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「うわーっ!その時計新作じゃん。それにブランドとコラボバージョン。」
「ふふ。そうなんだ。」
「良いなあ。もちろん国明さんだろ?」
「うん。」
教室の真ん中で楽しそうに会話しているクラスメイトたち。
一番端に座っている律と楓にもその会話はよく聞こえてきた。
「真那斗だってリュックとスニーカー買ってもらったんだろ?それ、すごいかわいい。」
「ふふふ。ありがと。誕生日でもないのに貰えないって言ったんだけどね。嶺二さんがどうしてもって。」
みんなで私物を自慢し褒め合っている。
律は古びたベルトの時計が巻かれた腕をそっと机の下に隠した。
「ねぇ、律君、この間誕生日だったんだろ?何がもらったの?」
会話の真ん中にいたオメガの一人が大きな声で律に話しかけてきた。
金に近い髪と目のかわいらしいオメガだ。
彼は毎週アルファからプレゼントをもらい皆に自慢している。
「あ、え、えっと…。」
律が言葉に詰まるとクラスメイトたちがクスクス笑っている。
皆分かっているのだ。律が何も貰っていないということを。それなのにそのオメガは敢えて大きな声で律に聞いてきた。
「律、行こう。」
律の前に座っていた楓がその腕を取り立ち上がる。
楓はもう一方の手で二人のカバンを持ち、律の腕を引いてオメガたちの間を縫って歩く。
その背中に馬鹿にしたような笑い声や嫌味が聞こえてきた。
『本当に100%なの?』
『見栄張ってるだけでしょ。』
『100%なんてあり得ないよね。』
そんな心無い言葉を背に受けて二人は教室を出た。
「律、泣くなよ。」
「だって…。」
二人は寮に戻り楓の部屋にこもった。
泣き虫の律を楓が慰める。
二人は赤ちゃんの頃から一緒だ。幼なじみというと聞こえが良いが、二人は田舎の養護施設で育ったのだ。律は生まれてすぐ、楓は生後四ヶ月で親に捨てられその施設に引き取られた。
歳が同じな上、気も合ったので二人は兄弟のように過ごしてきた。
泣き虫で気が弱い律とそんな律を弟のように可愛がる優しい楓。
そんな二人に転機が訪れたのは今から五年前。義務で行うバース検査だった。
二人の結果はオメガだったのだ。養護施設でもオメガが出たのは初めてで、職員が驚いていたのを覚えている。
その結果をもって、二人はすぐにこの学園に引き取られた。
オメガ。
バースの最下層と言われたのはずっと昔のことだ。近年バース研究が進み、オメガの希少性が明らかになった。我が物顔で君臨するアルファだが、アルファ性だけの遺伝子では強いアルファが産まれない。それどころかアルファ自体が生まれづらくなっていた。様々な研究の結果、強いアルファ、所謂上位アルファを産むにはオメガの遺伝子が不可欠だということが分かったのだ。しかもオメガなら誰でも良い訳ではない。相性の良いオメガとアルファには上位アルファが生まれる確率が高いということが分かったのだ。
しかし人類がそのことに気がついた時にはオメガ自体の数も減り、オメガが希少な人種となってしまっていた。
そこで国がオメガを守り、出来るだけ相性の良いアルファと出合わせる政策を打ち出したのだ。
バースは十歳くらいで確定診断される。全国民にバース検査を義務付け、オメガは国で保護することになった。
保護されたオメガは親元を離れて国立の全寮制の学園に入学する。学費、寮費はもちろん、生活費も国から支給されるのだ。
そして中学に上がると血液データを日本中のアルファと交叉試験を行い、一番相性の良いアルファとマッチングさせられる。
結果はオメガ本人にはもちろん、相手のアルファにも通知されるのだ。
相性の良さはパーセンテージで表示され、80%以上で好相性、85%以上で最高の相性、90%以上は所謂『運命』と言われている。
そして驚くべきことに律と楓は相手のアルファと100%の相性だという結果が出たのだ。
この結果は学園でも稀に見る結果で、学園のスタッフたちも大騒ぎしたほどだった。
「本当に100%の相手がいるかな…。」
涙で顔をぐしゃぐしゃにした律がポツリと呟く。
隣に座った楓が大きくため息をついた。
「それはもう言わない約束でしょ?何度も調べてもらったし相手は居るって言われたじゃん。」
「そうだけど…じゃあ何で。」
何でと言われて楓も黙ってしまう。
相性100%の相手。
中学一年の頃、その通知をもらい二人で喜んだ。
家族には捨てられたけど、そのアルファと幸せな家族を作れるかもしれない。
しかし、その通知を受け取り四年経った今も相手からは何も音沙汰がない。
クラスメイトたちは皆、自分のアルファからアプローチを受けて楽しく過ごしているというのに。
まるで何もなかったかのように二人のアルファたちは律と楓の存在を無視していた。
「何か理由があるんだよ。忙しいとか…。」
自分に言い聞かせるように楓が言う。
二人はそんなアルファたちに一抹の不安を感じていた。国は相性の良いアルファをマッチングはしてくれるが、番いになったり結婚したりする義務はない。あくまでマッチングするだけだ。
100%のアルファにはすでに相手がいるのかもしれない。
世の中にはアルファとオメガのカップルだけではない。アルファとアルファ、アルファとベータなど様々だ。ただ、やはりアルファとオメガは引き寄せられる。ましてや相性が良いアルファとオメガなら尚更だ。引き寄せられ離れられなくなる。
現に学園のオメガたちも皆そうだ。マッチングしたアルファと仲良くやっている。どちらかというとアルファの方のメロメロだ。
高価なプレゼントを贈り、オメガの気を引こうと必死だ。
律と楓が学園のスタッフに違うアルファとマッチング出来るか相談するがもう少し待つように言われた。
学園側も滅多にない100%の結果に期待している。
ごく稀にアルファ側が拒否する場合もある。しかしそれは学園の歴史の中でも数人だけだ。そのアルファには決めた相手がいてオメガと番いになることを辞退したのだ。ちなみにそのカップルたちの相性は80%台だった。
相手が辞退すれば、次に相性が良いアルファとマッチングされる。律と楓もそうしてもらおうと学園側に頼んでみたのだった。
「ふふ。そうなんだ。」
「良いなあ。もちろん国明さんだろ?」
「うん。」
教室の真ん中で楽しそうに会話しているクラスメイトたち。
一番端に座っている律と楓にもその会話はよく聞こえてきた。
「真那斗だってリュックとスニーカー買ってもらったんだろ?それ、すごいかわいい。」
「ふふふ。ありがと。誕生日でもないのに貰えないって言ったんだけどね。嶺二さんがどうしてもって。」
みんなで私物を自慢し褒め合っている。
律は古びたベルトの時計が巻かれた腕をそっと机の下に隠した。
「ねぇ、律君、この間誕生日だったんだろ?何がもらったの?」
会話の真ん中にいたオメガの一人が大きな声で律に話しかけてきた。
金に近い髪と目のかわいらしいオメガだ。
彼は毎週アルファからプレゼントをもらい皆に自慢している。
「あ、え、えっと…。」
律が言葉に詰まるとクラスメイトたちがクスクス笑っている。
皆分かっているのだ。律が何も貰っていないということを。それなのにそのオメガは敢えて大きな声で律に聞いてきた。
「律、行こう。」
律の前に座っていた楓がその腕を取り立ち上がる。
楓はもう一方の手で二人のカバンを持ち、律の腕を引いてオメガたちの間を縫って歩く。
その背中に馬鹿にしたような笑い声や嫌味が聞こえてきた。
『本当に100%なの?』
『見栄張ってるだけでしょ。』
『100%なんてあり得ないよね。』
そんな心無い言葉を背に受けて二人は教室を出た。
「律、泣くなよ。」
「だって…。」
二人は寮に戻り楓の部屋にこもった。
泣き虫の律を楓が慰める。
二人は赤ちゃんの頃から一緒だ。幼なじみというと聞こえが良いが、二人は田舎の養護施設で育ったのだ。律は生まれてすぐ、楓は生後四ヶ月で親に捨てられその施設に引き取られた。
歳が同じな上、気も合ったので二人は兄弟のように過ごしてきた。
泣き虫で気が弱い律とそんな律を弟のように可愛がる優しい楓。
そんな二人に転機が訪れたのは今から五年前。義務で行うバース検査だった。
二人の結果はオメガだったのだ。養護施設でもオメガが出たのは初めてで、職員が驚いていたのを覚えている。
その結果をもって、二人はすぐにこの学園に引き取られた。
オメガ。
バースの最下層と言われたのはずっと昔のことだ。近年バース研究が進み、オメガの希少性が明らかになった。我が物顔で君臨するアルファだが、アルファ性だけの遺伝子では強いアルファが産まれない。それどころかアルファ自体が生まれづらくなっていた。様々な研究の結果、強いアルファ、所謂上位アルファを産むにはオメガの遺伝子が不可欠だということが分かったのだ。しかもオメガなら誰でも良い訳ではない。相性の良いオメガとアルファには上位アルファが生まれる確率が高いということが分かったのだ。
しかし人類がそのことに気がついた時にはオメガ自体の数も減り、オメガが希少な人種となってしまっていた。
そこで国がオメガを守り、出来るだけ相性の良いアルファと出合わせる政策を打ち出したのだ。
バースは十歳くらいで確定診断される。全国民にバース検査を義務付け、オメガは国で保護することになった。
保護されたオメガは親元を離れて国立の全寮制の学園に入学する。学費、寮費はもちろん、生活費も国から支給されるのだ。
そして中学に上がると血液データを日本中のアルファと交叉試験を行い、一番相性の良いアルファとマッチングさせられる。
結果はオメガ本人にはもちろん、相手のアルファにも通知されるのだ。
相性の良さはパーセンテージで表示され、80%以上で好相性、85%以上で最高の相性、90%以上は所謂『運命』と言われている。
そして驚くべきことに律と楓は相手のアルファと100%の相性だという結果が出たのだ。
この結果は学園でも稀に見る結果で、学園のスタッフたちも大騒ぎしたほどだった。
「本当に100%の相手がいるかな…。」
涙で顔をぐしゃぐしゃにした律がポツリと呟く。
隣に座った楓が大きくため息をついた。
「それはもう言わない約束でしょ?何度も調べてもらったし相手は居るって言われたじゃん。」
「そうだけど…じゃあ何で。」
何でと言われて楓も黙ってしまう。
相性100%の相手。
中学一年の頃、その通知をもらい二人で喜んだ。
家族には捨てられたけど、そのアルファと幸せな家族を作れるかもしれない。
しかし、その通知を受け取り四年経った今も相手からは何も音沙汰がない。
クラスメイトたちは皆、自分のアルファからアプローチを受けて楽しく過ごしているというのに。
まるで何もなかったかのように二人のアルファたちは律と楓の存在を無視していた。
「何か理由があるんだよ。忙しいとか…。」
自分に言い聞かせるように楓が言う。
二人はそんなアルファたちに一抹の不安を感じていた。国は相性の良いアルファをマッチングはしてくれるが、番いになったり結婚したりする義務はない。あくまでマッチングするだけだ。
100%のアルファにはすでに相手がいるのかもしれない。
世の中にはアルファとオメガのカップルだけではない。アルファとアルファ、アルファとベータなど様々だ。ただ、やはりアルファとオメガは引き寄せられる。ましてや相性が良いアルファとオメガなら尚更だ。引き寄せられ離れられなくなる。
現に学園のオメガたちも皆そうだ。マッチングしたアルファと仲良くやっている。どちらかというとアルファの方のメロメロだ。
高価なプレゼントを贈り、オメガの気を引こうと必死だ。
律と楓が学園のスタッフに違うアルファとマッチング出来るか相談するがもう少し待つように言われた。
学園側も滅多にない100%の結果に期待している。
ごく稀にアルファ側が拒否する場合もある。しかしそれは学園の歴史の中でも数人だけだ。そのアルファには決めた相手がいてオメガと番いになることを辞退したのだ。ちなみにそのカップルたちの相性は80%台だった。
相手が辞退すれば、次に相性が良いアルファとマッチングされる。律と楓もそうしてもらおうと学園側に頼んでみたのだった。
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