42 / 110
詩月
13
しおりを挟む
詩月と健人は真知子が戻るまでたっぷりとイチャイチャした。真知子が帰ってきたので例のスプレーを吹きかけて何気ない顔で出迎える。
「ただいま。詩月、話があるからいらっしゃい。」
帰ってくるなり部屋に来いと言われる。
双子はドキリとしたが、フェロモンは消えているはずだ。
でもバレているかもしれない。
二人はチラリと顔を見合わせて小さく頷いた。バレそうになったら口裏を合わせることを決めている。
「母さん、入ります。」
真知子の部屋に入ると彼女はソファーに座りタブレットを操作している。まだ仕事をしているらしい。
「座って。」
健人の事かと思ってドキドキしていると、真知子はにこりと笑った。
「詩月、あなたお見合いなさい。」
「え?」
予想外の言葉にぽかんとしていると真知子はもう一度言った。
「お見合いよ。あなたを番いにしたいって言われたのよ。」
番い…。
何故?
佑月はまだ相手が決まっていないはずだ。
善夜は長男が嫁がないとその後の兄弟たちは嫁に行けないはずなのに。
「良いお話なのよ。相手はあの天沢さんの息子さんよ。涼さん、だったかしら。前にあなたを見たらしくて、詩月が良いって。さすが私の息子ね。あの天沢の気持ちを動かすなんて…」
真知子がペラペラと何か喋っていたが頭に入ってこなかった。
とにかく善夜では優先されるべきは長男だ。長男の佑月が何も決まっていないのに。
だから詩月も悠長に構えていた。
まさか自分が最初に見合いをすることになるなんて…。
そしてこれは形だけの見合いだ。もう嫁ぐことは決まっているだろう。顔合わせ、と言った方が良い。
詩月に選択権はないのだ。
そしてよりによって相手は天沢涼。
天沢がオメガを欲しがっているという噂は聞いていた。
それに知らないわけがない。涼は佑月の…。
「で、でも、佑月兄さんがまだ…。」
「えぇ。誰も貰い手が居ないのよ。こんなに売りこんでるのに全くあの子は…。でもこんな良いお話、断るわけにもいかないでしょ?あなたたちはとりあえず婚約だけして、佑月には適当な相手を見つけるわ。」
ため息をつきながら嬉しそうだ。佑月に縁談が来ないのが嬉しいのだろう。真知子は佑月の幸せを望んでいない。
貰い手のいない冴えないオメガ。
佑月のことをそう思っていて現に縁談の申し込みがないことを喜んでいる。
なんて母親だろう。
詩月は腹が立って仕方ない。健人と番いになると言ってしまいたい。
しかしそれは得策ではない。ぐっと堪えて下を向いた。
「少し考えさせて下さい…。」
断る選択肢がないことは分かっているが、そう言って部屋を出た。
「え?今なんて?」
詩月はすぐに葉月に報告した。葉月は驚いて目を見開いている。
「天沢涼と番いになれって。」
「ウソ…天沢涼ってあの天沢涼?何で?」
「どっかのパーティで僕を見たらしいよ。」
「マジか。ウチのオメガを欲しがってるのは知ってたけど。」
二人はため息をついた。
天沢がオメガを欲しがっている。それは知っていた。
善夜のしきたりに従って佑月と見合いすると思っていた。
佑月を目一杯かわいくして見合いの席に座らせる…。
そうすればあの天沢涼だってイチコロだ。
見合いをセッティングしたのは真知子なのだから二人の邪魔は出来ない。
佑月を隠し、守ってきた努力がこれで報われる。
そう考えていたのに。
まさか詩月を指名し、それを真知子が了承するとは…。
「天沢涼はアホだろ。」
「それな。」
「健人に何て言おう…。」
「…。」
頭を抱える詩月。健人が知ったら発狂しそうだ。
葉月はぎゅっと目を閉じて何かを考えている。
しばらくそうしているとパッと目を開けて詩月を見た。
「詩月!次の発情期は来月の半ばだよな?」
「え?うん。その予定だけど。」
「よし。こうなったら強行突破だ!僕に考えがある。」
意気込む葉月を詩月はぽかんと眺めた。
「えっ!詩月がお見合い?」
葉月は健人を呼び詩月が見合いをし嫁ぐことを話した。
「嫌だっ!何で?何で詩月が?嫌だよ。俺、俺…」
「落ち着け、健人。詩月だってしたくないんだよっ。」
「嫌だ、詩月っ!詩月っ!俺の詩月だっ!」
健人がパニックになり詩月に抱きつく。もう誰の声も頭に入っていかないようだ。
「落ち着けって言ってるだろっ!」
葉月が近くに置いてあった雑誌を丸めて健人の頭を叩く。バシッと、鈍い音がした。
「あ、痛い、何すんだよっ!」
健人が頭を抱えて葉月を睨む。
詩月が困った顔をして健人の背中を撫でて宥めた。
「落ち着いて聞けって言ってんの。大事な話だ。健人、おまえにも協力してもらう。詩月と一緒になりたいんだろ?」
葉月の真剣な顔に、我に返った健人が大きく頷く。
それを見た葉月が真知子の計画を阻止する方法を話し出した。
詩月には見合いを快諾してもらう。ただしその見合いの直前に健人とと番いになってしまうのだ。
しかも断れない日付ギリギリで番いになる。これが大事だ。真知子は面子を保つため代打を立てるだろう。
葉月に話が回ってこないように葉月自身も見合いをする。しかも帰って来られないような遠い場所で。
「姉さんがロンドンでパーティがあるって言ってた。それはオメガとアルファを会わせる集団見合いみたいなやつ。日本人なんか目じゃないくらいの大富豪や権力者が来る。母さんも喜んで行かせるはずだ。僕はそのパーティに出席する。」
「俺は?俺と詩月は?」
「次の発情期が半月後だ。その時に番いになれ。見合いはその週に設定する。おまえたちが番ってしまったら詩月は行けない。母さんのことだ、きっと佑月に行かせるはず。」
「半月後…。」
「うん。そうだ。」
健人の顔から表情が消えた。ぼんやりとして焦点が合わない。
「健人?大丈夫?」
詩月の声にゆっくりとそちらを見る。
「詩月と番いに…なる?」
「う、うん。」
「半月後に?」
急なことで受け入れられないのかもしれない。
健人も詩月もまだ高校生だ。
この計画は健人の親からも承諾は取らない。それぞれの両親に黙って勝手に番いになるのだ。
何を言われるか…。最悪、勘当されるかもしれない。
それに健人は健人のタイミングがあるはずだ。
学校を卒業して自立してからとか、いろいろ考えているのかもしれない。
「健人、どうした?ダメか?」
葉月が不安そうに健人を見る。
この計画は健人なしでは成し遂げることは出来ないのだ。
「ただいま。詩月、話があるからいらっしゃい。」
帰ってくるなり部屋に来いと言われる。
双子はドキリとしたが、フェロモンは消えているはずだ。
でもバレているかもしれない。
二人はチラリと顔を見合わせて小さく頷いた。バレそうになったら口裏を合わせることを決めている。
「母さん、入ります。」
真知子の部屋に入ると彼女はソファーに座りタブレットを操作している。まだ仕事をしているらしい。
「座って。」
健人の事かと思ってドキドキしていると、真知子はにこりと笑った。
「詩月、あなたお見合いなさい。」
「え?」
予想外の言葉にぽかんとしていると真知子はもう一度言った。
「お見合いよ。あなたを番いにしたいって言われたのよ。」
番い…。
何故?
佑月はまだ相手が決まっていないはずだ。
善夜は長男が嫁がないとその後の兄弟たちは嫁に行けないはずなのに。
「良いお話なのよ。相手はあの天沢さんの息子さんよ。涼さん、だったかしら。前にあなたを見たらしくて、詩月が良いって。さすが私の息子ね。あの天沢の気持ちを動かすなんて…」
真知子がペラペラと何か喋っていたが頭に入ってこなかった。
とにかく善夜では優先されるべきは長男だ。長男の佑月が何も決まっていないのに。
だから詩月も悠長に構えていた。
まさか自分が最初に見合いをすることになるなんて…。
そしてこれは形だけの見合いだ。もう嫁ぐことは決まっているだろう。顔合わせ、と言った方が良い。
詩月に選択権はないのだ。
そしてよりによって相手は天沢涼。
天沢がオメガを欲しがっているという噂は聞いていた。
それに知らないわけがない。涼は佑月の…。
「で、でも、佑月兄さんがまだ…。」
「えぇ。誰も貰い手が居ないのよ。こんなに売りこんでるのに全くあの子は…。でもこんな良いお話、断るわけにもいかないでしょ?あなたたちはとりあえず婚約だけして、佑月には適当な相手を見つけるわ。」
ため息をつきながら嬉しそうだ。佑月に縁談が来ないのが嬉しいのだろう。真知子は佑月の幸せを望んでいない。
貰い手のいない冴えないオメガ。
佑月のことをそう思っていて現に縁談の申し込みがないことを喜んでいる。
なんて母親だろう。
詩月は腹が立って仕方ない。健人と番いになると言ってしまいたい。
しかしそれは得策ではない。ぐっと堪えて下を向いた。
「少し考えさせて下さい…。」
断る選択肢がないことは分かっているが、そう言って部屋を出た。
「え?今なんて?」
詩月はすぐに葉月に報告した。葉月は驚いて目を見開いている。
「天沢涼と番いになれって。」
「ウソ…天沢涼ってあの天沢涼?何で?」
「どっかのパーティで僕を見たらしいよ。」
「マジか。ウチのオメガを欲しがってるのは知ってたけど。」
二人はため息をついた。
天沢がオメガを欲しがっている。それは知っていた。
善夜のしきたりに従って佑月と見合いすると思っていた。
佑月を目一杯かわいくして見合いの席に座らせる…。
そうすればあの天沢涼だってイチコロだ。
見合いをセッティングしたのは真知子なのだから二人の邪魔は出来ない。
佑月を隠し、守ってきた努力がこれで報われる。
そう考えていたのに。
まさか詩月を指名し、それを真知子が了承するとは…。
「天沢涼はアホだろ。」
「それな。」
「健人に何て言おう…。」
「…。」
頭を抱える詩月。健人が知ったら発狂しそうだ。
葉月はぎゅっと目を閉じて何かを考えている。
しばらくそうしているとパッと目を開けて詩月を見た。
「詩月!次の発情期は来月の半ばだよな?」
「え?うん。その予定だけど。」
「よし。こうなったら強行突破だ!僕に考えがある。」
意気込む葉月を詩月はぽかんと眺めた。
「えっ!詩月がお見合い?」
葉月は健人を呼び詩月が見合いをし嫁ぐことを話した。
「嫌だっ!何で?何で詩月が?嫌だよ。俺、俺…」
「落ち着け、健人。詩月だってしたくないんだよっ。」
「嫌だ、詩月っ!詩月っ!俺の詩月だっ!」
健人がパニックになり詩月に抱きつく。もう誰の声も頭に入っていかないようだ。
「落ち着けって言ってるだろっ!」
葉月が近くに置いてあった雑誌を丸めて健人の頭を叩く。バシッと、鈍い音がした。
「あ、痛い、何すんだよっ!」
健人が頭を抱えて葉月を睨む。
詩月が困った顔をして健人の背中を撫でて宥めた。
「落ち着いて聞けって言ってんの。大事な話だ。健人、おまえにも協力してもらう。詩月と一緒になりたいんだろ?」
葉月の真剣な顔に、我に返った健人が大きく頷く。
それを見た葉月が真知子の計画を阻止する方法を話し出した。
詩月には見合いを快諾してもらう。ただしその見合いの直前に健人とと番いになってしまうのだ。
しかも断れない日付ギリギリで番いになる。これが大事だ。真知子は面子を保つため代打を立てるだろう。
葉月に話が回ってこないように葉月自身も見合いをする。しかも帰って来られないような遠い場所で。
「姉さんがロンドンでパーティがあるって言ってた。それはオメガとアルファを会わせる集団見合いみたいなやつ。日本人なんか目じゃないくらいの大富豪や権力者が来る。母さんも喜んで行かせるはずだ。僕はそのパーティに出席する。」
「俺は?俺と詩月は?」
「次の発情期が半月後だ。その時に番いになれ。見合いはその週に設定する。おまえたちが番ってしまったら詩月は行けない。母さんのことだ、きっと佑月に行かせるはず。」
「半月後…。」
「うん。そうだ。」
健人の顔から表情が消えた。ぼんやりとして焦点が合わない。
「健人?大丈夫?」
詩月の声にゆっくりとそちらを見る。
「詩月と番いに…なる?」
「う、うん。」
「半月後に?」
急なことで受け入れられないのかもしれない。
健人も詩月もまだ高校生だ。
この計画は健人の親からも承諾は取らない。それぞれの両親に黙って勝手に番いになるのだ。
何を言われるか…。最悪、勘当されるかもしれない。
それに健人は健人のタイミングがあるはずだ。
学校を卒業して自立してからとか、いろいろ考えているのかもしれない。
「健人、どうした?ダメか?」
葉月が不安そうに健人を見る。
この計画は健人なしでは成し遂げることは出来ないのだ。
29
お気に入りに追加
1,710
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
元ベータ後天性オメガ
桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。
ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。
主人公(受)
17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。
ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。
藤宮春樹(ふじみやはるき)
友人兼ライバル(攻)
金髪イケメン身長182cm
ベータを偽っているアルファ
名前決まりました(1月26日)
決まるまではナナシくん‥。
大上礼央(おおかみれお)
名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥
⭐︎コメント受付中
前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。
宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。


別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない
天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。
ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。
運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった――――
※他サイトにも掲載中
★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★
「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」
が、レジーナブックスさまより発売中です。
どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる