運命はいつもその手の中に

みこと

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「お客様。大変申し訳ございませんが、水漏れがしているようなので確認させて頂いてよろしいですか?」

星崎さんがベルボーイの格好をして部屋のインターホンを鳴らすが返事がない。何度も声をかけるが全く反応がない。

「人がいる気配がありませんね。」

マスターキーをかざしてロックを解除した。
しばらくして中に入った星崎さんが慌てて出てくる。

「誰も居ません!」

「え?誰もいない?」

「弘海たちは?」

「いません。あの男も居ません。」

みんなで部屋の中に入るがもぬけの殻だった。
何か痕跡がないか部屋の中を必死で探す。

「専務!これを!」

警備員がノートパソコンを持って走ってきた。

「どうした?」

「これを見てください。」

ここの廊下の監視カメラの映像だ。拓実たちが入った一時間後の映像。
ベルボーイの格好をした男がルームサービスのワゴンを押して部屋に入って行った。数分後にまたワゴンを押して出てくる。それを二回繰り返す映像だった。

「これは…?」

「このワゴンはうちのホテルのワゴンではないですね。取手が違うし、サイズも大きい。」

白い布がかかったワゴンは不自然なほど大きい。

「これで拓実たちを運び出したのか?」

「おそらく。そしてその男も一緒に出た。」

とにかく計画的で用意周到だ。
俺たちを警戒させずに自然にオメガを引き離す。
今や、世の中は至る所に防犯カメラや監視カメラがあるからな。外で拐えばすぐに分かってしまう。それに拓実たちオメガはいつも俺たちアルファがべったりくっついている。
自然に引き離して拐うのか。そして足がつかないような方法で…。

「スタッフ用のエレベーターと出入り口を見てみましょう。」

こんなことやっている間にも拓実が…。
他のアルファの番いされたら俺は生きていけない。
孝太郎さんや平林もそうだ。
どこに連れていったんだ?一体どこに…。

「そうだ!マスターだ。『カンパニュラ』のマスターだ。あいつなら拓実たちが連れて行かれた所を知ってるかもしれない。」


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「えっ⁉︎満くんたちが?」

マスターの顔が恐怖で強張った。

「そうだ。拓実も拐われた。」

「俺の弘海もだ。」

星崎さんが監視カメラを調べてくれている間に俺たち三人はカンパニュラに来た。

「オメガは何処に連れて行かれるんだ。」

「え…。あの」

「早く言え!殺されたいのか?いや、死ぬよりも辛い目に合わせるぞ!」

孝太郎さんがマスターの胸ぐらを掴んで揺さぶった。

「い、いろいろです。一ヶ所じゃないんです。バレないように。」

マスターが怯えながら答えた。

「何処だ!全部言え!」



中之島精神病院、奥山丘脳病院、谷川旅館、茂上第三中学校。どれも廃病院や廃旅館、廃校だ。このうちの何処か?

「この四つを調べてみよう。警察に伝手があるが、誰が裏切り者が変わらない。」

「そうですね。警察にもオメガ狩りのメンバーがいるかもしれない。」

「おい、一番怪しいのは何処だ?」

「えっと、な、中之島精神病院は、その、閉鎖病棟や牢屋のような造りだったのでよく使われていたようです。昔の精神病院は人里離れたところに建っていましたから。多少騒いでも。」

捕まえて監禁してるのか。クソっ!拓実…。

「中之島精神病院に行ってみるか?」

「ええ。」

他は茂山と親父に頼んだ。





「ここで間違いないな。」

「そうですね。」

カンパニュラから車を飛ばして一時間、旧中之島精神病院に着いた。廃病院の入り口に大型のワンボックスカーが数台。まだ新しい。ナンバープレートは偽装だろう。

「どうしますか?」

「行こう。ここに満がいる。」

「ああ。」

夕焼けに照らされた廃病院は不気味なほど静かだ。
膝まで伸びた草をかき分けて歩く。

「入り口はあそこか?」

「そうですね。」

「しっ!誰かいる…。」

孝太郎さんが足を止めた。耳を澄ますとほんの僅かに呼吸の音が聞こえる。

「弘海だ!弘海がいる!弘海のフェロモンだ!弘海、俺だ!」

孝太郎さんがフェロモンを出しながら弘海さんを呼んだ。しばらくすると建物の影からふらふらと人が出てくるのが見えた。
弘海さんだ!
手錠をされて全身ぼろぼろで足取りもおぼつかない。

「孝太郎…。」

弘海さんはその場で泣き崩れた。
すぐに孝太郎が駆け出して抱き止める。

「弘海、弘海…。」

「孝太郎、拓実が、満が…。」

「拓実は?」

「ごめん、ごめんなさい。拓実は途中で転んで、捕まったかもしれない…。満も、追いかけられて、あっちで、池に飛び込んで…。」

弘海さんが声を押し殺して泣いている。

「大丈夫だ。俺たちがきっと見つける。弘海、大丈夫だ。」

平林は既に弘海さんが指差した方向に向かって走っていった。

「俺一人で行きます。孝太郎さんは弘海さんについていて下さい。」

「亮平くん…。」

弘海さんを一人にするわけにはいかない。
俺は入り口に向かって走り出した。



床に落ちていた点滴スタンドのような物を持って病院の中を進んだ。
しーんとしている。人がいるような気配はしない。
何処に居るんだ?
孝太郎さん『弘海のフェロモン』って言ってたな。
拓実のフェロモンを感じれば良いんだ。
俺は目を閉じて神経を研ぎ澄ませた。
俺のオメガのフェロモン。
三歳で初めて会ったときから感じていた甘くて優しいフェロモン。
感じる…。怯えて俺を呼んでいる。 

「拓実!」

拓実のフェロモンに導かれるように走った。
すると急にぶわりとものすごい勢いで拓実のフェロモンが溢れ出したのを感じた。


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