善夜家のオメガ

みこと

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詩月

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「詩月、大丈夫か?」

「うん。」

電車で長野駅に向かい、そこからローカル線に乗り換える。
最寄りの駅で降りた二人は目的地のアトリエに向かって歩いている。
だが、最寄り駅とは名ばかりでアトリエまではかなりの距離がある。駅も無人駅でもちろん客待ちタクシーもないしバスも何も通って居ない。二人は駅から歩いて目的地へ向かっていた。
健人は大きなリュックとキャリーを引き、反対の手で詩月の手をしっかり握っている。二人の足でも一時間近くかかる。日差しがキツく、何度か休憩しながら進む。

車も何も通らない。しかしそれはむしろ好都合だ。
こんなところを歩いている二人は明らかに怪しく見える。

「もう少しだからな。」

「うん…。」

休み休み歩き、アトリエに着いたのは夕方近くになっていた。
古い建物だが、健人が前もって準備をしていてくれたおかげで中はキレイになっている。

「詩月、汗だくだから風呂に入ろう。天然の温泉だぞ。」

「ありがと。」

風呂は岩風呂をイメージして作られており、薄い乳白色の湯がこんこんと湧き出てている。
二人は服を脱いで湯船に浸かった。

「あー、気持ちいい。」

「本当だな。詩月、疲れただろ?風呂から出たらマッサージしてやるからな。」

「僕よりも健人の方疲れただろ?荷物全部持ってくれたし。」

「俺は大丈夫だ。詩月と番いになれるって考えるだけで嬉しくて疲れも吹っ飛ぶよ。」

二人は仲良く洗いっこをして出た。
山の夜は夏場でも肌寒い。
二人で毛布にくるまりながら持ってきた物を食べた。

「葉月、大丈夫かな。」

「ん?そうだな。でもあいつなら大丈夫だよ。」

「うん…。」

心配そうな詩月を優しく抱きしめて背中を撫でる。
あの真知子を何日も騙し通せるとは思えない。
番いになる前にバレれば何もかもおしまいだ。
健人は詩月が他のアルファと番いになるくらいなら一緒に死んだ方がましだと言っている。
詩月も同じ気持ちだ。

「ほら、マッサージするからここに寝て。」

言われるがままにベッドに横になる。その詩月の身体を健人が優しく撫でた。

「ふふ、擽ったい。」

「すべすべで気持ちいい。」

「温泉に入ったからじゃない?」

「そんなことない。いっつもすべすべだ。」

いつの間にか健人も裸になっている。するりと詩月の服を脱がせて毛布に潜りながら覆い被さってきた。

「あーすべすべ。気持ちいい。堪んないな。」

「あ、あ、健人…マッサージは?」

「んー、後で。」

健人が詩月の身体を撫で回しながらキスをする。時々甘噛みしたり吸い付いて後を残す。

「匂いが濃い。俺、おかしくなりそうだ。」

「あぁん、健人っ!」

詩月の性器に吸い付いて恍惚とした表情を浮かべる。
何度も吸い出し、飲み込み、それだけでは足りず尻の穴も舐めて舌を入れた。

「はぁ、あぁ、」

「詩月っ、詩月っ!」

歩き疲れて居たはずの二人はそれも忘れて一晩中愛撫し合った。




窓から差し込む陽射しが眩しい。昨夜は夜遅くまで抱き合っていたため、すっかり寝坊したようだ。

「詩月、おはよう。」

「おはよう。」

「身体は平気か?」

「ん。」

健人が起き上がって飲み物を取ってくれる。時計を見ると十時を回っていた。
テレビもなく、スマホも通じない。
鳥の囀りや、風の音しか聞こえない。本当に二人きりだ。

「もうこんな時間。でもなんか良いな。この世界に俺と詩月だけみたいだ。」

「ふふ。そうだね。」

「風呂入るか?準備してくるな。」

そう言って健人が部屋を出て行った。もう陽は高いが窓を開けると涼しい風が入って来る。詩月は夏が苦手なので夏場でもこんなに涼しいなら毎年ここに避暑に訪れても良いかもしれない。

「あ…。」

涼しい風に当たっているとゾクリと寒気がした。
この感じ…。
あれだ…。

「やだ…。」

詩月が身体を丸めて座り込む。またあの劣情に襲われそうになる恐怖を感じた時だ。
勢いよくドアが開き健人が入って来た。

「詩月っ!」

「健人…助けて…」

健人の顔を見て力が抜ける。力強く抱きしめられ安堵の息を吐いた。

「詩月、大丈夫だからな?詩月、詩月…。」

詩月のフェロモンに朦朧としながらも優しく抱き上げベッドに下ろす。

「これが発情期か。すごいな…」

「健人、健人。」

「うん。詩月、大好きだ。番いになろうな。」

健人は優しく、激しく詩月の身体を愛撫した。
そして二人が繋がる場所も丁寧に解す。しかしそこはすでに健人を受け入れる準備が出来ていた。

「すごい…トロトロだ。」

「あっ、あぁ、健人っ!」

「ん?気持ちいい?かわいいな。もう我慢できない。」

健人が覆い被さり詩月にキスをする。詩月の両足を開きゆっくり中に入って来た。

「うっ、詩月、気持ち…いい、はぁ、」

「あ、健人、すごい…」

詩月のそこは健人を待って居たかのように奥へ引き摺り込む。

「詩月、詩月っ!」

「健人、噛んでっ!」

「うんっ 」

健人は一度詩月から出てうつ伏せにしまた中に入る。
詩月のフェロモンでくらくらしながらもしっかりとうなじのフェロモンめがけて歯を立てる。

「うっ、くぅ、」

「あぁーーーっ!」

電気が走ったように痺れ、快感が身体を抜けていく。
二人は番いになったのだ。




「詩月、大丈夫か?ほら、水。」

「ん…。あっ、」

目を覚ました詩月が起き上がる。
うなじにチクリと痛みが走った。

「あ、ごめん。痛いよな。俺、思いっきり噛んじゃって…。」

「うん。痛い。」

うなじはガーゼで保護されているので見ることは出来ないが、痛みで番いになったことは分かった。
それに身体も違う。発情しているが全く辛くない。
むしろ幸せだ。最初の発情期は辛く苦しいだけだったのに。
健人に抱きしめられてとても安心している。

「詩月、ありがとな。」

「ううん。僕の方こそ…って何で泣いてるの⁉︎」

「だって…だって…俺、本当に…。」

「もう、健人は泣き虫なんだから。」

誰もいないアトリエで過ごす詩月の発情期。
はれて番いになれた二人だか、幸せな時間は長く続かなかった。
真知子が二人の居場所を突き止め健人の両親と一緒に乗り込んで来たのだ。
健人も詩月も発情を抑える薬を使われて各々の家に戻されてしまった。
しかしもう二人は番いだ。どんなに反対されてもそれを覆す事は出来ない。多少の抵抗はしたが、二人は大人しく家に帰った。
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