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「今日は何?」
「唐揚げです。」
「ふーん。」
そっけなく答えたが涼は唐揚げが大好きだ。母親は料理なんてしなかったが、家政婦の紀江が作った唐揚げが好きだった。八十五歳まで天沢家に仕え、病気で亡くなった。
母親より紀江の方がよっぽど涼の事を理解してくれていた。
その日の夜に佑月の作った唐揚げはとても美味しかった。紀江の唐揚げを超えるほどだ。たくさん食べて満足しているとスマホにメッセージが届いた。オンラインゲームのお誘いだ。今日は機嫌が良い。久しぶりにログインしてみるかと思いOKと返事を送った。
「えー?康二は?」
「修学旅行って言ったろ?稔がもう一人集めるって…。」
「悪い、忘れてた。」
ログインすると浩昭と稔が準備して待っていた。四人でチームを組んで戦うオンラインゲームだ。いつもは浩昭とその弟の康二、稔、涼の四人だ。今日は康二が高校の修学旅行で居ない。人数が足りない時はキャラクターAIを利用するがやはり生身の人間の方が断然面白い。今日は康二が居ないので稔が友達に声をかける予定だったのだが、うっかりしていたらしい。
「AIでいくか…。」
皆んなのテンションが一気に下がる。
涼はふとキッチンの方に視線を向けると、こちらを見ていた佑月と目が合う。佑月の大学の専攻は工学部、情報システム学科だとついさっき知った。涼が行きたかった学部だ。父親がそれを許すはずはなく言われた通りの経済学部に入ったのだ。
「なあ、おまえ、」
「は、はい。」
「ロストワールドサロベーションって知ってるか?」
「あ、はい。オンラインゲームですよね?CGかすごいキレイで…。」
佑月と双子、それに健人と四人でやっていた事がある。葉月はハマってやっていたが、ゲームの苦手な詩月があまりやりたがらないので詩月最優先の健人も途中で辞めてしまった。なので何となく皆でやらなくなってしまったゲームだ。四人一組で戦う。キャラクターAIも居るがそいつはつまらないと葉月が言っていた。
「一人足りないんだ。」
涼は佑月に参加しろと言っているのだ。佑月は手を拭いてエプロン姿のまま涼の隣に座った。
「ほら。」
コントローラーを渡されて画面を見る。右端に知らない男が二人映っている。佑月はこの画面に映らない設定になっていた。
「「よろしく~」」
「よろしくお願いします。」
自己紹介もそこそこにゲームが始まってしまった。
終焉を迎えた世界で敵を倒しながら生き抜くゲームだ。ミッションをクリアしていくと徐々に世界が息を吹き返す。世界を元通りにするとゲームクリアだがなかなか難しく隠しダンジョンもある。未だ全面クリアした者は居ないと言われている。
「おい!そっち、敵いるぞ!」
「よし!倒した。」
「右に回れ、何かある。」
「危ない!」
「うわっ!やべっ!」
浩昭が後ろから襲われた。間一髪で佑月が救い出し癒しの花で回復させる。
ゲームとは言え皆真剣だ。佑月もミスをしないように画面に食い入る。大きなメガネが邪魔なので外し、テーブルに置いた。
その後も危うい場面も何度かあったが四人で力を合わせてミッションの一つをクリアした。以外にも佑月が大活躍し浩昭を助け、稔への援護も完璧だった。
「よっしゃー!ミッションクリア!」
「やっと次に行ける!」
ここのステージが難しくなかなかクリアできないでいたので皆ハイテンションで喜んでいる。
佑月も足を引っ張らず協力できたので嬉しそうだ。手を挙げて喜んでいる。
その横顔はキラキラと輝いていた。
「おまえ、強いな。」
「あ、ありがとうございます。」
にっこり笑って涼の方を見る。
ふわりとあの匂いかした気がした。
前髪が邪魔で笑顔がよく見えない。涼は無意識に手を伸ばし佑月の前髪をかき上げた。
「え?」
初めて佑月の顔が見えた。いつも隠すようにしていたので本当に初めてだ。
大きな目は髪の毛と同じヘーゼルブラウンで潤んでいる。まるで何かの宝石のようだ。長いまつ毛、整った小さな鼻、薔薇の花びらのような唇、真珠色の艶のある肌は頬だけ薄っすらとピンク色だ。かき上げた前髪も柔らかく滑らかな手触りだった。
とにかく瞳がヤバい。吸い込まれるようだ。涼はその瞳から目を逸らす事が出来なかった。
「涼、おまえの知り合いすげーな。康二よりいいじゃん。」
「それな。つーか誰よ?友達?」
「え?」
ハッとして涼は佑月から手を離す。
「えっと、アレだ。家政婦だよ。」
「家政婦?マジで?」
「家政婦さんゲームできんの?ウケる。」
画面の二人は面白そうに笑っている。涼はチラリと横を見ると佑月は俯いて下を向いていた。
「じゃあ僕はこれで。」
佑月が立ち上がってキッチンに向かってしまう。
浩昭たちがゲームの続きを誘うが涼は断って電源をオフにした。
佑月の方を見て涼がまごまごしていると佑月は部屋に戻ってしまった。
「マジか…。」
あの目を思い出してモヤモヤする。
「ヤバいな。めちゃくちゃかわいい…。」
佑月の事を考えるだけで胸が苦しい。
でも今更だ。散々冷たくしておいて…。
ちょっとかわいいからって、いや、ちょっとどころじゃなかったけど…。
俺はバカか。
涼は今までのことを思い出し一人で頭を抱えた。
次の日、涼は佑月と顔を合わせづらくていつもより早く家を出た。
授業に全く集中出来ない。稔が話しかけてきて『家政婦』についていろいろ話しかけてきたが適当に受け流しておいた。むしろその話題に触れられてさらにどんよりとした気持ちになった。
「唐揚げです。」
「ふーん。」
そっけなく答えたが涼は唐揚げが大好きだ。母親は料理なんてしなかったが、家政婦の紀江が作った唐揚げが好きだった。八十五歳まで天沢家に仕え、病気で亡くなった。
母親より紀江の方がよっぽど涼の事を理解してくれていた。
その日の夜に佑月の作った唐揚げはとても美味しかった。紀江の唐揚げを超えるほどだ。たくさん食べて満足しているとスマホにメッセージが届いた。オンラインゲームのお誘いだ。今日は機嫌が良い。久しぶりにログインしてみるかと思いOKと返事を送った。
「えー?康二は?」
「修学旅行って言ったろ?稔がもう一人集めるって…。」
「悪い、忘れてた。」
ログインすると浩昭と稔が準備して待っていた。四人でチームを組んで戦うオンラインゲームだ。いつもは浩昭とその弟の康二、稔、涼の四人だ。今日は康二が高校の修学旅行で居ない。人数が足りない時はキャラクターAIを利用するがやはり生身の人間の方が断然面白い。今日は康二が居ないので稔が友達に声をかける予定だったのだが、うっかりしていたらしい。
「AIでいくか…。」
皆んなのテンションが一気に下がる。
涼はふとキッチンの方に視線を向けると、こちらを見ていた佑月と目が合う。佑月の大学の専攻は工学部、情報システム学科だとついさっき知った。涼が行きたかった学部だ。父親がそれを許すはずはなく言われた通りの経済学部に入ったのだ。
「なあ、おまえ、」
「は、はい。」
「ロストワールドサロベーションって知ってるか?」
「あ、はい。オンラインゲームですよね?CGかすごいキレイで…。」
佑月と双子、それに健人と四人でやっていた事がある。葉月はハマってやっていたが、ゲームの苦手な詩月があまりやりたがらないので詩月最優先の健人も途中で辞めてしまった。なので何となく皆でやらなくなってしまったゲームだ。四人一組で戦う。キャラクターAIも居るがそいつはつまらないと葉月が言っていた。
「一人足りないんだ。」
涼は佑月に参加しろと言っているのだ。佑月は手を拭いてエプロン姿のまま涼の隣に座った。
「ほら。」
コントローラーを渡されて画面を見る。右端に知らない男が二人映っている。佑月はこの画面に映らない設定になっていた。
「「よろしく~」」
「よろしくお願いします。」
自己紹介もそこそこにゲームが始まってしまった。
終焉を迎えた世界で敵を倒しながら生き抜くゲームだ。ミッションをクリアしていくと徐々に世界が息を吹き返す。世界を元通りにするとゲームクリアだがなかなか難しく隠しダンジョンもある。未だ全面クリアした者は居ないと言われている。
「おい!そっち、敵いるぞ!」
「よし!倒した。」
「右に回れ、何かある。」
「危ない!」
「うわっ!やべっ!」
浩昭が後ろから襲われた。間一髪で佑月が救い出し癒しの花で回復させる。
ゲームとは言え皆真剣だ。佑月もミスをしないように画面に食い入る。大きなメガネが邪魔なので外し、テーブルに置いた。
その後も危うい場面も何度かあったが四人で力を合わせてミッションの一つをクリアした。以外にも佑月が大活躍し浩昭を助け、稔への援護も完璧だった。
「よっしゃー!ミッションクリア!」
「やっと次に行ける!」
ここのステージが難しくなかなかクリアできないでいたので皆ハイテンションで喜んでいる。
佑月も足を引っ張らず協力できたので嬉しそうだ。手を挙げて喜んでいる。
その横顔はキラキラと輝いていた。
「おまえ、強いな。」
「あ、ありがとうございます。」
にっこり笑って涼の方を見る。
ふわりとあの匂いかした気がした。
前髪が邪魔で笑顔がよく見えない。涼は無意識に手を伸ばし佑月の前髪をかき上げた。
「え?」
初めて佑月の顔が見えた。いつも隠すようにしていたので本当に初めてだ。
大きな目は髪の毛と同じヘーゼルブラウンで潤んでいる。まるで何かの宝石のようだ。長いまつ毛、整った小さな鼻、薔薇の花びらのような唇、真珠色の艶のある肌は頬だけ薄っすらとピンク色だ。かき上げた前髪も柔らかく滑らかな手触りだった。
とにかく瞳がヤバい。吸い込まれるようだ。涼はその瞳から目を逸らす事が出来なかった。
「涼、おまえの知り合いすげーな。康二よりいいじゃん。」
「それな。つーか誰よ?友達?」
「え?」
ハッとして涼は佑月から手を離す。
「えっと、アレだ。家政婦だよ。」
「家政婦?マジで?」
「家政婦さんゲームできんの?ウケる。」
画面の二人は面白そうに笑っている。涼はチラリと横を見ると佑月は俯いて下を向いていた。
「じゃあ僕はこれで。」
佑月が立ち上がってキッチンに向かってしまう。
浩昭たちがゲームの続きを誘うが涼は断って電源をオフにした。
佑月の方を見て涼がまごまごしていると佑月は部屋に戻ってしまった。
「マジか…。」
あの目を思い出してモヤモヤする。
「ヤバいな。めちゃくちゃかわいい…。」
佑月の事を考えるだけで胸が苦しい。
でも今更だ。散々冷たくしておいて…。
ちょっとかわいいからって、いや、ちょっとどころじゃなかったけど…。
俺はバカか。
涼は今までのことを思い出し一人で頭を抱えた。
次の日、涼は佑月と顔を合わせづらくていつもより早く家を出た。
授業に全く集中出来ない。稔が話しかけてきて『家政婦』についていろいろ話しかけてきたが適当に受け流しておいた。むしろその話題に触れられてさらにどんよりとした気持ちになった。
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