運命はいつもその手の中に

みこと

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「じゃあ葵、行ってくる。お昼過ぎには戻るから。亮平、頼んだぞ。」

「分かった。」 

「いってらっしゃい。」

修く…兄貴は仕事なので、葵は拓実と俺と一緒に過ごす。
ダメだ。兄貴のあの甘ったるい声が頭から離れない。
何が『葵、行ってくる』だ。どうせ二人っきりだと『あーたん、行きたくない~』とか言って甘えてるんだろ。

「葵、その、兄貴とは上手くいってるのか?」

「え?うん。まあ…。」

「ちゃんと優しくしてもらってるのか?」

「うん。すごく優しいけど、でも優しいというか…。」

ピロン、と葵のスマホがなった。

「修くんだ…。」

そのまま延々とメッセージを送り合っていた。
兄貴は本当に仕事してるのか?

「あ、ごめん、電話。もしもし、修くん?」

今度はずっと電話している。
いや、兄貴、マジで仕事してないだろ。
やっと電話を切った。

「兄貴?」

「うん。修くん、心配性で…。」

「葵と修兄はラブラブなんだよ。」

「え?ラブラブって。普通だよ…。」

「だって全部お揃いなんだろ?パジャマもスリッパも下着までお揃い。」

「だって修くんがそうしたいって…。」

修く…兄貴。まさかのパンツまでお揃いか。
良いんだ。兄貴が幸せなら。
でもキモいな。

「亮平にスマホの待ち受け見せてあげなよ。」

「え、恥ずかしいよ。」

「良いじゃん。可愛いんだよ。ほら!」

拓実が葵のスマホを見せてくれた。
兄貴が葵を抱きしめて頬にキスしている。
周りにはたくさんのハートとあーたん&しゅうくんの文字…。
ちょっと引き気味に見ていると受信したメッセージがポップアップ表示された。
『あーたん、大ちゅき。早く会いたい。』
ひぇっ!
無言でスマホを葵に返した。
葵、おまえはすごいよ。あの兄貴をここまで変えるとは…。




「葵たち、ラブラブだね。」

「そうだね。あの兄貴が…。信じられないよ。」

葵は昼過ぎに帰ってきた兄貴が早々に部屋に連れて行ってしまった。
どうせ部屋で『あーたん、あーたん』言ってんだろ。

「幸せそうで良かった。葵はすごく苦労してるんだ。勉強ばっかりして恋愛とかに興味ないかと思ってた。まさか中学の頃から修兄と付き合ってたなんて。良いなぁ。」

「え?羨ましいの?」

「うん。ちょっとだけ。だって、中学の時は亮平と離れ離れだったし。」

「俺も中学生時代の拓実が見たかった。でもこれからずーっと一緒にだし、俺たちだってラブラブだよ。」

「うん。」

「そういえば拓実のスマホの待ち受けって何?」

「えっ!何って普通だよ…。」  

モジモジしてスマホを隠してしまった。
ここに来てから拓実はスマホを見せてくれなくなった。
まさか、浮気とか?それはありえないよな?いつも一緒にいるし。

「見せてよ。」

「やだよ…。」

「何で?」

「何でって。じゃあ亮平のも見せて。」

「…いいよ。」

そう言って拓実の可愛い寝顔の待ち受けを見せた。

「あ…俺?」

「うん。可愛いだろ?はい、じゃあ拓実も。」 
 
おずおずとスマホを差し出してきた。
その画面には俺の寝顔が写っていた。

「え、いつの間に…。」

「亮平だって…。」

お互いの寝顔の待ち受け。しかも隠し撮り。
拓実は恥ずかしそうに笑った。

「拓実、一緒に撮ろうよ。」

「…うん。」

二人で何回か自撮りして拓実が気に入ったのを二人のスマホの待ち受けにした。
拓実はそれを嬉しそうに眺めている。
本当に可愛いな。

「拓実、大好き。本当に大好きだよ。」

「うん。俺も大好き。」

まあ俺も兄貴のこと言えないか。
拓実にはデレデレだ。二人っきりになればずっとくっついてイチャイチャしてる。
早くここを出てマンションに戻りたい。
そしたら誰にも邪魔されず一日中拓実と…。
不埒なことを考えていると興奮してきた。
拓実にキスしながらTシャツの中に手を忍ばせようとするとスマホが鳴った。
誰だよ、良い所だったのに。





「何よ、その顔。」

「いや、別に。」

「せっかく調べきてあげたのに。邪魔するなって顔しないでよ。やっぱり盗聴器が役に立ったわ。うちのお母様も一枚噛んでたのね。」

「そうか。塔子は良いのか?」

「まあ、何とも思わなくはないけど仕方ないわね。でも、私は自分のオメガが一番大事。このままだと私の可愛いオメガにも被害を被る日が来ると思う。」

アルファにとって一番大事なのは自分のオメガだ。家族よりも自分の命よりも…。

「そうだな。俺も拓実が一番だ。」

「で?どうする?」

「少し茂山に調べさせるよ。」

「そうね。私もここには行ったことがないのよ。少し調べておいた方が良いかも。」

「ああ。」

俺は塔子と別れて茂山に連絡を入れた。
茂山はすぐに調べると言って電話を切った。



「ねぇ、桜沢。夏休みが終わったらどうする?」

拓実たちは三人で宿題をやっていた。あと一週間で夏休みが終わる。そうなればずっと一緒にいる訳にいかない。

「どうしようか。平林たち、うちに来るか?」

あのアパートって訳にいかないだろう。
一緒にいた方が安心かもしれない。
平林は満と相談すると言っている。
そういえば茂山から連絡がないな。ここ数日は毎日連絡があったのに。
塔子の件はどうなったんだろうか。そう思って茂山に電話してみたが出なかった。着信があれば折り返してくるだろう。




「亮平、茂山の居場所を知ってるか?」

夕方帰ってきた兄貴が部屋に入って来た。そういえば昼間に電話したけど折り返しがない。

「茂山がどうかしたのか?」

「昨夜から連絡がつかないんだ。」

「え?」

「こんなのことは今までなかったんだ。」

「今、塔子のあの件を調べてもらっていて…。澪さんに聞いてみよう。」

部屋を出てエレベーターの前にいる澪さんのところへ行った。

「澪さん、茂山…お父さんさんと連絡がつかないんだ。何か聞いてないか?」

「え、本当ですか?」

澪さんが電話をかけたがやはり繋がらなかった。

「桜沢さん、父専用の社用車はどうなってますか?」

「会社にあったと思う。」

「それを調べてみて下さい。父は大事なものはそこに隠してあるはずです。俺はもうすぐ交代が来るので家に行ってみます。」
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