善夜家のオメガ

みこと

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番外編

佑月&涼

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「えっと、君は…?」

涼に良く似た面立ちの中年の男が困惑した顔で佑月を見ている。
息子の涼が番いを連れて実家に帰って来ることになっていた。もちろんそれは善夜のオメガなのだが…。
涼が希望したオメガは番いを持ってしまったので長男を、と善夜の女主人に言われた。
善夜は長男がその血を色濃く受け継ぐ。必ず上位アルファを産むと言われて涼と結婚させることにしたのだ。
しかし見合いの席に居た善夜の長男は冴えないオメガだった。貧相で何の魅力もフェロモンもない。
晃も見たことがある善夜の双子はとても魅力的だった。むしろ自分が番いにしたいくらいのオメガだったのに。
そして今、晃の目の前に座るオメガはまるで宝石のようにキラキラと輝き、優しく甘いフェロモンを纏っている。晃には全く見覚えがないオメガだ。

「親父、佑月だよ。善夜佑月。もう天沢佑月だけどな。」

デレっとした顔で佑月に笑いかける。

「あ、あの、お久しぶりです。佑月です。」

緊張して顔を真っ赤にした佑月が小さく頭を下げると涼の父の晃が驚いて目を丸くした。

「え?君が?善夜さんの?」

「はい。お見合いの席ぶりで…。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。」

今度は深々と頭を下げると涼がそれをやめさせた。

「佑月のせいじゃないだろ?俺が番いになるまで誰にも会わせたくないって言ったんだから。」

「うん。でも…。」

「こんなにかわいい佑月を見せたら皆んなに狙われるからな。」

「そんなことないよ…。」

「ある。だってこんなにかわいくて、良い匂いで…。」

涼がうっとりと佑月の頬を撫でて抱きしめる。
晃は息子の変わりようと佑月のあまりの違いに唖然と見つめていた。

「ダメだよ、涼君。お義父様が…。」

「あ、そうだった。」

思わず暴走しそうになった涼はゴホンと咳払いをして晃の方に向き直る。

「電話で言った通り、佑月と番いになって籍を入れたんだ。」

「え?あ、ああ。君が佑月君?あの時の?」

晃はまだ信じられない様子だ。

「そうです。あの、何か…?」

「親父、あんまりジロジロ見るなよ。」

「あ、ああ、すまない。佑月君は涼と同じ大学だったね?」

ハッとしたように佑月に話しかける。
本当に善夜佑月だと理解した晃は佑月に興味津々のようだ。

「はい。」

「学部は?何を専攻しているのかな?」

晃はにこにこしながら身を乗り出して佑月を見ている。

「工学部でシステム工学を。」

「そうか。すごいね~。かわいいだけじゃなくて頭も良いんだ。今日はゆっくりしていけるのかな?食事でもどう?あ、外に食べに行こう。美味しいイタリアンを知ってるんだ。そこはデザートも美味しくて…」

「親父っ!」

「なんだ。今、佑月君と話をしているんだ。」

「今日は報告に来ただけだ。俺たちは今から用事があるんだよ。それにイタリアンは一昨日食べたし。な?佑月?」

「え、えっと…うん。」

佑月は涼と晃に板挟みになりアワアワしている。
そんな佑月を涼が横から抱きしめた。

「佑月は俺の番いだ。勝手に誘うなよ。」

「べ、別に誘ってなんか…。義理の父親としてだな、その…」

「全く油断も隙もない。やっぱり番いになってから連れてきて正解だったな。」

イラついた様子の涼は佑月を抱きしめたまま、もう帰ると言って立ち上がる。
するとリビングのドアが開いてどっと人が押し寄せてきた。

「うわーーっ!かわいいっ!」

「さすが善夜のオメガ。」

「マジかっ!かわいすぎるだろ!」

涼の親戚たちだ。
従兄弟は全員ベータだが、伯父や再従兄弟にはアルファが何人かいる。
皆、佑月の噂を聞きつけて押し寄せてきたのだ。

「涼、すごくかわいいじゃないか。兄さんの話と全然違うぞ。」

伯父の英之だ。アルファで番いを探しているらしい。
目を輝かせて佑月を見ている。

「はぁ…これが善夜のオメガの長男か。ヤバいな。」

「俺にも紹介してくれっ!」

皆佑月を見てうっとりし、口々に好き勝手なことを言っている。

「おまえら…。」

涼は怒りで拳を握り締めプルプルと震えている。

「りょ、涼君。」

佑月は怖がって涼の後ろに隠れてしまった。そんな佑月を涼は抱きしめ、皆の方をチラリと見る。
そして佑月にキスをした。左腕でしっかりと腰を支え右手で佑月の頭を撫でながら舌を絡ませてキスをする。
俺のオメガだと見せつけるようなキスだ。

「ん、うん、ん…。」

唖然とする親戚たちを尻目にたっぷりと唇と舌を味わい離す。最後にもう一度佑月の濡れた唇を舐めて、どうだと言わんばかりに皆を見た。
しかし怯むかと思っていた親戚たちはさらに目をハートにして佑月を見ている。
涼のキスで佑月から甘いフェロモンが溢れ、その顔はとろんと色っぽく蕩けている。

「しまった…。」

余計に火に油を注いだ型になってしまい、涼は佑月を抱き上げ逃げるように家を飛び出した。



「佑月、大丈夫か?」

「う、うん。」

「全く油断も隙もないな。俺の番いだっていうのに…。佑月は絶対に一人で俺の実家に行くなよ。」

「うん。」

今日はデートの予定だ。二人で買い物に出かけるはずだったが、涼の父ややばい親戚たちから逃げるように家に帰って来てしまった。

「佑月は俺のものなのに。な?」

優しく抱き寄せてうなじを撫でる。白く華奢なそこには涼の噛み跡がしっかり付いていた。

「うん。涼君だって僕のものだもん。」

そう言って佑月は涼にぎゅっと抱きつく。
その小さな身体からは甘く官能的なフェロモンが広がった。

「…ゆ、ゆじゅき~。そんなかわいいこと言うなよ~。出掛けられなくなっちゃうだろ?」

「え?」

うっとりと佑月を見つめて軽々と抱き上げた。

「涼君?」

「佑月のせいだぞ。かわいい過ぎる佑月にお仕置きしないとな。」

「え?え?お出掛けは?」

「んー?それはまた今度。」

寝室のドアを開けベッドに佑月を下ろす。目を瞬かせる佑月の上に覆い被さり。ちゅうっと音を立てて唇を吸った。

「はぁ、甘い…。このフェロモンのせいで…。佑月、今日はお仕置きのマーキングだ。」

「ええっ⁉︎」

恍惚とした表情の涼は舌舐めずりをしながら驚いて固まる佑月の服を剥ぎ取った。
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