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「章子さん、アレ、涼さんに見せてやってよ。」
近くで紅茶を淹れ直していた章子に声をかける。
「はい。あれ、ですね?」
しばらくすると章子が一枚の写真を持ってくる。かなり古い者だ。
そこに写っていた一人の男。
はにかむように微笑んでいる。荒い画質でもかわいさが良く分かる。佑月に良く似ていた。
「これは…?佑月じゃないよな?」
「はい。その方は睦月様です。葉月様たちの叔父にあたる方。奥様のお兄様です。」
「佑月の叔父…。」
「そう。先代の善夜の長男。善夜の長男は皆んなこんな感じの見た目をしてる。僕たちその他のオメガは僕や詩月、奈緒兄みたいな感じだよ。選ばれしオメガだけが佑月や睦月叔父さんみたいになるんだ。」
「今この人は?」
「パリに住んでる。フォアード社の会長の妻で番いだよ。」
「え?フォアード社の?」
世界屈指の大企業だ。
その会長の妻が日本人でオメガだったなんて初耳だ。
「会長が溺愛してるからね。あまり公表してないんだよ。妻に何があったら困るってね。そのせいで日本にも遊びに帰してもらえない。ね?章子さん。」
「ええ。そりゃもう。いまだに新婚のようらしいです。お子様が五人もいらっしゃるのに…。飛行機が墜落したらとか、船が転覆したらとか…いろいろ心配して側から離さないんですよ。でもたまにお手紙が来ますから。お元気にしているそうです、」
「何でこんな古い写真なんだ?」
「誰にも見せたくないんだって。写真でよからぬ事をされたら嫌だって言ってたよ。この家にはこの一枚しかない。章子さんが大事に取っておいてくれたんだ。母さんに見つかったら捨てられゃうからね。」
その言葉に章子が悲しげに笑う。
「母さんは睦月叔父さんが嫌いなんだよ。それで叔父さんにそっくりな佑月に冷たく当たる。だから僕たちで佑月を守っていたんだ。」
「嫌いって…自分の息子だろ?」
「母さんはエイデンさんのことが好きだったからね。」
「エイデンさん?」
「睦月叔父さんの旦那。先に知り合ったのは母さんだ。留学中に知り合って日本に招待した。別に恋人同士ってわけじゃなかったけど、母さんが一方的に惚れてた。エイデンさんは日本文化に興味があったし、あわよくばと思って母さんが日本に呼んだんだ。」
「そこで睦月さんと出会った…。」
「そう…。」
「エイデン様は一目で恋に落ちたようでした。その後もいろいろございまして…。」
章子がその時の事を思い出すように遠くを見つめながら言った。
恋に落ちたエイデンは睦月に猛アタックしたようだ。真知子の気持ちを知っていた睦月はエイデンを拒否し続けたようだが、彼は諦めず、何度も日本に訪れた。最終的に二人は結ばれたが真知子の心中は穏やかでないことは察しがつく。
エイデンと睦月は番いになり結婚したあとイギリスに渡り、現在はパリで暮らしている。
「葉月たちの母親はいまだにその事を?」
「うん。まあ、それだけじゃないけどね。涼さんも佑月と会って分かっただろ?あの魅力に抗えない。ほとんどの人が佑月を好きになる。健人は例外だけど。アレは詩月が運命だから。」
「ああ。分かる。吸い寄せられるような感覚だ。」
「睦月叔父さんだってそう。エイデンさんだけじゃない。皆んな睦月叔父さんを好きになる。母さんが良いな、と思う人は皆んな睦月叔父さんを好きになっちゃったんだ。」
そういうことか…。
自分の思い人を兄が奪っていく。当の本人にその意図がなくても周りがあの魅力に抗えない。
「佑月が涼さんのことを好きだって母さんが知ったら…。あの時の辛い自分を思い出して嫌がらせされるかもしれない。二人の間を割かれるかもしれない。僕たちはそんなことにならないように佑月を隠してきたんだ。あの髪型もメガネもダサい服も全てはみんな佑月のためだよ。」
「そうだったのか…。ありがとう…。」
「涼さんのためじゃないよ。佑月のため。まあちょっと失敗しちゃったけどね。まさかあのままお見合いに行くとは。章子さんに頼んだのに…。」
葉月はてへっと舌を出して戯ける。
「まあとにかく佑月のことを大事にしてよね?発情期が来るまでエッチはダメだからね!」
「わ、分かった。努力する…。」
がっかりと肩を落とし返事をする。そんな涼のスマホがポコンと鳴った。
「あ!佑月だ。ゼミの集まり終わったって。俺、帰るわ。迎えに行く約束なんだ。」
嬉しそうにそそくさと立ち上がり出て行ってしまった。
それと入れ違いで詩月と健人が戻ってくる。
詩月は顔が赤い。健人は惚けた顔をしながら詩月に抱きつき身体を擦り付けている。
そして満足げな奈緒。手に発泡スチロールの箱を持っている。
「はあ、詩月…。大好き。かわいい…。」
「あ、終わったの?」
葉月の問いかけに詩月が下を向いて恥ずかしそうに頷いた。
「いや~本当に助かったよ。詩月、健人君ありがとう。結果が出たら必ず知らせるよ。あとは佑月と涼君かぁ。善夜直系の長男とその番い!早くサンプルが欲しい!」
興奮している奈緒は持っていた発泡スチロールの箱をぎゅっと抱きしめる。
葉月がその箱を引いた顔で見ていた。
近くで紅茶を淹れ直していた章子に声をかける。
「はい。あれ、ですね?」
しばらくすると章子が一枚の写真を持ってくる。かなり古い者だ。
そこに写っていた一人の男。
はにかむように微笑んでいる。荒い画質でもかわいさが良く分かる。佑月に良く似ていた。
「これは…?佑月じゃないよな?」
「はい。その方は睦月様です。葉月様たちの叔父にあたる方。奥様のお兄様です。」
「佑月の叔父…。」
「そう。先代の善夜の長男。善夜の長男は皆んなこんな感じの見た目をしてる。僕たちその他のオメガは僕や詩月、奈緒兄みたいな感じだよ。選ばれしオメガだけが佑月や睦月叔父さんみたいになるんだ。」
「今この人は?」
「パリに住んでる。フォアード社の会長の妻で番いだよ。」
「え?フォアード社の?」
世界屈指の大企業だ。
その会長の妻が日本人でオメガだったなんて初耳だ。
「会長が溺愛してるからね。あまり公表してないんだよ。妻に何があったら困るってね。そのせいで日本にも遊びに帰してもらえない。ね?章子さん。」
「ええ。そりゃもう。いまだに新婚のようらしいです。お子様が五人もいらっしゃるのに…。飛行機が墜落したらとか、船が転覆したらとか…いろいろ心配して側から離さないんですよ。でもたまにお手紙が来ますから。お元気にしているそうです、」
「何でこんな古い写真なんだ?」
「誰にも見せたくないんだって。写真でよからぬ事をされたら嫌だって言ってたよ。この家にはこの一枚しかない。章子さんが大事に取っておいてくれたんだ。母さんに見つかったら捨てられゃうからね。」
その言葉に章子が悲しげに笑う。
「母さんは睦月叔父さんが嫌いなんだよ。それで叔父さんにそっくりな佑月に冷たく当たる。だから僕たちで佑月を守っていたんだ。」
「嫌いって…自分の息子だろ?」
「母さんはエイデンさんのことが好きだったからね。」
「エイデンさん?」
「睦月叔父さんの旦那。先に知り合ったのは母さんだ。留学中に知り合って日本に招待した。別に恋人同士ってわけじゃなかったけど、母さんが一方的に惚れてた。エイデンさんは日本文化に興味があったし、あわよくばと思って母さんが日本に呼んだんだ。」
「そこで睦月さんと出会った…。」
「そう…。」
「エイデン様は一目で恋に落ちたようでした。その後もいろいろございまして…。」
章子がその時の事を思い出すように遠くを見つめながら言った。
恋に落ちたエイデンは睦月に猛アタックしたようだ。真知子の気持ちを知っていた睦月はエイデンを拒否し続けたようだが、彼は諦めず、何度も日本に訪れた。最終的に二人は結ばれたが真知子の心中は穏やかでないことは察しがつく。
エイデンと睦月は番いになり結婚したあとイギリスに渡り、現在はパリで暮らしている。
「葉月たちの母親はいまだにその事を?」
「うん。まあ、それだけじゃないけどね。涼さんも佑月と会って分かっただろ?あの魅力に抗えない。ほとんどの人が佑月を好きになる。健人は例外だけど。アレは詩月が運命だから。」
「ああ。分かる。吸い寄せられるような感覚だ。」
「睦月叔父さんだってそう。エイデンさんだけじゃない。皆んな睦月叔父さんを好きになる。母さんが良いな、と思う人は皆んな睦月叔父さんを好きになっちゃったんだ。」
そういうことか…。
自分の思い人を兄が奪っていく。当の本人にその意図がなくても周りがあの魅力に抗えない。
「佑月が涼さんのことを好きだって母さんが知ったら…。あの時の辛い自分を思い出して嫌がらせされるかもしれない。二人の間を割かれるかもしれない。僕たちはそんなことにならないように佑月を隠してきたんだ。あの髪型もメガネもダサい服も全てはみんな佑月のためだよ。」
「そうだったのか…。ありがとう…。」
「涼さんのためじゃないよ。佑月のため。まあちょっと失敗しちゃったけどね。まさかあのままお見合いに行くとは。章子さんに頼んだのに…。」
葉月はてへっと舌を出して戯ける。
「まあとにかく佑月のことを大事にしてよね?発情期が来るまでエッチはダメだからね!」
「わ、分かった。努力する…。」
がっかりと肩を落とし返事をする。そんな涼のスマホがポコンと鳴った。
「あ!佑月だ。ゼミの集まり終わったって。俺、帰るわ。迎えに行く約束なんだ。」
嬉しそうにそそくさと立ち上がり出て行ってしまった。
それと入れ違いで詩月と健人が戻ってくる。
詩月は顔が赤い。健人は惚けた顔をしながら詩月に抱きつき身体を擦り付けている。
そして満足げな奈緒。手に発泡スチロールの箱を持っている。
「はあ、詩月…。大好き。かわいい…。」
「あ、終わったの?」
葉月の問いかけに詩月が下を向いて恥ずかしそうに頷いた。
「いや~本当に助かったよ。詩月、健人君ありがとう。結果が出たら必ず知らせるよ。あとは佑月と涼君かぁ。善夜直系の長男とその番い!早くサンプルが欲しい!」
興奮している奈緒は持っていた発泡スチロールの箱をぎゅっと抱きしめる。
葉月がその箱を引いた顔で見ていた。
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