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葉月
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ケガはそれほど大したことはなかったが、念のため病院に一泊することになった。葉月の病室の前にはサイードが手配した護衛が二人、それにサイード自身が葉月の世話を勝手出た。
「本当に大丈夫だから。」
「いや、ダメだ。俺のせいでこんなことになってしまって。大人しくホテルに居ればよかったのに…。」
サイードがそう言って項垂れる。
葉月はサイードの気がすむようにさせることにした。
…したはずだが。
サイードは葉月にべったりくっついて世話をしようとする。
葉月が何度も断るが心配だからと言ってやめない。
そんなサイードをアーシムも呆れて見ていた。
まめまめしく世話を焼いてくるサイードに葉月は困っていた。とにかくフェロモンをすごく感じる。きっと奈緒にもらった薬が切れてきたのだろう。それを飲みたいが、ホテルに置いてきてしまった。
「葉月、果物食べるか?」
「う、うん。」
「どれがいい?俺が剥いてやろう。」
大きなバスケットに入った果物を見せてくれる。メロンにリンゴやバナナ、キウイフルーツといった見慣れた物以外にも、見たこともない果物がぎっしり詰まっていた。
「え、いいよ。自分でするから。」
「何言ってるんだ。肩を怪我してるんだぞ。遠慮するな。メロンはどうだ?」
サイードは嬉々としてメロンを切っている。大きな手はとても器用であっという間に葉月が食べやすいようにカットして皿に盛られた。
「ほら。」
「ありがと。」
小さな事でフォークに刺して葉月の口元にまで運んでくれる。それを葉月は擽ったい気持ちで食べた。
そんな二人を部屋の隅でコリンが見ていた。その顔は無表情で何を考えているのか分からない。
「殿下。」
護衛の一人がサイードに声をかけた。サイードは殿下と呼ばれている。葉月には恐ろしくてその詳細を聞くことが出来ないがどこかの国の王族なのだろう。
そう言われてみると品のある顔立ち。高価な服装は一般人には見えない。何が伝手があるのだろう、この病院の手配もあっという間に行なってしまった。
護衛がサイードの耳元で何か話すとサイードとアーシムは顔を見合わせて部屋を出て行った。
二人が居なくなるとコリンと二人きりだ。
何だか気まずくなった葉月は寝ようと思いベッドに入ろうとする。
「ねぇ。」
葉月が布団を被るより先にコリンが話しかけてきた。
無視するわけにもいかず葉月は座り直した。
「はい。」
「君、オメガだよね?」
近づいてきたコリンがスンと匂いを嗅ぐ。
その声は冷たかった。
それもそのはず。自分の恋人が、目の前で別の人間に甲斐甲斐しく世話を焼いているのだ。おもしろくないだろう。葉月も申し訳ない気持ちだが、サイードはやめてくれない。
「そうですけど…。」
「サイードがオメガにねぇ。君、サイードの国はオメガが忌人と言われてるんだよ。不吉な人種って。」
葉月のことを良く思っていないのは理解できる。しかしオメガは関係ないだろう。
オメガ差別したコリンの言葉にムッとした。
「そうですか。その国は遅れてるんですね。今やバースは平等の時代ですよ。僕の知ってるアルファたちはみんなオメガにメロメロで、尻に敷かれてますけどね。」
「ふん。平等なんて表面上だけさ。バースの頂点はアルファだよ。」
「そう思うならどうぞご自由に。あ、それと僕とサイードは何でもありませんから。ただ助けただけです。嫉妬は見苦しいですよ。じゃ、疲れたので寝ます。おやすみなさい。」
葉月は無理やり会話を終わらせてベッドに潜った。
コリンの言っていることはあながち嘘ではないだろう。
最初に会ったときのサイードの態度を思い出せば分かる。バースの認識は国によって大きく異なる。
いま優しく接してくれるのは命の恩人だからだ。
コリンはアラビア語で何が言っていたが、葉月には分からないので無視して目を閉じた。
ドンっ!バタン!!
「はっ、何?」
いつの間にかうとうとと眠っていた葉月だか、大きな物音で目を覚ました。
それと同時に葉月の病室に男が三人入ってくる。
「何?誰?」
男たちはおそらくアラビア語で何か言った後、葉月に襲いかかってきた。
葉月もベッドから飛び降りて応戦する。近くにあった天敵台を振り回して、ナースコールを押し大声でで叫ぶ。
「誰かーー!!助けてーー!!」
男たちが何が言ったあと、その中の一人が服の中から黒い物を取り出した。
「うわっ!マジかよ!ヤバい…」
小型の銃のようだ。
葉月に向かって何か言っているが分からない。そのまま葉月が固まっていると部屋のドアが勢いよく開いた。
アーシムとサイードだ。
「葉月っ!」
サイードが真っ青な顔で叫ぶ。その顔を見て葉月の力が抜けた。
二人はあっという間に三人を片付けた。アーシムが誰かを呼ぶと屈強な男たちが現れてその三人を連れて行った。
「葉月っ、大丈夫か⁉︎」
腰を抜かしている葉月をサイードが起こす、キツく抱きしめる。
「え?あ、うん。びっくりした…。」
「すまない。戻ったらドアの外の護衛が倒れていて…。ケガは?何をされた?クソッ!誰がここを…。アーシム、すぐに調べろ。」
「はい。ここは危険です。すぐに移動しましょう。」
「僕は平気。殺されるかと思ったけど…。」
サイードは苦しそうに顔を歪める。そして葉月を抱き上げてアーシムとともに部屋を出た。
「本当に大丈夫だから。」
「いや、ダメだ。俺のせいでこんなことになってしまって。大人しくホテルに居ればよかったのに…。」
サイードがそう言って項垂れる。
葉月はサイードの気がすむようにさせることにした。
…したはずだが。
サイードは葉月にべったりくっついて世話をしようとする。
葉月が何度も断るが心配だからと言ってやめない。
そんなサイードをアーシムも呆れて見ていた。
まめまめしく世話を焼いてくるサイードに葉月は困っていた。とにかくフェロモンをすごく感じる。きっと奈緒にもらった薬が切れてきたのだろう。それを飲みたいが、ホテルに置いてきてしまった。
「葉月、果物食べるか?」
「う、うん。」
「どれがいい?俺が剥いてやろう。」
大きなバスケットに入った果物を見せてくれる。メロンにリンゴやバナナ、キウイフルーツといった見慣れた物以外にも、見たこともない果物がぎっしり詰まっていた。
「え、いいよ。自分でするから。」
「何言ってるんだ。肩を怪我してるんだぞ。遠慮するな。メロンはどうだ?」
サイードは嬉々としてメロンを切っている。大きな手はとても器用であっという間に葉月が食べやすいようにカットして皿に盛られた。
「ほら。」
「ありがと。」
小さな事でフォークに刺して葉月の口元にまで運んでくれる。それを葉月は擽ったい気持ちで食べた。
そんな二人を部屋の隅でコリンが見ていた。その顔は無表情で何を考えているのか分からない。
「殿下。」
護衛の一人がサイードに声をかけた。サイードは殿下と呼ばれている。葉月には恐ろしくてその詳細を聞くことが出来ないがどこかの国の王族なのだろう。
そう言われてみると品のある顔立ち。高価な服装は一般人には見えない。何が伝手があるのだろう、この病院の手配もあっという間に行なってしまった。
護衛がサイードの耳元で何か話すとサイードとアーシムは顔を見合わせて部屋を出て行った。
二人が居なくなるとコリンと二人きりだ。
何だか気まずくなった葉月は寝ようと思いベッドに入ろうとする。
「ねぇ。」
葉月が布団を被るより先にコリンが話しかけてきた。
無視するわけにもいかず葉月は座り直した。
「はい。」
「君、オメガだよね?」
近づいてきたコリンがスンと匂いを嗅ぐ。
その声は冷たかった。
それもそのはず。自分の恋人が、目の前で別の人間に甲斐甲斐しく世話を焼いているのだ。おもしろくないだろう。葉月も申し訳ない気持ちだが、サイードはやめてくれない。
「そうですけど…。」
「サイードがオメガにねぇ。君、サイードの国はオメガが忌人と言われてるんだよ。不吉な人種って。」
葉月のことを良く思っていないのは理解できる。しかしオメガは関係ないだろう。
オメガ差別したコリンの言葉にムッとした。
「そうですか。その国は遅れてるんですね。今やバースは平等の時代ですよ。僕の知ってるアルファたちはみんなオメガにメロメロで、尻に敷かれてますけどね。」
「ふん。平等なんて表面上だけさ。バースの頂点はアルファだよ。」
「そう思うならどうぞご自由に。あ、それと僕とサイードは何でもありませんから。ただ助けただけです。嫉妬は見苦しいですよ。じゃ、疲れたので寝ます。おやすみなさい。」
葉月は無理やり会話を終わらせてベッドに潜った。
コリンの言っていることはあながち嘘ではないだろう。
最初に会ったときのサイードの態度を思い出せば分かる。バースの認識は国によって大きく異なる。
いま優しく接してくれるのは命の恩人だからだ。
コリンはアラビア語で何が言っていたが、葉月には分からないので無視して目を閉じた。
ドンっ!バタン!!
「はっ、何?」
いつの間にかうとうとと眠っていた葉月だか、大きな物音で目を覚ました。
それと同時に葉月の病室に男が三人入ってくる。
「何?誰?」
男たちはおそらくアラビア語で何か言った後、葉月に襲いかかってきた。
葉月もベッドから飛び降りて応戦する。近くにあった天敵台を振り回して、ナースコールを押し大声でで叫ぶ。
「誰かーー!!助けてーー!!」
男たちが何が言ったあと、その中の一人が服の中から黒い物を取り出した。
「うわっ!マジかよ!ヤバい…」
小型の銃のようだ。
葉月に向かって何か言っているが分からない。そのまま葉月が固まっていると部屋のドアが勢いよく開いた。
アーシムとサイードだ。
「葉月っ!」
サイードが真っ青な顔で叫ぶ。その顔を見て葉月の力が抜けた。
二人はあっという間に三人を片付けた。アーシムが誰かを呼ぶと屈強な男たちが現れてその三人を連れて行った。
「葉月っ、大丈夫か⁉︎」
腰を抜かしている葉月をサイードが起こす、キツく抱きしめる。
「え?あ、うん。びっくりした…。」
「すまない。戻ったらドアの外の護衛が倒れていて…。ケガは?何をされた?クソッ!誰がここを…。アーシム、すぐに調べろ。」
「はい。ここは危険です。すぐに移動しましょう。」
「僕は平気。殺されるかと思ったけど…。」
サイードは苦しそうに顔を歪める。そして葉月を抱き上げてアーシムとともに部屋を出た。
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