27 / 34
27
しおりを挟む
「どこだ!律ーっ!律ーーーっ!!」
俊哉はもう一度戻って縛り上げた連中に地下の場所を聞こうと踵を返した。
その時ふわりと良い匂いがした。
優しく甘く切ない匂い。
間違いなく律のフェロモンだ。
壁からその匂いは漏れ出ている。俊哉はそのまま匂いのする壁を丁寧に調べた。
すると一カ所、明らかに他とは違う壁を見つけたのでその場所を押してみる。何とそこは隠し扉になったいた。
「律っ!」
扉の中から律のフェロモンが香る。
俊哉はその香りの濃くなる方へ走った。
「これか…。」
突き当たりにエレベーターがあった。
迷わずそれに乗り地下のボタンを押す。
地下に降りるとすぐに男が二人立っていた。
「誰だ!」
「何でここに…。うわっ!」
俊哉がここに来たことに驚いているようだ。
その二人を突き飛ばしさらに奥へと進む。
男たちが起き上がり追いかけてくるのが分かった。
「律ーーっ!」
突き当たりの一つしかないドアを開ける。
目に入った光景に俊哉の血液が逆流するような怒りを覚えた。
「何だ!誰だおまえっ!」
「と、俊哉くん、助けて…。」
涙でぐしゃぐしゃの律の上に正隆が馬乗りになっていた。
律の来ていたパジャマはボタンが飛びほとんど脱げかけている。
「…おまえっ!」
俊哉は正隆をギッと睨む。その怒りのフェロモンに正隆の動きが止まった。
「誰だっ、勝手に入って来たのか?」
「うわっ!離せっ!」
追いついた男二人が俊哉を羽交締めにした。
「離せっ!律っ!律から離れろっ!」
「はっ、何だよおまえ…。」
俊哉のフェロモンから解放された正隆が肩で息をする。それでも怯まず俊哉を睨み付ける。
「律から離れろっ!」
「…そうか。おまえ、そのフェロモン。残念だけど律くんは俺のものだ。」
「…っ!」
「マッチングしたんだよ。これは覆せない決定事項だ。」
正隆がニヤリと笑い胸を逸らす。
「あなたは一条俊哉さんですね?あなたのマッチングはすでに解除されています。山科律さんは妹尾正隆さんと再マッチングしたのです。」
「マッチング解除の取り消しを頼んでいるはずだっ!それに律は…。」
俊哉は律を見る。
大事なオメガが他のアルファに馬乗りにされ泣いている。それだけでまた怒りが再燃した。
「俊哉くんっ!助けて…。んぐっ、」
律が俊哉に助けを求めると正隆の顔が怒りで歪んだ。そして律の口を手で閉じる。
「離せっ!律、こっちに来るんだ!」
羽交締めにされたままの俊哉が叫ぶと、律が泣きながら俊哉を見た。
そして自分の口を塞ぐ正隆の手を思いっきり噛みついた。
「うわっ!痛っ!」
正隆が仰け反った隙に律がするりと正隆の身体の下から這い出る。
それを見た俊哉も羽交締めを振り解き律の元へ走り抱きしめた。
「俊哉くん、俊哉くん、うわーんっ!」
「律、大丈夫か?律、律…。」
大泣きする律を俊哉がキツく抱きしめフェロモンで覆った。
「痛ってぇ、くそ。」
正隆が噛み付かれた右手を振りながら立ち上がる。
「俺のだ。俺が手に入れたオメガだ。」
抱き合う二人を憎悪の目で睨み付けた。手には何か握られている。
「えっ!」
「ちょっ、ちょっと君…」
皆が恐怖の表情で正隆を見た。
その手にはナイフが握られていたのだ。
「俺のオメガだ。律、こっちに来い。」
「いや、嫌だ…。」
律が俊哉にしがみつく。それを見た正隆は怒り狂ったように叫ぶ。
「殺してでも連れて行くからな。」
「やめろ!律、後ろへ。」
俊哉が庇うように律を自分の後ろへ隠した。その隙に一人の男が律を捕まえ、俊哉をまた羽交締めにした。
「あっ!」
「律っ!くそっ、律を返せ。」
「いいぞ。そのままオメガは俺のものだ。こっちによこせ。」
にやりと笑う正隆が手を伸ばす。律を捕まえた男が正隆の方に歩き出した。
「やめろーーっ!」
ぶわりと広がる俊哉のフェロモンに羽交締めの力が緩んだ。その隙に俊哉がそれを振り解く。正隆はフェロモンを浴びて一瞬怯んだが青い顔で身体を立て直した。
アルファの力の差は圧倒的に俊哉の方が強い。しかし正隆はどうしても律を手に入れたいようだ。格上のアルファにも怯まない。そして目は完全にイっている。
「律、逃げろっ!」
俊哉が正隆に飛び掛かる。
狭い部屋の中で二人は縺れ合って倒れた。
正隆がナイフを振り回して俊哉を引き剥がそうとする。
「くっ!」
「俊哉くん!」
俊哉の左腕をナイフが掠め、俊哉が床に転がった。
完全に我を失った正隆がナイフを握り回し俊哉に当たってしまった。服が裂けポタポタと血が垂れる。
もうダメだ…。
俊哉が覚悟を決めたその時だ。総司たちが部屋に飛び込んで来たのだ。
「俊哉っ!」
中の惨劇に驚いた総司が俊哉を助け起こす。
殺気立った正隆が飛び掛かろうとするが潤がそれを止めた。
「律っ、」
助け起こされた俊哉はすぐに律を捕まえている男の殴り飛ばし、律を奪い返した。
「俊哉くん、血が、血が…。」
「大丈夫、律、大丈夫だから…。」
潤が正隆からナイフを取り上げる。
俊哉に殴られた男が起き上がり、大声で喚き散らした。
「お、おまえたち!こんなことをしてただで済むと思うなよ?私たちはバース庁の者だ!そ、それを…」
「そうですか。それならこちらにも言い分がありますよ。」
石田だ。冷静な様子で部屋の中に入り辺りを見渡す。
松尾も中に入って来てスマホで写真を撮り出した。
「これがバース庁のやり方ですか?我々も褒められたものではありませんが、これは酷い。オメガの人権は?律くんの意思を確認しましたか?」
「う、そ、それは…。しかし、再マッチングしたのは確かだ!それをその男がっ!」
そう言って俊哉を指差し苦々しい顔をする。
「ええ。確かに彼らはルール違反を犯しました。だが、彼らは100%の相手です。一度出会ってしまったら離れられない。それに大事なのは律くんの意思です。律くんはどうしたいですか?」
石田が律の顔を見る。
「ぼ、僕は俊哉くんがいい。」
律が泣きながら俊哉を見つめる。
「マッチングは解除されましたよ?」
「それでも俊哉くんがいいです。ずっと待ってました。俊哉くんを…ずっと…。」
「律…。ごめん、俺のせいでごめん。律、ごめん。」
ポロポロ涙を流す律を俊哉が抱きしめる。
それを見た石田がバース庁の者と名乗る男を見据えた。
「あなたたちはこのマッチング制度の根本を忘れている。制度の根本はより良いアルファを産むためですよね?相性の良いカップルの子どもは必ずアルファです。そのための制度なんですよね?律くんはもう俊哉くんしか受け入れない。そこに転がっている男と番いになっても律くんは子を成すことすら出来ないかもしれない。オメガがアルファを産む条件をお忘れですか?そのオメガが心の底から相手のアルファを愛することですよ?律くんの相手は俊哉さんだけです。これはもう彼が決めたこと。あなたたちがやってることは茶番でしかない。」
そう言い切る石田の言葉にバース庁の男たちはぐうの音も出なかった。
俊哉はもう一度戻って縛り上げた連中に地下の場所を聞こうと踵を返した。
その時ふわりと良い匂いがした。
優しく甘く切ない匂い。
間違いなく律のフェロモンだ。
壁からその匂いは漏れ出ている。俊哉はそのまま匂いのする壁を丁寧に調べた。
すると一カ所、明らかに他とは違う壁を見つけたのでその場所を押してみる。何とそこは隠し扉になったいた。
「律っ!」
扉の中から律のフェロモンが香る。
俊哉はその香りの濃くなる方へ走った。
「これか…。」
突き当たりにエレベーターがあった。
迷わずそれに乗り地下のボタンを押す。
地下に降りるとすぐに男が二人立っていた。
「誰だ!」
「何でここに…。うわっ!」
俊哉がここに来たことに驚いているようだ。
その二人を突き飛ばしさらに奥へと進む。
男たちが起き上がり追いかけてくるのが分かった。
「律ーーっ!」
突き当たりの一つしかないドアを開ける。
目に入った光景に俊哉の血液が逆流するような怒りを覚えた。
「何だ!誰だおまえっ!」
「と、俊哉くん、助けて…。」
涙でぐしゃぐしゃの律の上に正隆が馬乗りになっていた。
律の来ていたパジャマはボタンが飛びほとんど脱げかけている。
「…おまえっ!」
俊哉は正隆をギッと睨む。その怒りのフェロモンに正隆の動きが止まった。
「誰だっ、勝手に入って来たのか?」
「うわっ!離せっ!」
追いついた男二人が俊哉を羽交締めにした。
「離せっ!律っ!律から離れろっ!」
「はっ、何だよおまえ…。」
俊哉のフェロモンから解放された正隆が肩で息をする。それでも怯まず俊哉を睨み付ける。
「律から離れろっ!」
「…そうか。おまえ、そのフェロモン。残念だけど律くんは俺のものだ。」
「…っ!」
「マッチングしたんだよ。これは覆せない決定事項だ。」
正隆がニヤリと笑い胸を逸らす。
「あなたは一条俊哉さんですね?あなたのマッチングはすでに解除されています。山科律さんは妹尾正隆さんと再マッチングしたのです。」
「マッチング解除の取り消しを頼んでいるはずだっ!それに律は…。」
俊哉は律を見る。
大事なオメガが他のアルファに馬乗りにされ泣いている。それだけでまた怒りが再燃した。
「俊哉くんっ!助けて…。んぐっ、」
律が俊哉に助けを求めると正隆の顔が怒りで歪んだ。そして律の口を手で閉じる。
「離せっ!律、こっちに来るんだ!」
羽交締めにされたままの俊哉が叫ぶと、律が泣きながら俊哉を見た。
そして自分の口を塞ぐ正隆の手を思いっきり噛みついた。
「うわっ!痛っ!」
正隆が仰け反った隙に律がするりと正隆の身体の下から這い出る。
それを見た俊哉も羽交締めを振り解き律の元へ走り抱きしめた。
「俊哉くん、俊哉くん、うわーんっ!」
「律、大丈夫か?律、律…。」
大泣きする律を俊哉がキツく抱きしめフェロモンで覆った。
「痛ってぇ、くそ。」
正隆が噛み付かれた右手を振りながら立ち上がる。
「俺のだ。俺が手に入れたオメガだ。」
抱き合う二人を憎悪の目で睨み付けた。手には何か握られている。
「えっ!」
「ちょっ、ちょっと君…」
皆が恐怖の表情で正隆を見た。
その手にはナイフが握られていたのだ。
「俺のオメガだ。律、こっちに来い。」
「いや、嫌だ…。」
律が俊哉にしがみつく。それを見た正隆は怒り狂ったように叫ぶ。
「殺してでも連れて行くからな。」
「やめろ!律、後ろへ。」
俊哉が庇うように律を自分の後ろへ隠した。その隙に一人の男が律を捕まえ、俊哉をまた羽交締めにした。
「あっ!」
「律っ!くそっ、律を返せ。」
「いいぞ。そのままオメガは俺のものだ。こっちによこせ。」
にやりと笑う正隆が手を伸ばす。律を捕まえた男が正隆の方に歩き出した。
「やめろーーっ!」
ぶわりと広がる俊哉のフェロモンに羽交締めの力が緩んだ。その隙に俊哉がそれを振り解く。正隆はフェロモンを浴びて一瞬怯んだが青い顔で身体を立て直した。
アルファの力の差は圧倒的に俊哉の方が強い。しかし正隆はどうしても律を手に入れたいようだ。格上のアルファにも怯まない。そして目は完全にイっている。
「律、逃げろっ!」
俊哉が正隆に飛び掛かる。
狭い部屋の中で二人は縺れ合って倒れた。
正隆がナイフを振り回して俊哉を引き剥がそうとする。
「くっ!」
「俊哉くん!」
俊哉の左腕をナイフが掠め、俊哉が床に転がった。
完全に我を失った正隆がナイフを握り回し俊哉に当たってしまった。服が裂けポタポタと血が垂れる。
もうダメだ…。
俊哉が覚悟を決めたその時だ。総司たちが部屋に飛び込んで来たのだ。
「俊哉っ!」
中の惨劇に驚いた総司が俊哉を助け起こす。
殺気立った正隆が飛び掛かろうとするが潤がそれを止めた。
「律っ、」
助け起こされた俊哉はすぐに律を捕まえている男の殴り飛ばし、律を奪い返した。
「俊哉くん、血が、血が…。」
「大丈夫、律、大丈夫だから…。」
潤が正隆からナイフを取り上げる。
俊哉に殴られた男が起き上がり、大声で喚き散らした。
「お、おまえたち!こんなことをしてただで済むと思うなよ?私たちはバース庁の者だ!そ、それを…」
「そうですか。それならこちらにも言い分がありますよ。」
石田だ。冷静な様子で部屋の中に入り辺りを見渡す。
松尾も中に入って来てスマホで写真を撮り出した。
「これがバース庁のやり方ですか?我々も褒められたものではありませんが、これは酷い。オメガの人権は?律くんの意思を確認しましたか?」
「う、そ、それは…。しかし、再マッチングしたのは確かだ!それをその男がっ!」
そう言って俊哉を指差し苦々しい顔をする。
「ええ。確かに彼らはルール違反を犯しました。だが、彼らは100%の相手です。一度出会ってしまったら離れられない。それに大事なのは律くんの意思です。律くんはどうしたいですか?」
石田が律の顔を見る。
「ぼ、僕は俊哉くんがいい。」
律が泣きながら俊哉を見つめる。
「マッチングは解除されましたよ?」
「それでも俊哉くんがいいです。ずっと待ってました。俊哉くんを…ずっと…。」
「律…。ごめん、俺のせいでごめん。律、ごめん。」
ポロポロ涙を流す律を俊哉が抱きしめる。
それを見た石田がバース庁の者と名乗る男を見据えた。
「あなたたちはこのマッチング制度の根本を忘れている。制度の根本はより良いアルファを産むためですよね?相性の良いカップルの子どもは必ずアルファです。そのための制度なんですよね?律くんはもう俊哉くんしか受け入れない。そこに転がっている男と番いになっても律くんは子を成すことすら出来ないかもしれない。オメガがアルファを産む条件をお忘れですか?そのオメガが心の底から相手のアルファを愛することですよ?律くんの相手は俊哉さんだけです。これはもう彼が決めたこと。あなたたちがやってることは茶番でしかない。」
そう言い切る石田の言葉にバース庁の男たちはぐうの音も出なかった。
81
お気に入りに追加
1,474
あなたにおすすめの小説
白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる