善夜家のオメガ

みこと

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詩月

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詩月と健人は真知子が戻るまでたっぷりとイチャイチャした。真知子が帰ってきたので例のスプレーを吹きかけて何気ない顔で出迎える。

「ただいま。詩月、話があるからいらっしゃい。」

帰ってくるなり部屋に来いと言われる。
双子はドキリとしたが、フェロモンは消えているはずだ。
でもバレているかもしれない。
二人はチラリと顔を見合わせて小さく頷いた。バレそうになったら口裏を合わせることを決めている。

「母さん、入ります。」

真知子の部屋に入ると彼女はソファーに座りタブレットを操作している。まだ仕事をしているらしい。

「座って。」

健人の事かと思ってドキドキしていると、真知子はにこりと笑った。

「詩月、あなたお見合いなさい。」

「え?」

予想外の言葉にぽかんとしていると真知子はもう一度言った。

「お見合いよ。あなたを番いにしたいって言われたのよ。」

番い…。
何故?
佑月はまだ相手が決まっていないはずだ。
善夜は長男が嫁がないとその後の兄弟たちは嫁に行けないはずなのに。

「良いお話なのよ。相手はあの天沢さんの息子さんよ。涼さん、だったかしら。前にあなたを見たらしくて、詩月が良いって。さすが私の息子ね。あの天沢の気持ちを動かすなんて…」

真知子がペラペラと何か喋っていたが頭に入ってこなかった。
とにかく善夜では優先されるべきは長男だ。長男の佑月が何も決まっていないのに。
だから詩月も悠長に構えていた。
まさか自分が最初に見合いをすることになるなんて…。
そしてこれは形だけの見合いだ。もう嫁ぐことは決まっているだろう。顔合わせ、と言った方が良い。
詩月に選択権はないのだ。
そしてよりによって相手は天沢涼。
天沢がオメガを欲しがっているという噂は聞いていた。
それに知らないわけがない。涼は佑月の…。

「で、でも、佑月兄さんがまだ…。」

「えぇ。誰も貰い手が居ないのよ。こんなに売りこんでるのに全くあの子は…。でもこんな良いお話、断るわけにもいかないでしょ?あなたたちはとりあえず婚約だけして、佑月には適当な相手を見つけるわ。」

ため息をつきながら嬉しそうだ。佑月に縁談が来ないのが嬉しいのだろう。真知子は佑月の幸せを望んでいない。
貰い手のいない冴えないオメガ。
佑月のことをそう思っていて現に縁談の申し込みがないことを喜んでいる。
なんて母親だろう。
詩月は腹が立って仕方ない。健人と番いになると言ってしまいたい。
しかしそれは得策ではない。ぐっと堪えて下を向いた。

「少し考えさせて下さい…。」

断る選択肢がないことは分かっているが、そう言って部屋を出た。





「え?今なんて?」

詩月はすぐに葉月に報告した。葉月は驚いて目を見開いている。

「天沢涼と番いになれって。」

「ウソ…天沢涼ってあの天沢涼?何で?」

「どっかのパーティで僕を見たらしいよ。」

「マジか。ウチのオメガを欲しがってるのは知ってたけど。」

二人はため息をついた。
天沢がオメガを欲しがっている。それは知っていた。
善夜のしきたりに従って佑月と見合いすると思っていた。
佑月を目一杯かわいくして見合いの席に座らせる…。
そうすればあの天沢涼だってイチコロだ。
見合いをセッティングしたのは真知子なのだから二人の邪魔は出来ない。
佑月を隠し、守ってきた努力がこれで報われる。
そう考えていたのに。
まさか詩月を指名し、それを真知子が了承するとは…。

「天沢涼はアホだろ。」

「それな。」

「健人に何て言おう…。」

「…。」

頭を抱える詩月。健人が知ったら発狂しそうだ。
葉月はぎゅっと目を閉じて何かを考えている。
しばらくそうしているとパッと目を開けて詩月を見た。

「詩月!次の発情期は来月の半ばだよな?」

「え?うん。その予定だけど。」

「よし。こうなったら強行突破だ!僕に考えがある。」

意気込む葉月を詩月はぽかんと眺めた。





「えっ!詩月がお見合い?」

葉月は健人を呼び詩月が見合いをし嫁ぐことを話した。

「嫌だっ!何で?何で詩月が?嫌だよ。俺、俺…」

「落ち着け、健人。詩月だってしたくないんだよっ。」

「嫌だ、詩月っ!詩月っ!俺の詩月だっ!」

健人がパニックになり詩月に抱きつく。もう誰の声も頭に入っていかないようだ。

「落ち着けって言ってるだろっ!」

葉月が近くに置いてあった雑誌を丸めて健人の頭を叩く。バシッと、鈍い音がした。

「あ、痛い、何すんだよっ!」

健人が頭を抱えて葉月を睨む。
詩月が困った顔をして健人の背中を撫でて宥めた。

「落ち着いて聞けって言ってんの。大事な話だ。健人、おまえにも協力してもらう。詩月と一緒になりたいんだろ?」

葉月の真剣な顔に、我に返った健人が大きく頷く。
それを見た葉月が真知子の計画を阻止する方法を話し出した。
詩月には見合いを快諾してもらう。ただしその見合いの直前に健人とと番いになってしまうのだ。
しかも断れない日付ギリギリで番いになる。これが大事だ。真知子は面子を保つため代打を立てるだろう。
葉月に話が回ってこないように葉月自身も見合いをする。しかも帰って来られないような遠い場所で。

「姉さんがロンドンでパーティがあるって言ってた。それはオメガとアルファを会わせる集団見合いみたいなやつ。日本人なんか目じゃないくらいの大富豪や権力者が来る。母さんも喜んで行かせるはずだ。僕はそのパーティに出席する。」

「俺は?俺と詩月は?」

「次の発情期が半月後だ。その時に番いになれ。見合いはその週に設定する。おまえたちが番ってしまったら詩月は行けない。母さんのことだ、きっと佑月に行かせるはず。」

「半月後…。」

「うん。そうだ。」

健人の顔から表情が消えた。ぼんやりとして焦点が合わない。

「健人?大丈夫?」

詩月の声にゆっくりとそちらを見る。

「詩月と番いに…なる?」

「う、うん。」

「半月後に?」

急なことで受け入れられないのかもしれない。
健人も詩月もまだ高校生だ。
この計画は健人の親からも承諾は取らない。それぞれの両親に黙って勝手に番いになるのだ。
何を言われるか…。最悪、勘当されるかもしれない。
それに健人は健人のタイミングがあるはずだ。
学校を卒業して自立してからとか、いろいろ考えているのかもしれない。

「健人、どうした?ダメか?」

葉月が不安そうに健人を見る。
この計画は健人なしでは成し遂げることは出来ないのだ。







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