善夜家のオメガ

みこと

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浩昭たちと解散する時、涼は稔に忠告された。
『麗華が怒ってたぞ。あいつプライドが高いし執念深いから気をつけろよ。』
涼は佑月に夢中ですっかり忘れていた。別に付き合っていた訳ではないが身辺整理をしていなかった。
佑月に軽蔑されたくない。麗華にきちんと話をした方が良い良いかもしれない。
それ以外にも何人かいたので婚約したことを伝えようと考えていた。

「涼君、どうしたの?」

「い、いや、何でもない。」

考え込んでいる涼を心配して佑月が顔を覗き込んで来る。
かわいい…。
絶対に失いたくない。それにもう二度と傷付けたくない。

「浩昭君、今日、ゲームしようって。ふふ、楽しみ。」

夜、オンラインゲームをする約束をしていた。佑月も誘われたので嬉しそうだ。

「そうだな。早めに風呂に入って準備しよう。」

「うんっ!」

嬉しそうに頷く佑月がかわいすぎる。
明日は休みなので、本音を言うと一晩中イチャイチャしたかった。
でも佑月が喜んでいるので今日はゲームをしよう。

「でも明日はいっぱいイチャイチャしような?」

「え…、あ、うん。」

耳元で囁くと真っ赤になって俯く。フェロモンがふわりと広がった。


その日は夜遅くまでオンラインゲームで盛り上がった。佑月は本当に楽しそうで浩昭や稔たちともすっかり打ち解けたようだ。何ヶ所かクリアしてオンラインをオフにした時にはすでに日付けが変わっていた。

「楽しかった!またやりたい!」

「ああ、またやろうな。」

二人で仲良く並んで歯を磨く。佑月はすでにうとうとしている。
『今日はさすがにかわいがれないな…』と、諦めて二人でベッドに入った。
佑月の部屋はそのままにしてあったが今はほとんど使っていない。涼の部屋に佑月の私物も置いてある。ベッドカバーも二人で選んで買い替えた。

「涼君、そろそろ三ヶ月経つね。」

「あ、そうか。」

三ヶ月…。涼がここへ来る時に父親に言われた期限だ。
三ヶ月我慢しろ。父親にそう言われて渋々ここへ来たのだ。

「この部屋、どうなるのかな。お母さん、解約しちゃうかも。」

「うん。俺が親父に聞いてみる。ここがダメなら他の所に引っ越そう。」

「僕、まだ涼君と一緒に暮らせるの?」

「当たり前だろ?俺は佑月が居ない生活なんて考えられない。」

不安そうな佑月を抱きしめる。
初日に佑月に言ったことを思い出した。

「ごめんな?あの時の俺は本当にバカだ。」

「ううん。これからも一緒に居られるならそれでいい。」

「ずっと一緒にいような。佑月、大好きだ。」

「ん。僕も大好き。」

いつもより濃いフェロモンが佑月から溢れ出す。

「あー、もう本当にかわいい。佑月。かわいい…。寝かせてやりたいのに。」

かばっと佑月に覆い被さってキスをする。 
今日も朝までイチャイチャしそうだ。
佑月のフェロモンに酔いながら涼は佑月のそのかわいい唇を貪った。




「佑月、チェックインしてくるからちょっと待っててね。」

「うん。」

ホテルのロビーに佑月を残して涼はフロントに歩いて行った。佑月はその後ろ姿をうっとりと眺める。
五歳の頃、叔母に連れられて出かけたハロウィンのパーティーで涼に会った。
皆んなより一回り身体が小さく髪と目の色もヘーゼルブラウンの佑月は他の子どもたちから仲間外れにされていた。佑月はそう思っていたが、その頃から大きなメガネをかけて髪型もボサボサにされていたので近寄りがたかったのだ。そんな佑月はパーティーでもお菓子を貰えず隅っこで小さくなっていた。

「なあ、おまえ、お菓子貰わなかったの?」

「え?うん。」

佑月より頭ひとつ大きな子ども。漆黒の髪と瞳が印象的だ。

「これ、やるよ。俺あんまり好きじゃない。」

その手には海外ブランドのチョコレートが乗っていた。

「いいの?」

「うん。甘すぎてダメなんだ。」

「ありがとう。」

佑月はそのチョコレートが大好きだ。中にとろりとしたフルーツソースが入っている。

「僕、これ好きなんだ。」

「そっか。じゃあ良かったな。」

佑月の方を見てにこりと笑う。怖そうに見えたその顔は笑うとかわいらしかった。
『あ、この子だ。』
その笑顔を見た瞬間に分かった。まだお互い子どもでバースも確定していない。
でも佑月には分かる。自分がオメガでこの子はアルファだ。 
そして佑月の運命なのだと。

「あの、な、名前は?名前おしえて?」

「え?俺?俺は天沢涼。」

天沢涼。
忘れないように胸に刻む。
その後も少し話をして別れた。
きっといつかまた会える。そう願って大事にそのチョコレートを口入れた。

涼にその話をしたがやっぱり覚えていなかった。
覚えていないことをすごく謝られたが全く気にしていない。バースの覚醒前のことだし、今幸せなのでそれで十分だ。
佑月は幸せを噛み締めてロビーのソファーに体を沈めた。

「ねぇ、あなた。」

思い出に浸っていて気が付かなかったが、目の前に女が立っていた。
顔を上げてその女を見る。大学で涼と一緒にいるところを見たことがある女だった。
その時の表情とは打って変わって今は怒りに満ちている。

「あ、あの、何か…」

少し怖くなって身体が縮こまった。

「あなたが涼の婚約者?」

「あ、はい。」

「そう。涼、このホテル気に入ってるのね。私とも何度も来たわ。」

佑月の胸が苦しくなる。
涼がモテるのは知っていた。今は佑月だけだと言ってくれるが…。
改めて見ると美しい女だ。涼はこういう人がタイプなのだろうか。
佑月な手が震えて冷たくなるのを感じた。
怖い…。
その時、佑月の名前を呼びながら慌てた顔で走り寄って来る涼が見えた。

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