善夜家のオメガ

みこと

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葉月

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葉月はどこかのホテルの一室に連れてこられ寝かされた。葉月の泊まっているホテルの数倍豪華な部屋だ。護衛の数も増えている。

「アーシム様。」

護衛の一人がスマホで通話しながらアーシムに近づき耳打ちする。アーシムは小さく頷いてサイードに何が言った。

「葉月、ちょっと出るから。すぐ戻る。」

そう言ってサイードとアーシムは葉月の部屋を出て行った。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「やはり叔父からの刺客か…。」

サイードとアーシムは葉月が居る部屋の隣りにもう一室部屋をとってある。
護衛やサイードの側近たちが待機するための部屋だ。

「ええ。どうしてあの場所が分かったのか不明ですが、葉月様を早く日本に返した方がよろしいかと思います。」

「え?何故だ。」

「クタイバ様たちは、葉月様が殿下のご寵愛を受けていらっしゃるので襲ったのだと思われます。」

「ご、ご寵愛⁉︎」

サイードが声を上げて驚く。

「ええ。なのでサイード様の弱みを…」

「ちょっと待て。ご寵愛なわけないだろ!世話を焼くのは命の恩人だからであって…。」

顔を真っ赤にして動揺し、モゴモゴと口籠る。
アーシムは憐れんだような目でサイードを見た。

「ほ、本当だ!第一、葉月はオメガだ。私は恩を返しているだけだ!」

「…そうですか。それなら尚のこと葉月様を国へお返しになっては?」

「そうだな。いや、しかし、まだケガは治ってないし、礼もまだだし…。でもまた襲われたりでもしたら…。」

一人でおろおろしているサイードにアーシムは呆れている。しかしすぐに気を取り直し、サイードを諭す。

「とにかく一度日本に葉月様を返しましょう。もともと明後日お帰りの予定なんですよね?連絡先をお伺いして自国の問題が片付いたら改めてお礼をする、でどうでしょう。殿下のご寵愛を受けていないということを知らしめないと葉月様が危険です。」

「…そうか。そうだな。」

サイードはがっくりと肩を落としアーシムの提案に頷いた。
その後も他の側近たちからの報告を受けたり、指示を出したりと忙しく働いた。
数時間ののち、サイードとアーシムが葉月の部屋に戻ると葉月はいなくなっていた。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



「それにしてもすごい部屋だな。」

ベッドに入ったまま周りを見渡す。国賓かそれクラスの人間にしか泊まれない部屋だろう。

「今日一日潰しちゃった。」

明後日には日本に戻らなくてならないので貴重な時間だ。痛み止めのおかげで肩もそれほど痛くない。出来ることなら明日は観光の続きをしたかった。
葉月がスマホで観光場所を検索していると部屋のドアが開いた。
先ほど襲われたばかりなので身構える。しかし現れた人物はコリンだった。

「襲われたって本当?」

心配そうに葉月に話しかける。さっきの言い方は酷かったが、もしかしたら悪い人ではないのかもしれない。

「うん。だからここに避難してきたんだ。」

「そう。サイードは無事?」

「隣に居ると思う。アーシムさんと話をしてる。」

「サイードが狙われてることは知ってるよね。アーシムたちが守ってるけど、君のことを囮に使ったり取引の材料にしたいのかもしれない。」

「え?僕を?」

コリンは頷いて真剣な顔をした。

「でも僕は…サイードとは何の関係もないし…。」

「でも敵はそう思わないかも。現にこの部屋は特別な部屋だよ。誰でも泊まれるわけじゃない。サイードがここを手配したことを知られたら、やはり君はサイードの愛人が何かだって思われても仕方ないよ。だから君を使って何かしようと企んでいる。君がサイードの近くにいることで、サイードが危険になってしまう。」

「そんな…。」

「それに君だって危険だ。だから僕に提案があるんだ。」

思案する葉月にコリンが近づいて耳打ちする。

「え?今から?」

「うん。僕は君のことも心配なんだ。飛行機は手配してあるし、君の荷物もすぐに届けさせるよ。」

コリンの提案とは、葉月が今すぐ日本に帰るということだった。
確かに今の状況は安全とは言えない。何より葉月がここにいる事でサイードに迷惑をかけてしまうかもしれない。
サイードは命の恩人だがら親切にしてくれているだけだ。
葉月がいない方が彼も余計な心配をしなくて済む。
このまま大人しく日本に帰った方が良いのかも。
そうすれば二度と会うこともないだろう。
何故か葉月の胸がチクリと痛んだ。それを掻き消すようにぐっと胸を抑える。
おそらくサイードはかなり身分の高い人間だ。それにオメガが嫌い。
葉月がここに残る理由もない。

「分かりました。すぐに日本に帰ります。」

葉月の返事にコリンが大きく頷いた。




それからはあっという間にだった。
コリンの手配した護衛とともに空港に向かうとすでに葉月の荷物が届いていた。念のため姉の美月にメールを送り日本行きの便に搭乗する。
サイードに挨拶もしないて来てしまったことを少し後悔したが、コリンのいう事を大人しく聞いた。サイードは今、重要な案件の対応中で忙しいと言われたのだ。
ホテルの部屋を出た葉月は驚いた。
それは葉月の居た部屋だけでなくホテル全体に護衛やらサイードの関係者が居て物々しい雰囲気だった。葉月が思っているよりもずっと深刻な状況なのかもしれない。そんな中で葉月の存在はサイードの足手纏いになりかねない。
これで良かったのだ。
そう言い聞かせて葉月は日本に戻った。
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