善夜家のオメガ

みこと

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「あのさ、涼さんは佑月の事誰だと思ってるの?善夜直系の長男だよ?」

「え?」

「善夜オメガの中で最も善夜の血を濃く受け継いでるオメガってこと。」

「どういうことだ?」

涼には葉月の言っている事が分からない。訝しげに葉月を見つめる。

「善夜のオメガは自分が決めたアルファに大事にされる事で初めてオメガとして開花するんだ。詩月がそうだろ?健人に愛されて大事にされてるからどのオメガよりも美しく色気がある。」

あの弟のことか。一緒にいた男がおそらく健人だろう。詩月を大事に守るようにして家に入って行った。

「確かに詩月も僕も直系だよ?でも所詮次男、三男でしか無い。善夜のオメガの特性は佑月が最も色濃く継ぐ。僕や詩月なんか目じゃ無いほど美しく開花するはずなんだ。それなのに帰ってきた佑月は前とほとんど変わらないじゃないか。まぁかわいいにはかわいいんだけどフェロモンがほとんど出てない。それは涼さんが佑月を大事にしてないってことだろ?」

「あ…あの、それは…。」

その通りだ。大事にするどころか邪険に扱った。
佑月の良さに気付いた時にはもう…。

「僕も詩月も反対したんだ。涼さん、性格悪そうだもん。でも佑月がどうしても涼さんが良いって言うから…。詩月なんて予定を早めて健人と番いにまでなったのに。」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!どういうことだ?」

佑月が俺を?
どういうことだ?
それ以外にも突っ込みどころ満載の事をさらりと言っている。

「十三年前に佑月は涼さんに会ってるんだ。その時に見つけたって。涼さんが僕の運命だよって。」

涼はただ唖然とそれを聞いていた。もちろん全く覚えていない。

「言ったでしょ?佑月は善夜のオメガ。それも長男。普通のオメガとは違う。自分の運命をはっきり嗅ぎ分ける事が出来るんだ。そんな事が出来るオメガは善夜直系の長男、佑月だけだよ。それなのに涼さんは…。佑月がせっかくあなたを選んだのに。僕も詩月もがっかりだよ。何のために何年も佑月を守ってきたと思ってるの?」

「佑月を守る?」

「そう。他のアルファに見つからないようにずっと隠してきたんだ。あとうちの母親からも。佑月の顔を見たでしょ?…え?まさか見てないの?」

葉月が眉根を寄せて顔を顰める。
ついこの間まじまじと見た佑月の顔を思い出す。息が止まるかと思うほどかわいかった。

「み、見た。見たよ。」

「あの目を見たら皆吸い寄せられるように心を奪われちゃうからね。隠すの大変だったよ。隠したってかわいいもんはかわいいから。」

「は、はぁ…。」

葉月は得意げに今までのことを語る。
佑月が涼を運命だと葉月たちに打ち明けた時から、双子は何とか佑月と涼が結ばれるよう画策してきたのだ。

「天沢社長が善夜のオメガを欲しがってるって聞いた時、チャンスだと思ったんだ。それなのに涼さんは詩月が良いって…。バカなの?おかげで予定が狂ったよ。健人は大喜びしてるけどね。」

「そうまでして…。いや、ありがたいんだけど。」

「僕たちは長男を守るために生まれてきたんだ。佑月がきちんと運命と結ばれるように、そのためにいる。それが長男以外のオメガの宿命だからね。遥か昔からずっとそうしてきた。だから善夜は廃れることなく続いている。もちろんバカらしいと思う時もあるよ。でも佑月、かわいいだろ?何としてでも幸せになってもらいたいんだ。」

そう言って誇らしげに微笑む葉月を見つめる。全てはこのオメガたちの手の上で転がされてきたということか…。
呆然としていると門扉が開いて詩月と健人が顔を出した。

「佑月、起きたよ。涼さん来ても良いって。」

詩月がつっけんどんに言う。健人は後ろから詩月をがっちりとホールドしている。その顔は詩月のフェロモンに酔っているようだった。

中に入る時、葉月がそっと涼に耳打ちした。

「健人、詩月のフェロモンでくらくらしてるだろ?でも佑月が開花したらもっとすごいと思うよ。涼さん、死んじゃうかもね。」

「え⁉︎」

ふふんと笑って葉月は居なくなった。

章子に案内された部屋のドアをノックすると佑月が『はい』と返事をした。
ドキドキしながらドアを開ける。
ベッドボードに寄りかかって座る佑月がいた。その姿を見ただけで胸がいっぱいになる。

「佑月…。」

「涼、様…?」

涼は駆け寄って佑月の横に跪いた。

「ごめん、ごめんな。佑月、ごめん。」

ボロボロ泣く涼を佑月が驚いて見ている。
長い前髪をゴムで結っていておでこが全開だ。可愛らしい顔がはっきり見える。

「どうしたんですか?詩月が涼様がお見舞いに来たって。」

「うん。帰って来なかったから心配で。俺のせいで嫌になったのかと…。ごめん、本当にごめん。」

「何で謝るんですか?」

「俺、佑月に酷いこと言って…ごめん、もう嫌になったのかと、もう帰って来ないかと思って。」

「ごめんなさい。連絡しなくて。具合が良くなったら戻りるつもりで…。」

優しく微笑む佑月は天使のようだった。あの時、あのアルファ熱で苦しんでいた時、涼が見たのはやはり天使だったのだ。

涼は少し気持ちが落ち着くと改めて今までの非礼を詫びた。しかし佑月は気にしていないと微笑む。

「佑月、弟に聞いたよ。その、まだ俺のこと…良いと思ってくれてるか?」

恐る恐る佑月に尋ねると佑月は首まで真っ赤になってしまった。

「もう遅い?やっぱり俺なんか運命じゃない?」

涼は縋るような気持ちだ。
顔を真っ赤にした佑月はあわあわとしながら首を横に振った。

「ぼ、僕は、その、僕には涼様だけです。ずっと…。」

消え入りそうな小さな声だ。でも涼にははっきりと聞こえた。

「佑月!」

感激した涼は佑月に抱きついた。佑月からあの良い匂いがふわりと立ち込める。
『大事にすると花開く』
そうだ。佑月が笑うとあの匂いがした。佑月が喜ぶとフェロモンが香るのだ。
今、佑月からはふわふわフェロモンが漂っている。喜んでいるのだ。
かわいい…。堪らない…。
涼は佑月をぎゅーっと抱きしめてその匂いを思いっきり吸い込んだ。


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