運命には抗えない〜第一幕〜

みこと

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「『止血』の処置のお陰ですね。傷は小さいですが、大きな血管を傷つけていました。意識が戻るかどうかはこの二、三日が山でしょう。」

ラザウェル様は命に別状はないみたいだが意識が戻らない。お医者様に診ていただいて傷の手当てをしてもらった。リト様がずっと手を握っている。

レオナルド様の軍隊が異常を察知して駆けつけてくれた。ロジェ様には逃げられてしまったがラザウェル様以外はみんな無事だった。フォーゼット軍がロジェ様を追いかけたが既に姿を消した後だった。僕たちは軍の副隊長に何があったのか聞かれたが、奇襲に合いどこの誰かは分からないと言っておいた。暫くは屋敷の周りの警備を厳重にしてくれるようだ。


応接室のソファーでロイとハンナとカナン様が怪我人の手当てをしている。無事だったとはいえみんな怪我をしている。ここの屋敷は安全ではないのでレオナルド様が大方の使用人に暇を出した。なので屋敷には料理人とロイとハンナと僕たちしか居ない。

「サフィ、おまえはこの件から降りろ。もうすぐ二人目が産まれるんだろ?」

オズベルト様が怪我の処置を終えてサフィーア様の方を見た。

「いや、これはもうレオだけの問題ではない。今解決しないと私の子どもたちにも関わってくる。私の長男はアルファだ。このままロジェを野放しにできない。私の息子やこの世界を守るためにやりきらなければならないんだ。」

「僕とカナンもロジェの秘密を暴いて解決するまでやり切ります。戦闘魔法は得意ではないけど、今日みたいな回復魔法なら役に立てるはずです。」

サフィーア様の言葉を聞いて、まだ青い顔をしたビンセント先生が力強く言った。
そうか、とオズベルト様が力なく微笑んだ。

「二階のあの部屋で何が起こったんです?」

ロイが鍵を開けて中に入ると窓ガラスが割れていた。部屋の中にロジェがいたので捕まえようとしたら黒い鎧を着た男たちに斬りつけられた。サフィーア様が咄嗟に氷の魔法を唱えて敵を凍らせようとしたところロジェ様に魔法を弾き返された。そのせいで腕が凍ってしまったのだ。弾き返された圧力でオズベルト様は吹っ飛ばされたしまった。ロイはサフィーア様が守ってくれたので無事だった。
お医者様もカナン様も僕たちには体力の回復が最優先だと言った。なので今日は早めに休む事にした。

僕は寝る前にそっとラザウェル様がいる部屋を覗いてみた。リト様がベッドサイドに座りキスしていた。
ラザウェル様は『魅了』にかかっているはずなのにリト様を守ったのだ。精神を縛られても愛しい思いが勝った。
早く目が覚めて欲しい。そしてまた仲睦まじい姿を見せて欲しい…。僕はそっと扉を閉めた。




次の日、カナン様はあの肖像画を持って王都にある教会に出かけた。やはり『魅了』というよりは『呪い』に近いだろうと言って神父様に見てもらうようだ。サフィーア様が付き添って行った。

そして何と、ラザウェル様が目を覚ましたのだ。リト様が泣いている。お医者様はまだ安静が必要だと言ったのでリト様がお世話をしている。やはりアルファなので強靭な生命力だ。

「オズベルト、腕を上げたな。」

「私は騎士団長ですからね。あなたに稽古をつけてもらっていた頃とは違いますよ。ラザウェル様は剣術の稽古をサボり過ぎですよ。」

「ははは、確かに。おまえに押されているようでは私の腕も落ちたな。」

「でも、咄嗟にリト様を庇ったあの反射神経は大したものです。」

「当たり前だ。リトは私の命よりも大切な番だからな。例え『魅了』だか『呪い』だかにかかっていたとしても私の魂はリトを守るようにできている。」

ラザウェル様がベッドの端に座っているリト様の体を優しく撫でながら目を細めて見つめた。リト様も嬉しそうだ。お見舞いに来たオズベルト様と冗談を言い合ってとても剣を交えていた二人とは思えないほど和やかだった。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


僕とレオナルド様はカナン様と一緒に裏庭の薬草を見にきていた。

「レオナルド様、すごいですね。こんなにたくさんの種類の薬草があるなんて。しかも手入れが行き届いている。」

「私は何もしていないんだ。全てルーファスが育てたんだよ。本当にルーファスは素晴らしいよ。」

「ヘンリーも手伝ってくれました。でも褒められて嬉しいです。」

レオナルド様が頭を撫でてくれる。カナン様がいくつか採取していた。ラザウェル様に飲んでもらう煎じ薬を作るらしい。
厨房で採ってきた薬草を煎じている。僕は例のノートを取ってきてメモしながら手伝った。

「これは貧血に効く煎じ薬でね。血は骨の中で造られるんだけど、血を造る細胞を刺激する作用があるんだ。あとこっちは傷口から菌が入らないようにする煎じ薬だよ。」 

出来上がった煎じ薬はドブみたいな色のものと毒々しい紫色の煎じ薬だった。カナン様はそれを見て成功だ!と喜んでいる。




ベッドの上に座って枕に身体を預けた格好のラザウェル様が嫌そうな顔でその二つの煎じ薬を見ている。カナン様は嬉々として薬の効用を説明している。

「これを飲むのか?」 

「はい。」

本当に嫌そうだ。なかなか飲まないラザウェル様の耳元でリト様が何か囁いた。一瞬驚いた顔をして『本当か?』とリト様に確認している。リト様が頷くのを見てその煎じ薬を一気に飲み干した。
この世の終わりみたいな顔をしてベッドに打っ伏した。


その後僕たちはオズベルト様を持ってきた手紙を見て愕然とした。オズベルト様が部下に調べさせていたものらしい。その内容はサザーランド王国についてのものだった。
ロジェ様が嫁いだ先のサザーランドは財政が火の車だった。二年前にロジェ様が嫁いでから王太子の出費がかなり増えている。国王は息子可愛さに見て見ぬふりをしているようだ。金がなければ税を増やせばいいという安直な考えで増税し、国民の不満は膨らんでいる。このままではクーデターが起こってもおかしくない。
カリスタ帝国と同じだ…このままではサザーランドも滅びてしまう。

「ロジェは案外焦っているのかもしれない。王太子から満足な宝石がもらえない。そして一番の太客のレオとラザウェル様からも貢ぎ物が来ない。俺の調べではロジェの被害者の中で一番金を持っているのはレオたちだからな。宝石がなければ『不老不死』がかけられない。」

「そうか、だからグリーンレイクとここに現れたのかもしれないな。私たちが何故宝石を贈ってこないのか調べに来たのか。」

サザーランドは頼みの綱の鉱山もルビーやエメラルドが採れなくなってきて休山している。サザーランドを滅ぼしてから何食わぬ顔をして違う国に行き同じ事を繰り返すつもりなのだろうか…。
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