の様子を気にしてくれる。僕に合わせていたらいつ着くか分からない。何とか頑張って足を前に進めた。リト様もキツそうだ。ラザウェル様が手を引いている。カナン様とビンセント先生は旅慣れているのでこんな雪山でも平気そうだ。二人で異国の山の話をしている。

「ルーファス、ほら。」

登り始めてから三時間ほど経った。僕は既にフラフラだ。レオナルド様が僕を背負おうと前に座った。

「だ、だいじょぶ…です。まだ、大丈夫。」

「いいから、ほら。」

僕を背負って登り始めた。小さくごめんなさいと謝った。完全に足手まといだ。屋敷に残っていた方が良かった。

「謝らないで。ルーファスとくっつけて嬉しい。それにルーファスは体力の残しておかないと。『好きなだけ』していいんでしょ?」

最後の方は小声で僕に囁いた。僕は頷いてレオナルド様の首筋に鼻を擦り付ける。首をすくめて擽ったいと嬉しそうに笑った。

暫くしてリト様もラザウェル様に背負われた。とても数日前まで怪我をして寝ていた人とは思えない。ラザウェル様も嬉しそうだ。
僕の後ろではカナン様たちがアルファは体力おばけだ、この有り余る体力を何かに活用できないかと話をしていた。




朝から登り始めてもう昼過ぎだ。かなり登ったのだろう。地面は雪に覆われている。
レオナルド様がおそらくこの辺りが目的地のはずだと言って昼休憩を取る事にした。冷たくなってしまったけどサンドウィッチは美味しかった。冷えた果実水も疲れた体に沁みた。
カナン様とビンセント先生は流し込むように昼を食べて周りを散策している。他のみんなも昼食を摂って辺りを歩き始めた。僕とリト様は休んでいるように言われて二人で剥き出しの岩に座っている。僕たちは足手まといになっている事を嘆き、帰ってからの約束について嘆いた。

「嫌じゃないんだよ。でも、限度ってものがあるでしょう。」

リト様が雪を丸めながら顔を赤くして言った。

「そうなんです。カナン様に体力が回復するようなものを作ってもらいましょうか。」

二人で良い案だと喜んでいたが、それをアルファの二人が飲んでしまったら、という話になり怖くなってやめようという事になった。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「わからないな。それらしき物も見つからない。大司教様のように『怨念』を感じることが出来れば。」

みんな戻ってきたが何も見つけられなかったようだ。少し体力が回復した僕は立ち上がって周りを散策した。レオナルド様が心配して後をついてくる。ついてきながら周りを探っているようだ。
不意に誰かに引っ張られるような感覚に陥った。胸元辺りをグイッと引っ張られた気がしたのだ。

カシャン…。

外套の中に来た服に着けていたブローチが落ちた。レオナルド様にもらったサファイアとブラックダイヤモンド出来たあのブローチだ。あっ、と手を伸ばしたがブローチは坂を滑り落ちていく。慌てて後を追って足を踏み出した瞬間、そこは雪が積もっていただけで地面がなかった。『うわーっ』と声を上げてそのまま坂の下に滑り落ちてしまった。

「ルーファスっ!!」

レオナルド様の声が聞こえた。落ちたのは数メートルほどで斜面の下は平らな場所になっていた。僕はそこに尻餅をついて転がった。

「だ、大丈夫です。」

返事をして立ち上がる。ガサガサと音がしてレオナルド様が降りて来ているのが見えた。上等な毛皮が汚れてしまった。ブローチも落としてしまった。がっかりしていると視界の端にキラリと光る何かが映った。ブローチだ!平らな場所から少し下の斜面に引っかかっている。近寄って落ちたブローチに手を伸ばした。ギリギリ届かない。あともう少し…、届かないので何かないかと見渡すと、平らな場所と崖の境目に10cmほど木が飛び出ているのが見えた。おそらく成長した木の根が飛び出た物だろう。それを掴んで身を乗り出した。木の根を引っ張って体重をかけると、その木の根が大きく動いた。あ、しまった落ちると思った瞬間、レオナルド様にがしっと腰を抱かれた。

「ルーファス、大丈夫⁉︎あぁもう、心臓が止まりそうだよ。」

「あ、ありがとうございます。ごめんなさい。あの…」

ゴゴ、ゴゴ、ゴゴゴ、ガタン!

ブローチが落ちてと言おうとした時、僕たちは固まってしまった。
目の前の斜面が扉のように開いたのだ。




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